学校へのスムーズな復学で小児がんの子どもたちに学力の保障を
ポスト復学問題孤立を防ぐ「居場所」確保へ

夏休みに「ネットでeクラス」のメンバーが集まった。「困難を乗り越えて生まれた価値観を、同じ立場の子どもどうしが共有できる場が大切なのです」と安道さんは話す
スムーズに復学しても、その後に問題は生じてくる。小児がんを経験した子どもは、治療による成長発達の遅れや身体機能の低下がみられたり、継続する化学療法や晩期合併症のために活動が制限されることで、「みんなと違う」「みんなと一緒にできない」と落ち込んだり自信をなくしてしまいがちだ。疎外感を抱いて孤立することもある。このような復学を果たした後の学校生活の中で起こってくる問題は、『ポスト復学問題』と呼ばれている。
安道さんはポスト復学問題に対し、「まずは居場所。彼らが『僕たち、私たち』と言える人間関係や空間が社会の中に必要です」と強調する。
テレビ会議システムを利用した前述の学習支援コミュニティ「ネットでeクラス」では、ホームルームを開催している。ここでは、進行役のスタッフも加わり、クイズや言葉あそびゲームのような気楽なことから、病気をしたことによる心の成長についての意見交換まで、子どもたちがありのままの姿でかかわり合う。
「病気してからすべてつまらなかった」という高校3年生の男子生徒は「発病後、人と接することがとても怖かったけれど、かなりコミュニケーションがとれるようになってきました」と感想を寄せた。
子どもたちには、ともに考え、笑い、話し合うことで仲間がいることを実感できる「居場所」が必要であり、このような「居場所」を病後の子どもたちに確保すること、これこそが小児がんを経験した子どもたちに必要なことなのだ。
生活支援にもっと手を差し伸べて

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2012年に見直された「がん対策推進基本計画」には、小児がん拠点病院を整備し、長期フォローアップが目指されるなど、小児がん対策が初めて盛り込まれた。ここで小児がんの医療の面には光が当てられたが、学習支援を含む生活全般に対する支援には、まだ手がつけられていない。
「長期フォローが受けられるといっても、就職できずにいる多くの小児がん経験者は収入がないので、拠点病院まで行く交通費がないといったことも生じるのです。親御さんは自分が先に逝ったら子どもはどうなるのだろうと、将来の不安でいっぱいです。もちろん、医療面に対する研究・開発支援も必要ですが、生活全般に対する支援もまだまだ足りていません。まずはこの現実を皆さんに知ってもらい、そして必要な支援制度が社会的に講じられるようになってほしい」と安道さんは訴えている。
ある子は合併症による記憶障害があり、高次脳機能障害として精神障害者手帳を取得できた。一方で、障害者手帳の対象に該当せず、福祉制度を使おうにも使えないまま取り残される小児がん経験者は多数にのぼっているのが現状なのだ。
学習支援、さらに小児がん経験者と家族の生活を支える方策が今、切実に願われている。
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