抗がん薬の副作用で起こる口内炎を短期間で治す漢方薬「半夏瀉心湯」

監修:三嶋秀行 愛知医科大学病院臨床腫瘍センター教授・治験管理センター長
取材・文:柄川昭彦
発行:2013年4月
更新:2014年3月

エキス製剤を水に溶かし5秒以上うがいをする

■図3 半夏瀉心湯の使用方法]
■図3 半夏瀉心湯の使用方法

この臨床試験の対象となったのは、大腸がんのために抗がん薬治療を受け、グレード1以上の口内炎が発生した患者さんである。この人たちを無作為に2グループに分け、一方「半夏瀉心湯群」、もう一方を「プラセボ群」とした。

使用した薬は、半夏瀉心湯のエキス製剤(TJ-14)である。これを次の2つの方法で使用した(図3)。

◆使用法1……ぬらした綿棒や指などで、痛む部位に直接塗布する。
◆使用法2……残った薬をコップ半分程度の水に溶かし、口の中に5秒以上含ませる。

使用法1は必須ではないが、使用法2は必ず行う。また、口に含んだ薬は、原則吐き出すこととした。

薬の量は1回分が2.5gで、1日に3回、食後に行った。

この治療が、抗がん薬が投与されてから、次のコースが投与されるまで、2週間行われることになった。

口内炎の持続期間が半夏瀉心湯で半減

■表4 口内炎(グレード2以上)の持続時間]
■表4 口内炎(グレード2以上)の持続時間

この試験では、グレード2以上の口内炎の発生率が調べられた。半夏瀉心湯の塗布とうがいで、グレード2以上の口内炎が減るのではないかと考えられたわけだ。しかし、グレード2以上の発生率は、半夏瀉心湯群が48.8%、プラセボ群が57.4%だった。

「半夏瀉心湯群のほうが少ない傾向を示しましたが、明らかな有意差は認められませんでした。グレード2の範囲が広く、多くの患者さんがここに入ってしまい、差が出なかったのでしょう」

ところが、グレード2以上の状態がどのくらいの期間持続したかを調べてみると、半夏瀉心湯群とプラセボ群で明らかな差が現れた(表4)。

中央値で比較すると、グレード2未満に改善するまでの日数は、半夏瀉心湯群が5.5日、プラセボ群が10.5日だった。半夏瀉心湯による治療で、グレード2未満に改善するまでの期間が半減することが示されたことになる。

また、口内炎がすっかり消失するまでの期間は、半夏瀉心湯群が15.0日、プラセボ群が24.0日だった。

こうしたデータから、半夏瀉心湯の塗布やうがいは、口内炎の治りを早めることが明らかになった。

痛みを抑えるので食事ができる

半夏瀉心湯による治療で口内炎の治りが早まることが確認されたが、この治療には、痛みを抑える効果も期待できるという。

基礎的な研究により、半夏瀉心湯は炎症部のプロスタグランジンE2を抑制する作用が確認されているのだ。この作用は、非ステロイド性抗炎症薬の作用と同様のものだという。

「たとえ口内炎ができていても、痛みがなければ、食べることができます。つまり、痛みさえ抑えられれば、患者さんのQOLはかなり改善するということです。これは非常に大事な点で、口内炎の治療に半夏瀉心湯のうがいが勧められるのは、治りが早くなるのに加え、痛みを抑える効果が優れているからです」

半夏瀉心湯には、粘膜の傷害を回復させる作用も、炎症を抑える作用も、細菌の繁殖を防ぐ作用もあるが、口内炎にとって最も重要なのは痛みを抑える作用だという。

「今回の臨床試験では、半夏瀉心湯の塗布とうがいは、食後に行っています。しかし、これが最良の方法なのかどうかはわかりません。たとえば、食前30分くらいに行えば、痛みが抑えられて食事がしやすくなるかもしれません。こういったことに関しては、さらに研究を進めていく必要があります」

この半夏瀉心湯による治療では、副作用と呼べる問題は生じていない。口内炎以外の有害事象は、2群間で差がなかったことから、安全な治療と評価されているのだ。

「口内炎は患者さんが訴えないと、なかなか問題にされないので、医師や看護師にきちんと伝えることが大切です。最もひどかったときにどんな状態だったかを伝えるといいですね」

半夏瀉心湯による塗布とうがいは、がん化学療法で生じる口内炎に対する有力な治療手段となる可能性がある。研究が進み、この治療法が普及していくことを期待したい。

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