治療前から、お口と歯のケアを始めよう! がん治療に伴う口腔合併症や感染症の予防と軽減 | ページ 3
お口のトラブルが起こったら?
主治医に相談し、うがい、冷却、痛み止めなどの適切な処置を
●口内炎
口内炎ができると発疹、潰瘍、痛みを伴い、食べること、話すこと、飲み込むことが難しくなることもあります。
口内炎ができたら、症状によって0から4まで5段階に分けられているグレード(下表A参照)に合わせて、うがいや冷却法、保湿剤の塗布などで対処すると、炎症の悪化を防ぎ、痛みを和らげることができます。
うがいは、食塩水やうがい液で1日5~8回、グチュグチュと約2分間すると効果的。うがい液の作り方、冷却用アイスボールの作り方等は、表Bを参考にしてください。アイスボールなどに使うエレースは医師に処方してもらいます。
市販の洗口水「絹水」等でうがいをしたり、保湿剤「オーラルバランス」「ウェットケアプラス」などを使うのもよいでしょう。
通常のアフタ(健康な人にできる)とよばれる5ミリほどの潰瘍の口内炎の場合は、「ケナログ」などのステロイド軟膏も効果的。
痛みが強く食事ができないときは、キシロカイン入りのうがい薬やポンタール・シロップで鎮痛効果が得られます。なお、キシロカインや各種の鎮痛薬は、医師の処方箋が必要です。入手できないものは、医師に相談してください。
有害事象 | グレード0 | グレード1 | グレード2 | グレード3 | グレード4 |
---|---|---|---|---|---|
口内炎/咽頭炎 | なし | 疼痛(痛み)がない潰瘍、紅斑または病変を特定できない程度の疼痛 | 疼痛がある紅斑、浮腫、潰瘍摂食・嚥下可能 | 疼痛がある紅斑、潰瘍 静注補液を要する | 重症の潰瘍 経管栄養、経静脈栄養または予防的挿管を要する |
対処法 | ・生理食塩水 ・ハチアズレ ・イソジンによるうがい | ・左と同じうがい ・または、ハチアズレ+グリセリンでうがい ・オーラルバランス等、市販の保湿剤を使用してもよい | 下記(1)(2)(3)を組み合わせる (1)ハチアズレ+グリセリン+キシロカイン、または生理的食塩水+キシロカインによるうがい。市販の保湿剤を塗布してもよい (2)エレース・アイスボールで口の中を冷やす (3)痛みが強いときは、局所麻酔薬、NSAID(非オピオイド系鎮痛薬)、オピオイド、モルヒネ等を症状に合わせて処方してもらう |
[表B うがい液、アイスボールの作り方・使い方]
うがい液 鎮痛薬 | 作り方・使い方 | 適応・注意 |
---|---|---|
万能うがい液 ■生理食塩水 | 水1lに食塩9gを溶かし、1日5~8回うがいをする | ⇒口内炎、口腔感染に。 重症で痛みが強い場合も、粘膜の刺激が少ない |
粘膜保護に ■ハチアズレ | 1回2gを微温湯100mlに溶かし、うがいをする | ⇒軽度の口内炎、粘膜炎、咽頭炎、扁桃炎に。 粘膜保護、治癒促進作用があるが、消毒作用はない |
消毒作用が強い ■イソジンガーグル | 1回2~4mlを水60mlで薄め、うがいをする | ⇒口内炎、咽頭炎、扁桃炎の感染予防、消毒に。 アルコールが含まれ、消毒作用がもっとも強い。刺激も強いので、注意する |
舌苔を除去 ■オキシドール | 口の中の部分的な消毒なら2~3倍に、洗口用なら10~20倍に薄める | ⇒口内炎、口腔粘膜の消毒、舌苔に。 口腔粘膜出血、口腔乾燥による粘膜同士の付着、舌苔の付着などの場合、剥離しやすく、口腔内を清浄化する |
治癒を早める ■ハチアズレ+エレース | ハチアズレ5包、エレース5V(びん)を水500mlに溶かし、1回50mlずつでうがいをする | ⇒放射線、抗がん剤の口内炎によるびらん、潰瘍粘膜の治癒促進に。 水に溶かして使うエレース(粉状)は粘膜の炎症をおさえ、治癒を促進。エレースの効果は持続しないので、1日で使い切る |
保湿もできる ■ハチアズレ+グリセリン | ハチアズレ5包、グリセリン60mlを水500mlに溶かし、うがいをする | ⇒口腔乾燥、放射線治療による唾液腺障害時の口腔乾燥に。 痛みがあるときは、これに、下記と同様にキシロカインをプラスしてうがいするとよい |
