乳がん治療後の性の悩み対策とアドバイス
手術の方法より、それぞれのカップルの性的結び付きの重要度が、悩みに影響
手術の範囲が大きいと性の悩みも深いのでしょうか。
「術式の違いが性の悩みに影響するのではないかと推測していたのですが、それよりも、そのカップルにとってセックスや乳房がそれまでどのくらい重要だったかという性的結び付きの重要度、性的コミュニケーションの程度、その女性の術後の乳房に対する受容度などのほうが、悩みに強く影響していると感じました」
インタビューを進めるうちに、予測していなかったこともいろいろ出てきたそうです。
「夫とのセックスは術後も問題ない、と答えていた女性に、手術のあとをご主人がご覧になったのはいつですか、と問いかけると、まだ見せてない、との答えが返ってきたこともあります。以前は隠さなかった乳房を、術後は隠すようになったそうですが、セックスは服を脱いでするもの、というのは単にこちらの思いこみだったわけですね。乳房を見せないほうが楽なのなら、それもありだと思いました」
女性として、考えさせられる発言もあったといいます。
「セックスが苦痛を伴う場合、男性ならそんなつらいセックスはしないでしょう。ところが女性の場合、ご自分は二の次で、パートナーを性的に満足させることが大事と思っているケースもあるわけですね。パートナーがかわいそう、という発言を聞くと、その女性にとっての性というのは何だろう、と考えさせられることもありました」
性を大事にする度合いや結びつきをキープする方法は、カップルによって随分違うもの。
「今までの研究では、腟とペニスの性交に焦点があてられ、物理的に結合できればOK、という論調がほとんどでした。じつは医療者側も患者さんたちの状況がよくわからず、治療後の性については、パートナーが思いやりをもちましょうと言う程度で、具体的な工夫までは提言できなかったところがあります。医療者側も、性交そのものだけに焦点を合わせた答えを押しつけるのではなく、カップルのコミュニケーションをサポートする視点が必要でしょう」
パートナーと言葉に出し合う攻撃的な伝え方は避け
ソフトな表現で小出しにするのがコツ
では、実際にセックスの悩みがあった場合は、どうしたらよいのでしょう。
「まず、パートナーと性について言葉でコミュニケーションすることが大切」と高橋さんは提案します。
「お互いに察してくれるだろう、と思っていると、誤解が深まることがあります。性に関して言葉で伝え合うのはなかなか難しいことですが、今まで以上にその努力は欠かせないと思います」
セックスを再開するにあたっても、言葉による理解がないと、お互いの配慮がすれ違ってギクシャクするケースがあるとか。
「パートナーが愛情表現のつもりでセックスを求めたとしても、女性の側に心身の準備が整っていないと、どうしてこんなにつらいときに求めるの? という怒り���なることがあります。逆に、パートナーがいたわりの気持ちからセックスを控えているのに、私に魅力がないせい? と心配する女性もいます。お互いに察しあうのも大事でしょうが、心身の準備ができたときは、“再開OKよ”、つらければ、“まだ今は元気が出ないけど、もう少し待っていてね”、と言葉で伝える姿勢がより重要でしょう。パートナー側も同じです」
言葉の選び方、伝え方も大切なポイント。セックスに前向きになれないときでも、拒絶と受け取られないような表現を考えるといいようです。直接的な表現がしにくいときは、「先生がもう再開しても大丈夫だって」と医師のセリフとして伝える方法もあります。
「再開のタイミングは、セックスしてみてもいいかな、とカップルの双方が無理なく思えるときがよいのでは?」
セックス再開後も、腕の動きが完全でないときに急に動かされると非常に痛い、傷痕に触れられると不快、ということがあります。「痛いのにずっとがまんをしていると、こらえきれなくなったときに“痛い! やめてよ!”と攻撃的な言い方をしてしまいがち。がまんしないで、“今、そういうふうにされると痛いの。こっち側は大丈夫よ”、などと、ソフトな言い方で伝えるといいですね」
女性がパートナーを満足させることを重視している場合は、よりがまんする傾向があるので、自分を抑え過ぎないように。
「術後はどこが不快なのか、痛いのか、実際に触れ合ってみないと自分も相手もわからない。1回がまんしてしまうと伝える機会を逸するので、ここは優しくしてほしい、と一つずつ教えてあげるといいですね」
相手が期待通りの反応をしなかったとしても、めげずに少しずつ小出しにして言葉にし続けることが大切、と高橋さん。
「パートナーもその状況を受け入れるには時間がかかるのです。お互いに少しずつ理解しあいながら、だんだんに慣れていくとよいのではないでしょうか」
乳房を見せるかどうかは、カップル次第日本の男性も捨てたものではない!
