時間が解決してくれないことも がんで大切な人を亡くしてつらいときは「遺族ケア外来」へ
長引く悲嘆へのカウンセリングの実際
「自分を責めている人に対しては、『やむを得ないことだった』と気づけるように一緒に考えていきます。例えば、『父親に医療用麻薬を勧めたけれど、そのせいで死が早まったように思えて後悔している』という人の場合、父親が亡くなったことに対するつらさが、自分への攻撃に形を変えている可能性があります。
そこで、もう1度医療用麻薬のことを勧めたときの場面を確認し、『お父さんがすごく痛がっていたとしたら、やはり苦しみを除いてあげたいという気持ちになりますよね』と、一緒に*リフレーミングする作業を行います。誤解を解くようなやりとりを行って、強い後悔や自責の念を緩和できるように導くわけです。ときには、選択した治療法や看取りで問題はなかったと、明確に伝えることもあります」
なかには、いつまでも遺品の整理ができない人もいる。
「遺品の整理ができないのは、大切な人が亡くなったことを認めたくないからです。遺品整理を行うことは、亡くなったことに向き合うことになります。ですから、それを避ける行動をする。心理学では、これを『回避』といいます。
亡くなった病院に行けない、一緒に歩いた散歩コースを歩けないなども同じ回避行動です。そのような場合、亡くなった人との思い出をたくさん語ってもらい、たくさん悲しんでもらいます。また、しっかり悲しんでもらう方法の1つとして、ときにはそれまで避けていた思い出の場所に、がんばって出かけてもらうこともあります。
複雑性悲嘆療法のプログラムの中では必ず行いますが、なかなか悲嘆から抜けだせない人には、『出来ないことリスト』を書いてもらいます。『故人が好きだった歌が聴けない』『故人の部屋の整理をすることが出来ない』など、たくさん出来ないことをあげてもらい、出来そうなものから少しずつ取り組んでもらいます。とくに、亡くなったまさにその時の場面を語ることは、遺族にとっていちばんつらいこと。でも、あえて語ってもらうことで、亡くなったことを認められるようになり、このようなやり取りを繰り返すことで、トラウマ記憶から普通の記憶、思い出になっていきます。これは、重い悲嘆の人に対して効果があると実証されています」(清水さん)
*リフレーミング=ある枠組(フレーム)で捉えている物事をその枠組みを変えて、違う枠組みで見ること
励ますよりはその人の気持ちを理解することが大切
最後に、「身近な人の言葉で傷ついた」という遺族の話を聞くことがあるが、まわりにいる人は、遺族に対してどのようにサポートすればいいか訊ねた。
「その人の気持ちを理解することが一番ですね。『そろそろ前を向いたら』とか、『あなたより大変な人もいるのだから頑張って』など、〝こうしたほうがいい〟というアドバイス的なことはあまりしないほうがいいと思います。
遺族を前にすると、どうしても慰めたり、励ました���、元気づけようとしがちですが、まわりにいる人が無理に明るくしようとする必要はありません。ご本人が悲しむことに意味があるのです。何も言わずに話を聞くことが、本人の助けになるのです。相手が悲しんでいるときは、ただ傍にいるだけでいいのです」と、清水さんはアドバスをくれた。
大切な人との死別についての欧米での研究で、悲嘆の遷延化はうつ病のリスク、QOL(生活の質)の低下、免疫機能の低下などさまざまな心身の健康に重大な影響を与えているとの報告がある。愛する人を亡くして悲嘆が強くまた長引くようなら、心の傷を放置せず、遺族外来を受診してほしい。