鎮痛薬入り ■食塩水+キシロカイン | 上の食塩水に4%キシロカイン5~15mlを添加。1回10mlを口に含みゆっくり2分間グチュグチュうがいをする | ⇒放射線、抗がん剤による口腔粘膜炎、咽頭炎、食道炎の嚥下痛に。 咽頭痛が強い場合は、少量飲み込むのもOK |
消炎鎮痛剤 ■ポンタール・シロップ | 食事の15分前、1回にシロップ10mlを飲み込む | ⇒放射線、抗がん剤による口内炎で、食事の際の痛みや嚥下痛が強いときに。 キシロカイン入りうがい薬と併用するとよい。抗がん剤のシスプラチンを使う場合は、腎障害のリスクが高まるので使用不可 |
冷却用氷片 ■エレース・アイスボール | エレース5V(びん)を水500mlに溶かし、丸型の製氷皿に入れて冷凍する。1日5~8回、口腔内をクーリング。1回3~5個をゆっくり溶かしながら飲み込む | ⇒放射線、抗がん剤による口腔粘膜炎の炎症や痛みが強いときの冷却に。 角がないボール状の氷なので、口の粘膜を傷つけずに冷却できる。ハチアズレは凍らせると苦いので、入れないこと |
●ヘルペス疾患
抗がん剤治療によって免疫力が低下すると、体の中に棲んでいるヘルペスウイルスが口の中に感染して増殖し、ヘルペス性の口内炎、口唇炎を起こすことがあります。小さな水泡がすぐ破裂して、潰瘍化し、強く痛みます。抗ウイルス剤の投与で治療します。
●カンジダ症
抗がん剤や放射線による免疫力の低下に伴い、口の中に棲むカンジダというカビの一種が増殖することによって起こります。
白い膜のようなものが口腔粘膜に付着するケースと、粘膜が赤くなり炎症を起こすケースがあります。前者は比較的簡単に見分けられますが、後者は歯科医師、医師でも鑑別が難しいもの。口腔粘膜がピリピリと持続的に痛むという訴えが非常に多いので、舌、頬、粘膜のピリピリ感に前記のどちらかの症状があればカンジダを疑います。
カンジダは真菌剤のうがいや軟膏の塗布で治ります。口内炎というとケナログなどのステロイド軟膏が処方されることが多いのですが、カンジダにステロイドを使うと悪化します。もし、ステロイドを使っていて、1~2週間しても症状に変化がないときはカンジダなどその他の口腔粘膜疾患を疑い、主治医の先生に相談するのが大切です。
なお、不衛生な入れ歯もカンジダ感染の原因になるので、専用ブラシで毎日磨き、夜間は市販の義歯洗浄剤を使い、義歯専用容器の薬液につけて保管してください。
●歯肉出血
強い口内炎を起こすと、潰瘍部分から出血することがあります。このようなときは、注射は使わず、局所的に止血剤のトロンビン末を生理食塩水に溶かして患部にあて、数分間保持して止血する、10から20倍に薄めたオキシドールを口に含み、ゆっくりはきだすなどの方法で対処します。また、血小板が減って重症の場合、血小板輸血をすることもあります。いずれも、主治医と相談してください。
●放射線による唾液腺障害、口腔乾燥、放射線性う蝕(虫歯)
放射線照射により耳の下などにある唾液腺(耳下腺)が障害されると、唾液の分泌が通常の10分の1程度に低下し、口の中が乾燥して、食べ物を飲み込めなくなったり、唾液が酸性化して歯のエナメル質が溶け、ひどい虫歯になったりします。
口腔乾燥の対策としては、保湿作用のあるグリセリン入りのうがい液(または市販のうがい液)でこまめにうがいをする、保湿剤を塗布またはスプレーする、食事などのときに人工唾液を使うなどの方法があります。
このほか、唾液の分泌を促す画期的な新薬・塩酸ピロカルピンの錠剤(商品名「サラジェン」)が昨年10月に承認され、発売されました(下写真参照)。唾液腺の分泌をつかさどる副交感神経を刺激して唾液分泌を促進するもので、健康な人では、服用後薬1時間で唾液がわくように出てきます。口腔の周辺への放射線の照射量が少ないほど、唾液分泌の回復が望めます。これまで唾液を出す薬はなく、うがい等に頼っていましたが、選択肢が増えたことは医師にも、患者さんにも朗報です。
なお、頭頸部領域の放射線治療前にフッ素塗布をしていない方は、治療後に歯科医で定期的に塗布してもらうか、フッ素入り歯磨きや洗口剤を日常的に使って虫歯を予防しましょう。

昨年10月に承認された新薬。頭頸部の放射線治療に伴う口腔乾燥に適応

食事のときに。かみやすく飲みやすくなる
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