医療者とボランティアで在宅ホスピス実現を!

取材・文●阿鹿麻見子
発行:2013年9月
更新:2019年7月

多くの人が「家で死にたい」

数年前の全国アンケート調査によると、83%の市民が「自宅で最期を迎えたい」と回答。しかし実際は、77%の市民が病院で亡くなっており、がんでは90%に跳ね上がります。

小澤さんのところへ相談に来る患者・家族もたくさんいます。例えば、『副作用がきつい抗がん薬を、父親が使いたくないと言っているが、どうしたらよいか』というような相談もよくあります。

「医療は進歩し、緩和ケアによって9割以上の痛みや苦痛が抑えられます。ですから、患者さん自身が治療の限界を見極め、痛みをコントロールしてもらって自宅で穏やかに過ごす選択をすることも大切なのです」

診療所の医師に緩和ケアを学んでほしい

「全国に約300カ所のホスピスがありますが、希望する人を全て受け入れるなら今の10倍は必要です。そこで、2種類のホスピスを使い分けることになります。どうしても必要な人だけが入るホスピス病棟と、もう1つが在宅ホスピスです」

もはや施す治療がない患者さんの場合は、一般病棟に長く入院できないため、行き場を失います。これへの対策として全国的に展開されているのが、「在宅療養支援診療所制度」で、手を挙げた診療所が、全国で約1万5000カ所、大阪府下で約1500カ所、吹田市では約50カ所。

ところがその実態はお寒い限りとも言います。登録された開業医のもとでは、本来24時間365日、がんの緩和ケアを実践できるはずが、実際はほとんど対応しておらず、「いざというとき、頼れる開業医は1割にも満たない」とも。緩和ケアに必要な医療用麻薬の使い方さえ知らない医師も多く、医師の良識が問われるべき深刻な問題です。

在宅診療で看取れるような医学教育を

「市民の目にふれるところでがんの情報を提供し、関心を集めることによって、予防や、早期発見のための健診の大切さも理解されるはず」と、市役所のロビーを活用しての「吹田がん情報コーナー」を設置。これは吹田市長井上哲也さん(前列中央)との面談で合意を得て実現したもの

大阪府のアンケート調査には、全国に2000カ所以上ある訪問看護ステーション、および在宅療養支援診療所の半数が回答しました。ところが、自由記述の欄に「患者のケアに自信がない」という記載が相次ぎました。

大阪府がん対策推進委員会の委員を3月まで務め、日本尊厳死協会関西支部の理事である小澤さんは、この結果に「慄然とした」と打ち明けます。

「在宅療養支援診療所が医学生を受け入れて現場で教育する動きはあります���しかし、もっと医学部の緩和ケアの講座を増やしてほしい。そして、いかにして人生の最期を穏やかに終えるかについての医学を身につけて臨床に臨んでほしいのです」

会の今後の活動計画として、小澤さんは、「ボランティアによる在宅医のサポート体制を検討中」だそうです。

「我々市民が緩やかな形で在宅医の周辺にいて、必要なときにさっとチ―ムを組んでサポートさせていただくようにすれば、地域のなかで、在宅の看取りが実現できるのではないかと思います」

東京都墨田区で長年、夫婦で在宅ケアを続けている医師のまわりには、常に60~70人ものボランティアが控えているという。そのような体制があってこそ「在宅での看取りができる」わけです。それだけに、「買い物でも、話し相手でも、市民がボランティアでできる役割はいろいろあるはず」と、小澤さんと益田さんは希望をもっています。

「在宅ホスピスの進展を促すには、市民が終末期医療についての考え方を普段からもっておくことが大切です。例えば、大病院で療養するのがいいという考えに再考が必要かもしれません。一方で、病院は患者の状況に応じて早い時点から、在宅医と連携する体制を整える必要がありまです」

市民、病院、地域が一体となった積み重ねが、誰にも訪れる終末期をより過ごしやすくするために大切なことなのです。

「ホスピス」とは

末期患者とその家族を、家や入院体制の中で医学的に管理するとともに、看護を主体とした継続的なプログラムで支えること。この実現のために、さまざまな職種の専門家で組織されたチームで行動し、末期に生じる患者や家族の身体的、精神的、社会的、経済的、霊的な痛みを軽減し支えること。(全米ホスピス協会の定義による)

緩和ケアとは

生命を脅かす疾患によって諸問題に直面している患者と家族のQOL(生活の質)を改善する方策のこと。痛み、そのほかの身体的、心理的、スピリチュアルな諸問題を、早期かつ確実に診断し、早期治療によって苦痛を予防し、苦痛からの解放を実現することである。(WHOの定義による)
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