患者スピーカーの「語り」をよりよい医療に活用してほしい
体験を語る以上のことができる

患者さんが語り手となる病気体験の講師の紹介は、ほかにもさまざまなところで行われています。しかし、同バンクの患者スピーカーにはほかにはない特徴があります。
それは「体験を語るためだけのスピーカーではない」ということです。
鈴木さんは話します。
「スピーカーは単に講師を務めるだけではなく、グループワークなどを通してその場をつくる、雰囲気をつくるなどの能力も求められます。実際に、ある製薬企業からは、社員の交流を促して風通しをよくすることも含めての講師紹介の依頼がありました。出向いてただ話すというのではなく、せっかくその場に行くのならそこの人たちの交流を深める役にも立つのが、私たちの仕事だと思っています」
そのため鈴木さんは初級コースの最初の講座で、「自分の体験を話すのは多くても時間の半分まで」と釘を刺します。単に個人の体験に基づく主観的な世界を語るのではなく、「客観的なことも含めて話ができなければ患者スピーカーは務まらない」のです。
スピーカーにそこまでの能力を求めるのは、決して無理難題ではなく、「患者だからこそできること」と鈴木さんは強調します。
「患者というとどうしてもマイナス思考になって、がんの患者さんにしても『がんになっちゃった』という言い方をします。すると、『あれがつらい』『これがつらい』とマイナスのことばかり挙げることになる。しかし、がんになったことにより、世の中一般の人とは別の道を行くようになったかもしれないけれど、それは逆の見方をすれば一般の人には行けない道が開けたとも言えます。がんになったことに悔しさを感じるのではなく、むしろ、がんになったからこそできることは何か、と前向きに考えてはどうでしょうか」
鈴木さんは、がんはもちろん、大きな病気を経験して、それを乗り越え、視野を広くできた人たちというのは、普通一般の人以上に医療をよくしたい、社会をよくしたいという強い思いを抱くものだ、と言います。
そのような人がスピーカーとなれば、単に自分の体験を伝えるだけに終わらず、社会や企業をよりよくする大きな力になるに違いありません。
医療系患者講師による連続講座を大学に
同バンクに対しては早速、企業や大学などから講師紹介の依頼が舞い込んでいます。
学生たちが自主的に開く勉強会に呼ばれるケースもあります。ある大学の例では、授業では教えてくれないからと、自分たちの小遣いで費用を出し合い、患者スピーカーを講師として定期的に勉強会を開いています。
将来展望の1つとしては、医療系の大学に連続講座をもつのが目標。「現状では、医療者が患者の生の声を聞く場がなさすぎます。それを言うと『毎日、患者さんとしゃべっていますよ』という答えが返ってきますが、診察室では患者は本音を語らないものです。本音を聞く場をぜひとももってほしい。それを学生のころから当たり前のことにしてほしい。大学のカリキュラムにちゃんと位置づけて、患者スピーカーの話を聞く授業が当たり前になれば、学生のころから患者と接し、互いの心を通じ合うことの大切さを学べるようになると思います」
そんな授業を1日も早く実現してほしいものです。
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