がんで暮らしに困らないよう保険や制度のことを伝えたい

取材・文●町口 充
発行:2013年10月
更新:2014年3月

多くの人が知らない障害年金

手続きが難しいので専門家の手助けが必要なケースもあります。たとえば、がんになったとき、厚生年金や国民年金などの公的年金に加入していれば障害年金がもらえる制度。「こんな制度があるなんて知らなかった」という人が圧倒的に多いです。

年金というと「老齢年金」のイメージが強いが、現役世代でも、がんなどの病気やけがで障害が生じたり、長期療養などで生活や仕事が制限されるようになった場合、支給されるのが障害年金です。

「この年金のことがあまりにも知られていません」と語るのは、福祉に特化した社会保険労務士事務所代表の石田周平さんです。障害年金を専門に扱っており、「がんによる障害年金申請漏れがあまりにも多い現状を世の中に発信したい」と、「考える会」に参加しました。

「労働能力や日常生活を送るうえでの支障がどれだけあるかが障害年金の認定基準となりますが、それは年金の原点ともいえるもの。がんの患者さんにとっての悩みは治療費です。患者さんの本音として、『家計を圧迫するのでこれ以上、治療を進めていいかどうか迷う』という声をよく聞きます。そういうときにこそ頼りになるのが障害年金です。しかし、この年金は請求窓口である年金事務所等に診断書などの必要書類を提出しないともらえないうえに、勤めている会社も教えてくれない。公的機関も含めてアナウンスが全然足りていないのも問題です」

個別相談にも応じていきたい

各専門家を集っての事例検討会。月に1回の意見交換から、2013年2月「がんと暮らしを考える会」が設立した

「会社に勤めていれば雇用保険に加入し、家族の介護が必要なときに介護休暇、介護休業を取得できることは割と知られていますが、介護休業給付金のことを知らない人が多いです」

こう語るのは、社会保険労務士事務所代表の近藤明美さん。

「働いている人が家族を介護するために会社を休まざるを得なくなった場合、休業中の生活費が補償されるのが介護休業給付金制度です。基本的にはご本人か会社が手続きしますが、会社もこの制度のことを知らなかったという例もあります。それに、ハローワークで手続きしないといけないので、そこに行けば案内もあるけど、行かなければ知らないままということにもなってしまう。これもやっぱりアナウンスの問題で、多くの人に知らせる努力が大切です」

近藤さんは9年前に乳がんの手術を受けた経験があります。その後、社会保険労務士となって、『同じがん体験者の立場からがん患者さんの利用できる社会保障制度を少しでもわか���やすく、使いやすくしたい』と、協賛メンバーに加わりました。

「考える会」では今後、「がん制度ドック」を病院や役所、がん患者さんの支援団体などで活用してもらえるよう、普及に努める方針。まだ始めたばかりだが、ソーシャルワーカーから「こういうのがほしかった」という声が寄せられるなど、反響は大きいそうです。

「『がん制度ドック』は情報さえあれば自分でできるという人が対象ですが、それでもやっぱり専門家などの支えが必要という人も多いはずです。そのような場合に備えた相談体制も今後、築いていく予定です」

こう話す賢見さんらは、「まずは患者さんたちの声や事情を反映させた仕組みづくりを」と模索しています。

1 2

同じカテゴリーの最新記事