手術後の乳房をパートナーに見せるかいなか、そのタイミングも難題です。見せることで、魅力がなくなったと思われるのでは? と心配な方もいらっしゃるかもしれません。
「術後の乳房の変化にご自身が少なからずショックを受けていれば、パートナーにも見せたくない、という気持ちになって当然だと思います。ただ、形の変化を気にする男性もいないとは言えませんが、インタビューでは配慮のある男性が多くみられ、私は日本の男性も捨てたものではないと思っています」
外国の論文には、術創は早めに見せるほうがよい、セックスも早めに再開を、と勧めているものもあるとのことですが、「いつまでにこうする、と決めるのではなく、それぞれのカップルにとって、ラクな方法を選べばよいでしょう」と高橋さん。
「まだ見せたくないときやパートナーがためらっているときは、ブラやキャミソールのままゆっくり抱き合うのもよいし、セックスをするのもよいでしょう」
乳房や乳頭にパートナーが触れないことで、寂しく感じたり、快感を得にくくなったりすることもあるかもしれません。
「術前のパターンにこだわらず、新しい性感帯を二人で見つけるチャンス、ととらえてみたらいかがでしょう。最初はうまくいかなくてもがっかりせず、第2の初夜のつもりで、今までとは違った快感をこれからお互いに開発してみては?」
術後に性的な結びつきが大事なものだと改めて認識し、以前よりその時間を大切に過ごすようになったカップルもあるそうです。
腟の潤い不足には潤滑ゼリーや専用のコンドームでフォロー
乳がん手術後の化学療法やホルモン療法、放射線治療によって起こる身体的な変化についても頭に入れておくと、対処しやすくなります。
「抗がん剤による化学療法を行っている場合、卵巣機能が低下して、腟の潤いが失われることがあります。とくにエンドキサン(一般名シクロフォスファミド)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)、ファルモルビン(一般名エピルビシン)などはその傾向が強いですね」
化学療法中は、吐き気や疲れなどがあり、セックスどころではない、ということも。
「ホルモン療法のLH-RHアナログやタモキシフェンでもエストロゲンが抑えられ、潤いが減り、乾燥感が強くなることがあります。ただ、腟の潤いは性感と平行して現れるものですから、ホルモンレベルだけでは説明がつかないこともあります。放射線治療では乳房の感触の硬化がみられます。腟の潤い不足や性交痛対策には、リューブゼリー(下のコラム参照)や潤滑剤つきのコンドームを利用するとよいでしょう」
子宮頸がん、体がん、卵巣がんなど婦人科系のがんで卵巣を摘出したときの潤い不足や性交痛にも効果的です。
高橋さんは最近、外科のドクターから治療後の性についての講演会を依頼されることが増えているとか。身近な主治医に、だれでも性の悩みを気楽に相談できる--。そんな日が遠からず訪れることが望まれます。
腟の潤いを補うゼリー
「ゼリーは水で洗い流せる水溶性のものを。油性のワセリンやオリーブオイルの使用は避けてください。多めにつけて、途中で足りなくなったら補充して」(高橋さん)。ゼリーは薬局のコンドーム売り場近くで市販されています。通販でも入手可能。
『ボディイメージ、セクシュアリティとがん』はイギリスの非営利団体キャンサーリンクの小冊子を翻訳したもの。かながわ・がんQOL研究会発行。患者さんには送料のみ、その他は1冊500円で配布。
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