前立腺がん術後の重い尿失禁を改善!「人工尿道括約筋埋込手術」

監修●増田 均 がん研有明病院泌尿器科副部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2016年1月
更新:2016年3月


前立腺がんの手術から 1年後の状態で判断する

人工尿道括約筋の治療が適しているのは、重症尿失禁の人である。そのため、この治療が適しているかどうかは、基本的には、前立腺がんの手術後1年が経過してから判断することになっている。

「前立腺がんの手術後の尿失禁は、最初の6カ月間で急激によくなり、その後1年までは緩やかによくなります。そして、1年から1年半の間に、どの程度まで回復するかが決まります。そこで、1年経ってから判断するのです。また、前立腺がんの手術から何年も経過している人でも、重症の尿失禁に悩まされているなら、この治療が適しています」

一方、軽症の尿失禁に対しては、人工尿道括約筋による治療は勧められないという。

「優れた治療法ですが、コントロールポンプのボタンを押して排尿するので、自然排尿ではなくなってしまうのです。尿を溜めることができず全部漏れてしまう人は、もともと自然排尿ができなくなっているので、それでいいでしょう。しかし、自然排尿の機能が残っている人が、治療によってボタンを押さなければ排尿できなくなってしまうとしたら、それはやり過ぎの治療と言えます」

当然のことだが、人工尿道括約筋による治療を受ける際には、この治療のメリットとデメリットをよく理解した上で、判断することが大切である。

埋め込みから3年後の作動率は96%

体内に埋め込んだ人工尿道括約筋がどのくらい長持ちするのかについて、はっきりしたデータはないという。器具の改良が進んでいるため、最新の器具がどのくらい長持ちするのかは、なかなかわからないのだ。

「米国の古いデータでは、3年後の作動率が75%、5年後が70%、10年後が60%くらいとなっていました。現在のものは、それよりかなりよくなっていると思います。私が手術した患者さんがすでに100人を超えていますが、3年後の作動率は96%でした。この治療が日本で承認されてからまだ6年なので、どのくらい長持ちするのか、実際のところはわかっていません」

人工尿道括約筋の治療を行う医療機関は、徐々に増えてきているが、まだすべての都道府県で受けられるようにはなっていないという。したがって、前立腺がんの手術を受けた病院で、この治療が受けられるとは限らない。どこで受けられるかは、インターネットなどを利用して探す必要がある。

米国では、人工尿道括約筋による治療を多くの人が受けている。日本では年間300人弱だが、米国では年間4,500人ほどと言われている。

「米国人に前立腺がんが多いということより、重症の尿失禁という状態を我慢するのか、我慢せずに積極的に治療しようとするのかの違いなのかもしれません。治療することで重症の尿失禁から解放される人は、日本にはまだまだいるはずです」

そのためにも、治療できる医療機関がもう少し増える必要があるのかもしれない。

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