小児がんを正しく知ってほしい。そして、小児がん経験者を温かく見守って

取材・文●町口 充
発行:2013年3月
更新:2013年6月

小児がん経験がマイナスになる社会

つらい治療に耐え、元気を取り戻した小児がん経験者にとって、がんを克服したことは勲章であり、「よくがんばった」と称賛されていいはず。ところが日本では、小児がんを経験したことはマイナスでしかとらえられない、と小俣さんは語ります。

「病気が治って進学・就職をするときに、小児がん経験のために断念せざるを得ないケースが多々あります。小児がんによる後遺症で、義眼のために目指す職業に就くための学校への進学を断念せざるを得なかった仲間がいました。就職はもっと大変で、履歴書や採用面接の場面で、『小児がんを経験した』と正直に伝えると、それはマイナス評価となる場合が多いのが現状です」

普通に扱ってほしい


小児がん啓発のシンボル「ゴールドリボン」のアクセサリー。小児がん経験者の手作りによるスワロフスキー。売り上げは活動資金になる

全国小児がん経験者大会には、参加者1人ひとりが「ひとことメッセージ」を持ち寄りました。多くの人が語っているのが「自分たちを特別な目で見るのではなく、普通に扱ってほしい」ということです。メッセージのいくつかを紹介します。

「私は小児がん経験者ですが、がんを克服したというだけで、一般の人と変わりはありません。ほかの人とは少し違うところがあるかもしれないけど、差別されることなく温かく見守ってもらえるような、そんな社会になればと願っています」

「小児がん経験者は体力的なハンデを背負う人が多く、私は障害者(オストメイト)でもあります。しかし、だからといって特別扱いするのではなく、ほかの人と同等に扱ってほしい。ただ、どうしてもできないことがあるのも事実です。そういうときにそっと手をさしのべてくれたら、これ以上うれしいことはありません」

「『小児がんから生還する』ということは、病変を取り除いてまったくの健康になるという意味ではありません。その後は、何らかの晩期合併症を抱えながらの人生が待っています。小児がん経験者にとって生きやすい社会を、ぜひ一緒につくっていただきたいと思います」

ようやく動き出した国の対策


全国小児がん経験者大会で交流した仲間たちの記念写真。全国の10歳から45歳までの小児がん経験者70人ほどが集まり大盛況だった

成人のがんに比べて遅れていた国の小児がん対策は、最近になってようやく動き出しました。2012年度から始まった第2次がん対策推進基本計画の中に、小児がんが重点的に取り組むべき課題として取り上げられ、整備が始まったのです。

小俣さんらは、社会の目がようやく小児がんに向けられ始めたと感じていますが、もっともっと声を上げていかなければいけないとも語ります。

「小児��んは年間3000人ほどが発症していますが、年間1例しか診ていない病院もあります。各病院で標準治療が行われているのかが、把握できない現実もあります。また、小児がんのほとんどが肉腫という、見つかりにくい特徴をもつ病気であるため、発見が遅れることもあります。がんと診断されずに誤った治療を半年も受けていたとか、ようやく小児がんとわかっても、小児の治療経験のない医師が教科書片手に治療にあたるようなことも起こっています」

救える命が救えない事態を解消していくには、専門的な治療が円滑に受けられるシステムを作っていく必要があります。それには最新かつ最適の治療を提供し、どこに住んでいても安心して治療が受けられる地域連携を行う小児がん拠点病院の整備が欠かせません。

また、小児がんは希少がんであるため、登録による件数の把握や、より充実した支援を考えるために患者・家族の声を吸い上げるしくみ、また、治療経過を時間軸で検証する研究なども必須となります。

さらに小俣さんは次のようにも述べています。

「小児がんが抱える問題は、子どものころに、例えば慢性疾患や難病など、ほかの病気をした人たちの問題をほとんど網羅しています。小児がんは全身のどこにでも発症し、身体的あるいは知的障害を起こすこともありますから。つまり、小児がんの問題点を解決し、対策を進めていくことは、ほかの病気の子どもたちの問題を解決する対策につながります。これは大きなメリットだと考えています」

そうならば、すべての子どの成長とその後の人生のためにも、小児がんを正しく理解し、しっかりとした対策を立てそれを維持していくことが、今、求められているのではないでしょうか。

【みなさんへのお願い】(抜粋)

医療者へ
子どもへのわかりやすい説明
子どもは何の病気かだけでなく、今何が起こっているのか、どうして家に帰れないのかを知りたがっています。子どもだからこそ、状況や体調、理解度に合わせ、必要に応じ繰り返しわかりやすく説明してください
親への支援
子どもを支えてくれる親も不安を感じています。子どもは親の不安を敏感に感じ取ります。家族が不安におしつぶされないよう、治療の選択、周囲への説明など親にかかるさまざまな負担を軽減するような関わりをしてください
教育者へ
病気の理解
学校では先生の対応が私たちの学校生活を左右します。どんな病気か正しく知ってください
小児がんに対する教育の実践
「小児がんはうつる」等、誤った知識や一時的な容姿の変化のためにいじめられる仲間がいます。正しい情報を子どもたちに伝えてください
家族へ
私たちへの関わり方
小児がんという病気を最後に引き受けるのは私たちです。私たちが自立できる人生を送れるように関わってください
きょうだいへの関わり
私たちが病気になるときょうだいへも大きな影響があります。きょうだいに与える影響を最小限にするように関わってください
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