化学療法時の肺障害の頻度は低いが、重篤化の危険性も
EGFR-TKIでは 空咳や息切れに注意
化学療法による肺障害の診断基準は、❶原因となる薬剤の服用歴がある ❷薬剤に起因する臨床病型がある ❸ほかの原因疾患が否定される ❹薬剤の中止により病態が改善する ❺再投与により増悪する――となっている。ただし、⑤についてはリスクを伴うので実際は通常行われない。
では、患者さんはどのように発見すればよいのだろう。
代表的な症状は、空咳(痰の出ない咳)、息切れ、発熱、呼吸が速くなる、脈が速くなる――などだ。見過ごしたり、放置したりすると、症状が進み、安静にしていても息切れが出るほどになる。症状が進むほど治療を始めた後の効果も出にくいと考えられるので、患者さんは空咳や息切れも単なる風邪と思いこまず、病院に連絡したほうがよい。
医療者は患者さんが肺障害になりやすい薬を使用しているか、聴診で捻髪音があるかを確認し、間質性肺炎の疑いがある場合には胸部X線撮影を行い、さらにCT画像検査や血液像(白血球分画)、CRP(C反応性タンパク)、LDH(乳酸脱水素酵素)などを測定する血液検査を行って鑑別する。
抗がん薬による間質性肺炎かどうかを判断するには、がんの増悪や感染症、心疾患などと鑑別しなければならない。とくにがん患者さんは免疫力の低下によって、ニューモシスチス肺炎など、間質性肺炎との鑑別が画像上難しい日和見感染症を起こしやすいので注意が必要とされる。
感染症の鑑別には血液検査だけでなく、喀痰検査や気管支鏡検査などが行われることもある(図3)。

ステロイドによる治療
間質性肺炎の治療は、薬剤の使用を中止することが原則。これで回復することもあるが、基本的にはステロイド薬の投与が行われる。*プレドニンを投与し徐々に減量していく。重症の場合はステロイド薬の*メドロールを大量に点滴で投与するパルス療法が取られる。重症度によっては免疫抑制薬の投与も考慮される。また呼吸困難が重篤な場合は、薬物投与に加えて、酸素吸入や人工呼吸管理なども行われる。
ただし、m-TOR阻害薬については少し異なる。m-TOR阻害薬の場合は、❶無症候性であれば投薬を継続し経過観察 ❷軽度の症状がある場合は休薬しステロイド薬投与を考慮 ❸日常生活に支障のある場合は投薬を中止しステロイド薬を投与――というのが基本だ。②の場合、軽快度によりm-TOR阻害薬の再開もありうる。
さらにm-TOR阻害薬について付け加えると、間質性肺炎の発現は高頻度だが、死亡率は低いということが市販後全例調査で明らかになっている。
腎細胞がんでアフィニトールを投与した1,077例を登録したところ、間質性肺炎の発現例は244例で割合は22.9%と高かったが、死亡例は7例で2.9%だった。これはEGFR-TKIなどほかの薬剤を使用した場合と比べて非常に低い(表4)。
軽症でも薬剤投与を継続するのが良いのかという心配もあるが、68例で継続したところ、死亡例は1例もなかった。投与中止はむしろ患者さんにとってデメリットと認識する専門医の声も大きい。

*プレドニン=一般名プレドニゾロン *メドロール=一般名メチルプレドニゾロン
乳がんへの適応拡大での懸念
2014年、腎がんに対する分子標的薬だったアフィニトールが乳がんにも適応拡大された。乳がんはほかのがん種と比べて喫煙、高齢などの危険因子を持っている患者さんが少ないため、副作用としての肺障害の警戒はあまりされてこなかった。
しかし、アフィニトールは上記のように肺障害を発症しやすいという側面がある。弦間さんは、ここに警戒を強める。
「軽症が多いというのは確かにありますが、乳がん患者さんは予後がよく、余命も長いので、肺障害でそれを損なうことがあっては影響が大きいといえます。肺が健康なので重篤になるリスクは低いでしょうが、なってしまった時には失うものが大きくなります。治療期間が長くなる可能性があるので、より一層気をつけなければなりません」
遺伝子検査の研究も進行中
間質性肺炎を予防するために、遺伝子レベルでの研究も進んでいる。
「遺伝子検査により、MUC4という遺伝子の多型がある場合は、それによって肺障害、DADが起きやすいという統計学的データが出されました。多型とは個人差のことです。非常に注目されています」
MUC4は日本人に多く、4~5%といわれている。肺の状態や薬剤の使用状況などの因子とのかけ合わせで発症してくる。
弦間さんに患者さんに心掛けて欲しいことを聞いた。
「症状に気付いたらすぐに主治医に相談することが重要です。退院した後は、どこにどのように連絡したらいいのかを前もって調べておくことが必要です。最も予後の悪いEFGR-TKIで間質性肺炎になっても、早期に対応することで重篤化を減らすことにつながります」
また、医療者側にとっても薬剤性の間質性肺炎の鑑別は難解なので、鑑別診断を即座に行える呼吸器専門医と担当領域の医師との連携体制を構築することも必要になると言う。