造血幹細胞移植新法の運用に患者・ドナーの声を反映させよう

取材・文●町口 充
発行:2013年4月
更新:2013年7月

患者とドナーの視点が足りない

1月20日に開催した公開フォーラム。造血幹細胞移植医療の在り方について、多数の患者たちが生の声を寄せた

新しい法律の問題点として菅さんが挙げるのは、「患者さんとドナーを擁護する視点がかなり抜けているというか、ほとんど触れられていない」ことです。

骨髄バンクがドナー登録を始めてから20年が経過し、今では約95%の患者さんにHLAの型が適合するドナー候補者が1人以上見つかるまでになっています。しかし、実際に移植を受けられる患者さんは60%ほどと、いまだに十分ではありません。この状況を改善する対策について、菅さんは話します。

「健康な人にドナーをお願いする以上、安全は大前提。骨髄提供自体はドナーの自発的行為ですが、仕事や家庭の事情もしっかりと考慮すべきで、ドナー休暇や休業補償、育児・介護支援など環境の整備が欠かせません。それに、ドナー登録から候補者になるまでに5年、10年とかかることもあります。その間に健康を害したり、連絡先不明となれば、最終的にドナーにはなれません。対策として、年に1回は登録者の健康チェックをする、骨髄提供の意欲持続を促すなど、積極的にアプローチできるシステムをつくるべきです」

バンク事業の支援機関として位置づけられた日本赤十字社の果たす役割は、今後大きくなるに違いありません。

2つのバンク統合も課題

患者さんの経済的負担の軽減も課題です。

現在、移植にかかる医療費そのものは健康保険の対象となりますが、ドナー候補者の検査料や骨髄提供までのコーディネートにかかる経費やドナーの傷害保険料などの費用は、保険適用外です。最終的にドナーに選ばれた方の分は保険の適用になりますが、ドナー候補者が何人かいれば、その分、患者の負担も増します。

一方で、臍帯血バンクでは患者さんに費用負担を請求していません。それが臍帯血バンクの経営を圧迫しているという問題もあります。この点について、菅さんは次のように指摘します。

「移植ソースの違いによって費用負担が異なり、格差が生じているのはおかしいとして不公平さの解消を求める声があるし、同じ目的をもちながら、骨髄バンクと臍帯血バンクの2つに分かれて活動する必要があるのか、統合すべきだ、との意見もあります」

社会復帰してこその治癒

また、現在は採取病院や移植病院の確保に時間がかかり、「全国に何カ所か、採取と移植に特化した、核となる施設がほしい」というのが協議会の要望です。

「移植が受けられる認定病院は全国に100カ所以上ありますが、病院ごとに実績や技術レベルがバラバラで、中には年間数例しか実績がないところもあります。技術に長けたセンター的な施設で移植を受けて、地元の病院でフォローするような仕組みができればいいのでは」

こう菅さんは語ります。また、理事長の中野勝博さんは、支援の対象の拡大を求めます。

「移植後のQOL(生活の質)の向上も大切です。社会復帰までの継続的な支援を行ってこそ移植医療の意味があります」

3年後の見直しを見据え

協議会は1月20日、法施行後の新たな造血幹細胞移植医療のあり方を問う公開フォーラムを東京で開催しましたが、そこで次のような発言がありました。

小児のがんで移植を受けると、さまざまな晩期合併症が起こる可能性があり、中には知的障害と認定されるほどではないにしても、知能の発達に影響が出るケースもあります。そのような子どもたちに対してもきちんと教育の機会を与えてほしい――。

その意見を聞いて中野さんらは、院内学級だけでなく、治療後も教育機関との連携が大事だと痛感したといいます。

「これからの移植医療はチーム医療の考え方が大事。それは治療チームという意味だけではなく、システム全体がチームであるべきで、大きくいえば社会全体のシステムとして、国民みんながサポートする環境をつくっていくべきです」

法律には「3年後の見直し」が盛り込まれました。協議会が「ぜひ」と求めて実現したもので、「法律の施行の状況等を勘案して必要があると認められるときは、検討が加えられ、必要な措置が講ぜられるものとする」となっています。

「患者擁護の観点からは、第3者機関を設けてきちんと事業が行われているか精査してほしいが、それも実現していない。患者さんに最短で最適の医療を提供するにはどうすべきか、患者・ドナーの立場に立って積極的に提言していきたいし、法律の不備を正していきたい」

協議会では今後も改善の要求を続けていくということです。

「志村大輔基金」がスタート

全国骨髄バンク推進連絡協議会はこのほど、慢性骨髄性白血病で昨年、39歳で亡くなった志村大輔さんの名前を冠した「志村大輔基金」を設立しました。
近年、がん治療に分子標的薬が使われるようになり大きな効果を発揮していますが、薬価が高額であるため患者さんへの金銭的負担は大きなものがあります。志村さんは生前、このような患者さんにかかる経済的負担の軽減を目指す活動しており、その遺志を受け継ぎ、血液疾患の治療に分子標的薬を服用している患者さんの治療費を助成して支援することにしました。
また、造血幹細胞移植を受けると生殖機能が失われる可能性があるため、移植を行う予定の45歳以下の男性に対して、精子保存の費用を助成する事業も併せて行います。
なお、基金の原資は志村さんの同級生の勤務先であるゴールドマン・サックスが寄付し、一般からも寄付を募ります。
詳しくは全国骨髄バンク推進連絡協議会までお問い合わせください。
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