胃を手術した人の食事の工夫
食事は1日5、6回に分ける分食が基本。胃の代わりに口を使い、
よくかんで少しずつ飲み込み、腸の負担を軽くするのがコツ

胃を手術した後の症状や食べられる食品は、体質や腸の強弱、手術の方法などによって非常に個人差があります。
「胃がない代わりに、口でよくかみくだいて、少しずつ飲み込み、ゆっくりと腸に送り出して腸の負担を軽くすることが最大の対策ですね。トライアンドエラーでいろいろな食品を試し、自分に合う方法を見つけてください」(久本さん)
手術後の食事の注意点をまとめると――。
(1) 1回の食事量は少なく、食事回数を多めに。退院後2、3カ月から半年くらいは、1日3食のほか、ビスケットや果物などで2、3回の間食をとり、補います。
(2)よくかんでゆっくり食べる。唾液には消化酵素が含まれているので、食べ物と唾液がよく交ざり合うようによくかんでから飲み込みます。いったん箸を置いてかむ気持ちで。
(3) 食事時間を決めて、規則正しく。時間を守って食べると、食べ物を受け入れる態勢が整い、便通も安定します。
(4) 食事は段階的に。術後2、3カ月から1年くらいは、細かく刻んだり柔らかく煮込んだりした消化のよいものを。繊維質の多い食品は少しずつ増やしていきます。フライやてんぷらなどの揚げ物は、少量なら最初から食べられる方もいる一方で、術後何年たっても食べられない人も多いものです。
(5) 栄養バランスを考えたメニューを。胃切除後は、カルシウムも吸収されにくくなりますから、小魚やヨーグルトなどで補給して。
(6) 食べ過ぎに注意。逆流性食道炎や腸閉塞、ダンピング症候群の誘因になるので、腹8分目に。
(7) 楽しい雰囲気づくりを。つかえや逆流、胸焼けなどに悩まされて、食事が苦痛になる方も。家族の方は「食べないと元気になれないわよ」などと無理強いせず、気長につきあってください。
- 起きがけに湯冷ましをコップ2杯飲む(毎日快便)
- 毎朝オリジナルドリンクを飲む(牛乳・きなこ・はちみつ・フレーク入り)
- 毎朝ラジオ体操、朝夕の散歩で体を動かす
- 食べ過ぎず、適度に間食をとる
- ビタミン剤を飲む(胃を切ると吸収されにくくなるビタミンB12の補給)
- 起床・就寝時、外出から帰ったらのどの奥までうがいをする(誤嚥性肺炎・風邪などの予防)
- 寝るときは枕を高くして食べ物の逆流を防ぐ
胃の手術後の食事・私の工夫 1
ミキサーを活用し、消化のよい食べ物を工夫
東京都・坂谷俊一さん(78歳)
平成8年に胃の全摘手術を受け、2週間で退院しましたが、���院でもらった献立表はあまり役に立たず、食事の時間は恐怖でした。食べなければからだに悪いと思い、少し食べると胸につかえてしまいます。水かお茶で流し込もうとしても、上に重なってただ苦しいだけ。立ち上がって5~10分、食物が自然に落下するまで、胸をなでながら待つよりほかありません。そのうち、つかえる食品がわかってきました。カボチャやサツマイモ、赤飯、ラーメンや皿うどんは○、肉ジャガ、かためのご飯やおにぎり、ソバは×。魚では、ギンダラやサバ、バッテラの寿司はOKですが、タイやブリ、アジはよくかんでもつかえる。繊維の粗さの違いによるのでしょう。
カップ式の小さなミキサーは便利ですよ。タマネギ、ニンジン、ひき肉、トマト缶を炒めて、しょうゆ、砂糖、塩で味付けし、ミキサーで粉状にした乾燥ワカメかヒジキ、干しエビ、ニボシ、干しシイタケを混ぜ合わせて、ポリ袋に小分けして冷蔵しておきます。これを、毎朝フライパンで熱し、溶き卵を入れて、具入りスクランブルドエッグに。食べるときにすりおろした長イモを加えるとのどごしがよくなり、栄養満点、味も消化もよい三拍子そろったおかずになります。キャベツやレタス、バナナ、ヨーグルト、ハチミツ、牛乳をミキサーで撹拌したミックスジュースは整腸作用があり、便通をつけるのにも効果的。
せんべいやみかんは食べ過ぎると、腸閉塞になるので注意しています。風邪薬は胃で糖衣錠が溶けるようにできているので、錠剤なら砕き、カプセルははずして飲みます。ムカムカして逆流しそうなときは指を入れて黄色い液を吐き出し、うがいした後、粘膜を保護するアシドレスという薬剤をキャップ1杯飲むとすっきり。
食べた後は10分くらい近所を歩いて体を動かすと逆流予防に。運動は腸の蠕動運動を活発にさせ消化促進をはかるのに有効だと思います。手術後は本格的に始めた社交ダンスに励み、今ではシルバー対象に月4回教えていますが、楽しみをもつのも病気克服のカギですね。
