適切なリハビリで快適な食生活を がん治療に伴う嚥下障害とその対策 | ページ 3
手術後の嚥下障害にはどう対処する?
がんの部位や治療法によって、対処法も変わってくる
手術や放射線治療後の嚥下リハビリは、主治医、リハビリ科の医師、言語聴覚士(ST)、管理栄養士、看護師などがチームを組み、入院前から連携プレイで行われるのがベストですが、退院後、嚥下障害にお悩みの方も、辻さんの指導による以下の方法を家庭でのケアの参考にしてみてください。
頭頸部がんの手術後
舌がんでは、腫瘍とともに舌が一部または全部切除されるため、食べ物を口の中で処理できなくなり、のどへ送り込めなくなります。
咽頭がんでは、舌根部(舌の根元)や咽頭後壁(のどの後ろ側壁面)の切除によって、のどの圧力が低下し、食べ物がのどにひっかかったり、残ったりしやすくなります。
これらのがんでは、おなかや大腿部の組織を移植して、欠損部が再建されることが多いのですが、機能まで元通りになるわけではないので、適切なリハビリが必要です。
●嚥下リハビリのポイント
・口の運動で間接訓練
手術後3日目くらいから、唇、頬、顎、舌など口腔器官の運動を始めます。舌がんの手術後なら、唇を突き出す運動や口の開閉、唇をすぼめたまま左右に動かす横引き運動、頬をふくらませたりへこませたりする運動などから開始。咽頭がんの手術後は、舌の運動も行います(下図参照)。

・すぼめたまま、左右に動かす

・舌圧子(または割り箸)を噛む

・舌を左右に動かし口角につける
・舌を上下に動かし、上唇、下につける
・舌圧子を舌先で押す

・頬をふくらませ���り、へこませたりする
・メンデルゾン手技で喉頭挙上
舌がん、咽頭がんとも、手術後は喉頭(のど仏)が持ち上がらなくなることが多いもの。つばを飲み込む空嚥下のタイミングに合わせて、患者さんまたは介助者が、親指と3指でのど仏をはさむようにして持ち上げる「メンデルゾン手技」(下左イラスト参照)を行うと効果的です。


・氷水に浸した綿棒等で、図の部分を数回こすり、刺激する
・アイスマッサージで嚥下反射を促す
口腔や咽頭の切除範囲が広く、頸部郭清や気管切開が行われている場合は、口の中や、のどなどが腫れて、嚥下反射が起こりにくくなります。このようなときは、嚥下反射誘発部位に冷却刺激を与えて嚥下反射を促す「アイスマッサージ」を試してみましょう。綿棒や口腔ケア用のスポンジブラシ(薬局、病院の売店、通販などで販売)の先を氷水に浸し、舌の奥、軟口蓋(上あごの奥の柔らかい部分)、咽頭後壁(のどの奥)を数回左右に刺激し、口を閉じて唾液を飲み込むように促します(上右イラスト参照)。
・食物を使って直接訓練
術後1週間目にVF検査を行えれば、嚥下機能を評価し、誤嚥せずに飲み込める1口量や姿勢などを確認した後、食べ物を用いる「直接訓練」を開始します。
「液体は散らばりやすく、むせやすいので、増粘剤(薬局や通販で市販)や片栗粉でとろみをつけた液体、ペースト、ゼリーなどから始めるのがコツです」
誤嚥なく、うまく飲み込めるようになったら、煮たりゆでたりした軟らかめの食材を細かくきざんだキザミ食、軟らかめの食事へと進めていきます。
咽頭がんの手術後は、とろみつきミキサー食や、ゼリー食からスタートするのが普通です。
舌がんの手術直後は舌で食物を送り込みにくいので、のどに支障がなければ、最初はすすったり、上を向いて液体を流し込んだりして飲み込み、だんだんに舌でうまく送り込めるように練習していきます。
・1口量や姿勢にも注意
「誤嚥しやすい場合は、1口の量や食べる姿勢を見直してみましょう」
リハビリ科では、最初は1口1cc~2ccと、ごく少量から始め、10口、20口と増やしていきます。1口の量が多いと誤嚥しやすくなるので、小さじ程度の小さめのスプーンを使い、飲み込み終わってから、次の1口へと進めます。飲み込んだ後、2~3回つばを飲み込む空嚥下をはさむと、のどに残った食物を食道に移動させやすくなります。
「食べるときの姿勢によっても、誤嚥を防ぐことが可能です」
食道は背中側、気管はおなか側にあるので、上体を後ろ側に倒すと、食物が食道に降りていきやすくなります。家庭では、座椅子やリクライニングチェアの背を少し倒して食事をするとよいでしょう。のどの働きも左右で違うことがあるので、片側に倒すなど、食べるときの姿勢や角度、飲み込み方などを工夫してみてください。(注1)
・口腔ケアも忘れずに
「頭頸部がんの治療後は、口の中が不衛生になると細菌やウイルス感染のおそれがとくに強くなりますから、訓練や食事の後には、手術痕や口の中を傷つけないように注意しながら、うがいや歯磨きなどの口腔ケアをしっかり行うことが大切です」
注1=食物がのどに残っているときは、何度も唾液を飲み込むか少量の水分やゼリーを丸飲みする。嚥下反射が弱い場合は、顎をやや引いて飲み込む。のどの通過に左右差があるときは、リクライニングさせ、健常側を下にして、横向きで飲み込む。舌がんの手術後などは、重力を利用して頭部を後ろから前へ倒して飲み込む「うなずき嚥下」も有効