バイアグラや新たな注入薬で治療法はかなり進歩 もっと積極的に治療を! がんによる勃起障害 | ページ 3

監修:永井敦 川崎医科大学泌尿器科教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2010年4月
更新:2013年4月

先進国で唯一認可されていない

ところが、問題はプロスタグランディンE1の自己注射が、日本ではいまだに厚生労働省の認可を得られていないことです。

「陰茎海綿体自己注射は、すでに世界80カ国と2つの自治領で認められています。いわゆる先進8カ国の中で、自己注射が認められていないのは日本だけなのです」と、永井さんは嘆息しています。

2001年から、自己注射とプロスタグランディンE1によるテストの認可を求める委員会が立ち上げられ、活動を行っていますが、いまだにいい結果は出ていません。

「プロスタグランディンE1を陰茎に注射すると、勃起障害の有無を調べることができます。それで、労災認定では2006年に、本当に勃起障害があるのかどうかを調べるために、プロスタグランディンE1の検査が認められました。
そのときに、治療などの認可も求めたのですが、こちらは臨床研究のデータが不十分ということで、いまだに認められていないのです」と、永井さんは話しています。

勃起障害でバイアグラは効かないけれど、海綿体注射が効けば、神経障害と診断され、治療をすることができるのです。

そのため、現在永井さんたちは「自主臨床研究」という形で、陰茎海綿体の自己注射による治療を行っているのが、実情です。

実は、プロスタグランディンE1は「それ以前に自己注射に使われていた薬(塩酸パパペリン)を、より安全なものにしたいと、1986年に日本で初めて使われた薬」なのだといいます。それを行政側が認可しないという日本のおかしな実情がここにもあるのです。

ただ、政権が交代したことで、ここにきて少し動きがあり、認可の可能性が出てきたところだといいます。

「認可がおりれば、がんの患者さんだけではなく、脊椎損傷で勃起障害に陥った患者さんも助かるのですが……」と、永井さんは希望を持っています。

治療は生きる意欲の回復にも

保険が効かないので、永井さんたちは自主臨床研究として海綿体自己注射を指導していますが、今薬は1回分で3000円ほど。「価格はバイアグラの2倍ぐらい」だそうです。週に1~2回の使用を目安にしている人が多いといいます。

また、自己注射を続けることで、筋肉がゆるみ、海綿体の血流量が増えるので、注射自体がリハビリになり、自力で勃起できるようになる人もいるそうです。

副作用は、「血管を拡張する薬なので、全身に回ると血圧の低下を招く危険があります。あとは、注入するときに局所に痛みを伴��こと」だそうです。

まれに、勃起の遷延といって、プロスタグランディンE1が体内で分解されず、4時間~6時間も勃起が続くことがあるといわれていますが、永井さんは経験したことがないそうです。

「万が一そういう事態になったら、ただちに病院を受診してください」と永井さん。

動脈の損傷などで海綿体自己注射も効果がない場合は、最終的な手段として「プロステーシス」というシリコン製の棒を陰茎海綿体に挿入する方法もあります。しかし、この方法だと海綿体そのものが失われてしまいます。

「日本の場合、バイアグラも海外ほどは伸びていません。自己注射が無効のためプロステーシスの挿入まで求める人は、あまりいない」そうです。

がんを克服する人が増えた今、その後の人生をいかに元気に楽しく過ごすかが、課題になっています。男性機能の回復は、その大きな手段の1つ。

「ここに来る患者さんは、60代前半から75歳前後が多いのですが、薬や自己注射で性機能が回復すれば、生きる力にも意欲にもなるのです」と永井さんは語っています。

実際に、永井さんの講演や報道をみて、全国から問い合わせがきています。保険で認可されていないこともあり、現在自主臨床研究という形で自己注射ができるようにしている施設は、全国で10数カ所ほどですが、永井さんは「パートナーとの生活を向上させるためにも、積極的に性機能障害の治療を受けてほしい」と語っています。

[勃起障害の治療指針]
図:勃起障害の治療指針

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