胃の手術後の食事・私の工夫 2
梅干しや酢の物で唾液腺を刺激
兵庫県・森田任言是さん(73歳)
平成12年7月突然血を吐いた。胃の噴門部のがんと診断され、ルーワイ法で手術を受けた。脾臓、胆のうも全部摘出してもらった。退院したときの食事は7分粥であった。退院当初はいわば盃単位での摂食であった。一口か二口で胸のあたりに『つかえ』、食事は一時停止。『つかえ』がおさまるのをただ待つしかなかった。その間およそ20~30分。最悪の場合は激しいシャックリを連発、ついには我慢できなくなって嘔吐してしまう。嘔吐するとスッキリするけれども、それでは食事の目的が達せられない。日時を経て少し慣れてくると[1]1回に口に入れる食物の量、[2]かみ砕いた食物を食道へ呑み下す時間的な間隔、などの要領がわかってきて『つかえ』の頻度は確かに少なくなった。
現在私が『効果あり』と信じて実行しているのは次のような事である。
1. 1日の食事は5~6回に分けて摂る
通常の朝、昼、夕のほか、2回または3回の間食。
間食はたとえば次のようなものの中から適宜準備しておいて摂取している。カステラ、チーズ、ヨーグルト、めざし、みりん干し、豆腐、削りかつおぶし、やきとり、そうめん、ゆでたまご、バナナなどなど
2. 唾液の分泌を促し、食物が食道を通過するのを円滑にする。
(1) 食前に梅肉を小さじ1杯口に含み、あごの下から唾液腺を刺激する。
(2) 献立に必ず「酢の物」を組み込む。
たとえば「大根おろし」にしらす干しをまぶし、二杯酢で。このとき私は敢えてよく干しあげた固めのしらす干しを使うことにしている。消化が悪いのにと思われるだろうが柔らかい釜揚げしらすよりも『つかえ』なかった。固いしらすだとよく噛まないことには喉を通らないから必然的によく噛むことになる。これはまさに「なくなった胃の補いには脳を使え、口を使え」という教訓の実践だと思っている。
3. 『つかえ』たらすぐさまストレッチ。
『つかえ』ると予感したら、私は直ちに梁に手を掛け身体を前に突き出して全身を弓なりに反らすストレッチを5~6回繰り返す。『つかえ』がより早く収まるような気がする。
胃の手術後の食事・私の工夫 3
胸焼け& 腸閉塞克服10カ条
茨城県・田中俊英さん(52歳)
平成14年に、胃上部の進行がんで、胃と脾臓を全摘しました。術後6日目から流動食が始まりましたが、横になると食べたものが逆流するようになり、「逆流性食道炎」に。焼け火箸がジワッと上がってくるような熱さを感じる胸焼けのひどいもので、アルロイドGという薬剤が手放せませんでした。術後6カ月で、腹部の左下が痛くなり、てっきり胆石だと思っていたら、腸閉塞とのことで2週間入院。苦しい思いをしたので、アルファ・クラブの本を参考にしながら、軽減法を見つけました。
(1) 最低20回はかむ。
(2) 食べ始めに、とろろ芋、納豆、モロヘイヤ、オクラなど粘りのあるものをとる。白飯もよくかんで粘りのあるものと一緒に食べるとスルリ。
(3) 野菜中心の精進料理。イカ、タコ、コンニャクは敬遠。
(4) 1日5~6回の分食で腹8分目。
(5) 炭酸水、ビールは飲まない。
(6) 規則正しい食生活。
(7) 食後すぐに車に乗らない。
(8) 寝る前は食べない。
(9) 枕を高くして寝る。
(10) のんびり焦らずに生活する。
術後2カ月で職場に復帰し、ボーイスカウトの活動も再開。8キロ痩せましたが、今では逆流もなくなりました。前向きに取り組めば、道は開けますよ。
胃切除者と医師が情報交換「アルファ・クラブ」

「胃を切った人は自らの努力と工夫で術後の後遺症を克服しよう。普通の人よりプラス・アルファ元気に長生きしよう」「医師と患者の話し合い、患者同士の助け合い」をモットーに、胃を切除した人に役立つ記事を満載した情報誌「アルファ・クラブ」を毎月1回発行するほか、「胃を切った人の食事学」「胃を切った人の後遺症の克服」などの図書を発行しています。年会費2400円(初年度のみ3400円)。代金前払いで図書の郵送も可。
申し込み先
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(株)協和企画分室内アルファ・クラブ事務局
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