化学療法中のストーマ対策は ストーマ周囲のスキンケアから
皮膚障害が起こったら ステロイド軟膏を使う
「基本的スキンケア」を行っていても、皮膚障害が起きてしまうことはある。その場合、必ず医師を受診することが大切だ。自分の判断でかゆみ止めなどを塗ると、悪化させてしまうこともある。
抗がん薬使用に伴うストーマ周辺の皮膚障害の治療について、工藤さんは「現在私が行っている軟膏の塗り方に対して、有効性へのエビデンス(科学的根拠)はありませんが」と前置きし、「抗がん薬の治療を受けるときには、ステロイド軟膏を処方されることが多く、これを正しく使うことが大切です」と強調する。
ストーマ周囲に用いる場合には、ローションタイプのステロイド薬を処方されることが多いが、ローションタイプは皮膚に刺激を与えることがあるため注意が必要である。ステロイドを滲み込ませたテープもあるが、これは装具が密着しづらい。
最も適していると考えられるのがステロイド軟膏である。ただし、それにも使い方にはコツがある。なぜなら、軟膏塗布後に装具をそのまま貼ると、装具が密着せず便漏れを起してしまうからである。そのため、「皮膚の症状が限られている場合は、必要な部位にだけ軟膏を塗ってください」と工藤さんはアドバイスする。
広い範囲に軟膏を塗布する必要がある場合は、ステロイド軟膏を塗布した後、15~20分ほど放置する(排泄物が皮膚につかないよう注意する)。その後乾いたペーパーで油分を拭き取り、そして濡れた不織布で軽く拭き取る。
さらに乾いた不織布で水分を拭いてから装具を貼る。皮膚症状が重度の場合には装具を一時的に変更して、軟膏が数回塗布できるような工夫をする。
手足症候群や末梢神経障害への対処
大腸がんの治療に使う抗がん薬の中には、手足症候群や末梢神経障害を起こしやすいものもある。どちらも、重症化すると指先の痛みで、ボタンをかける、ペットボトルを開けるといった指先を使う細かい作業もできなくなり、ストーマ装具を扱うことも負担となる。
予防は難しく、対策としては、化学療法を開始する前にこうした副作用が現れることを予測して、面板の剥離紙が剥がしやすいもの、予めストーマの大きさに合わせた孔が開いているもの(プレカット)、排泄物を捨てる排出口が操作しやすいものなどを選んでおくことが大切である。
家族のために大切な 抗がん薬の曝露対策
昨年(2015年)ごろからとくに、排泄物による抗がん薬の曝露対策について、患者や家族へ指導・教育を行うことが求められてきている。
抗がん薬は正常な細胞にもダメージを与える。抗がん成分が飛んだり、垂れたりして肌に着いた場合、皮膚炎や結膜炎、めまいなどを起こしたという報告もある。
投与後およそ48時間以内で、抗がん薬は便や尿から排泄されるため、抗がん薬投与を受けた人の排泄物には抗がん薬が混じっているということになる。そのため、排泄物の処理などに気をつける必要がある。
実は、医療従事者においても、特別な注意喚起がされるようになったのは最近のことである。近年は、通院での抗がん薬投与が増えたことから、患者やその家族にも注意を促す必要があるとなったのだ。

ただ、「過度に不安になる必要はありません」と工藤さんは言う。
医療従事者と比べて、家族が接する抗がん薬の種類は限られる。注意する期間も、その患者が抗がん薬の投与を受けている間だけである。患者自身は、抗がん薬を使用しているため影響を考慮しない。
注意すべき点(とくに48時間以内)は、右表の点だ。
ストーマについての相談は 専門知識をもつ医療従事者へ
化学療法中に限らず、ストーマについての不安や疑問は、「通院先でストーマに詳しい医療従事者に相談していただきたい」と工藤さんは話す。
「ストーマ外来を設置している医療機関は増えているものの、残念ながらまだ十分ではありません。もし、通院先の病院にストーマ外来という表示がない場合でも、ストーマケアを専門的に学んだ皮膚・排泄ケア認定看護師がいることもあります。ぜひ、問い合わせてみてください」
日本創傷・オストミー・失禁管理学会のホームページでは、ストーマ外来のある医療機関を検索することができる。都道府県単位で検索できるほか、他施設からのストーマ造設患者の受け入れの可否も示されている。
「人生のその時々で、ストーマとの付き合い方も変わってきます。専門家の知識を利用して、ストーマと上手に付き合い、よりよい生活をしていただきたいと思います」
最後に、工藤さんはこのように呼びかけた。