「がんの倦怠感」調査結果 がん患者さんの多くは倦怠感を感じている。しかし、それを医師には伝えていない

撮影:板橋雄一
発行:2010年1月
更新:2013年6月

患者さんの訴えを、チームで連携して聞き出す

アンケートでは、「とても倦怠感を感じている」人でも、倦怠感を感じていることを医療者に伝えている人は7割に満たないとの結果でした。

[倦怠感を医師や看護師などに言っていますか]
図:倦怠感を医師や看護師などに言っていますか

坪井 医療者としてはできるだけ患者さんに具体的な言葉をかけて、訴えを引き出すことが問診の基本です。肺がんでわずかに血痰が出ている患者さんに「調子はどうですか」だけ聞くと、患者さん自身の判断で大丈夫と思っていると「なんともない」と言われてしまいます。一方、患者さんの中には不調を感じていても特定の主治医にしか言わないという人もいらっしゃいます。チーム医療を信頼し、チームの誰にでも相談してもらいたいと思います。

蘆野 私たち医師が聞かないと、患者さんは倦怠感などの症状を言ってくれません。そして、倦怠感は患者さんから聞き出さなければ評価ができない。評価ができないと、対応もできません。当院では今、元看護師長にボランティアで患者さんの話を聞いてもらっていますが、患者さんには大変好評のようです。

中村 診察時、食欲や睡眠状態については患者さんに確認していますが、それ以外を聞くには、その人がどういう生活をしているかを知る必要があって十分聞けていないというのが実情です。私たちの病院には訪問ボランティア制度や患者さんのサポートグループがあり、そういうところに活路を見出そうと思っています。

田中 患者さんをサポートしていて感じるのは、身体症状と精神的部分の訴えが混然としていることです。しかし、中には同じ治療を受け、同じ身体症状が出ているのになぜかしんどそうでない人がいます。そういう人はしんどいときに助けてくれる友達がいるとか、しんどさを逃がす工夫が上手な気がします。

症状を和らげるには患者さんに語ってもらうことが必要

最後に、患者さんが、倦怠感の症状を改善するにはどうしたらよいのか――。医療者や患者さんを支えるNPO団体ができること、取り組みたいこと、患者さんに伝えたいことなどをお聞きしました。

田中 倦怠感の症状を和らげるには、とにかく先手必勝と感じました。「言わないから聞かない」では、倦怠感は認知されません。患者さんに、何とか語ってもらう方法を考える必要があると思いました。

蘆野 終末期の患者さんだけでなく、抗がん剤や放射線治療でも倦怠感を訴える人が多いことに驚きました。そうした患者さんに対しては、日常生活のつらさについて話を聞き、サポートする場を医療者がつくることが大切と感じました。

坪井 患者さんが、医師にストレートにものを言うことはとてもいいことです。そのことで患者さん自身も救われるし、医師も患者さんとの気軽なコミュニケーションを求めています。患者さんには、医師は崇高ではなく、身近な存在で、対話を求めるのはいいことなんですよ、と言いたいですね。

東口 終末期の患者さんの場合、倦怠感をとらなければケアにならないので、使える手は全部使います。中でも強調したいのは、栄養状態。栄養状態がよいと生活の質(QOL)が上がり、倦怠感も薄らぐことがあります。今後は、その科学的根拠をさらに明確にする必要がありますし、終末期だけでなく、治療中の患者さんの生活に役立てる取り組みをしていきたいです。

中村 倦怠感は多くの患者さんが抱えていながら、医療者が取り上げてこなかったテーマですが、治療の指標の1つとして前向きに取り組んでいくことが必要とあらためて感じました。

ワーキング・グループを立ち上げ、倦怠感の実態をつかむため、がんサポートとともにアンケート調査を行ったキャンサーリボンズでは、NPO法人として今後も倦怠感の問題に取り組んでいくとしています。

岡山 キャンサーリボンズでは、ワーキング・グループを始めるにあたり、まず倦怠感を表す言葉を全国から募集しました。想像以上にいろいろな言葉があり、その言葉の背景にさまざまな生活があるのだということに気づかされました。だからこそ今回の調査を分析するにあたっては、「伝える」「理解する」というコミュニケーションの大切さに着目しました。さらに調査結果から患者さんが日常生活のどこに軸足を置き、QOLが保たれているかどうかで、倦怠感の感じ方も大きく変わるのだということも読みとることができ、「治療と生活」をつなぐというNPO法人の活動コンセプトの重要性を感じています。今後「食事・栄養」「働くこと」「美容」などさまざまな生活場面の中で、倦怠感のサポートとして何ができるかを考え、取り組んでいきたいと思っています。

倦怠感については、社会全体のサポートが必要であるとともに、患者さんには倦怠感を感じていることをもっと声に出して医療者に伝えてもらいたいと考えています。

(文/半沢裕子)

[倦怠感を表す言葉]
図:倦怠感を表す言葉

同じカテゴリーの最新記事