がんペプチドワクチン開発へ寄付による応援をお願いします

取材・文●吉田燿子
発行:2013年5月
更新:2013年8月

臨床試験を支援するため日本初の寄付講座を開設

2013年2月13日に行われた寄付講座開設の記者発表。左から、和歌山県立医科大学外科学第二教室宮澤基樹さん、勝田将裕さん、教授の山上裕機さん、学長の板倉徹さん。同講座は今年4月1日に設置。寄付金は患者さん・遺族をはじめ、一般からもたくさん寄せられているが、まだまだ年間1000万円の目標額には届かない

こうしたなか、一日も早い製薬化に向けて、患者側による活発な取り組みが続けられています。理事の佐原勉さんは言います。

「3大治療に行きづまった患者さんやご家族の多くが、がんペプチドワクチンに一縷の望みをかけておられます。もちろん、未承認薬なので治療に使うことはできませんが、チャンスがないわけではない。それが、企業の治験と大学の臨床研究への参加です。治験には100億円単位の予算がかかりますが、大学の臨床研究なら数千万円の予算で行えます。そこで、会では、市民の立場から臨床研究の支援に乗り出しました。それが、今年4月に和歌山県立医科大学に開設された寄付講座である、『がんペプチドワクチン治療学講座』です」

がん患者団体の寄付によって成り立つ寄付講座としては、日本で初めてのものです。同大外科学第2教室教授の山上裕機さんがこの講座を管理・運営し、ペプチドワクチンの全国的な臨床研究を開始します。

会では、年間1000万円、3年間で3000万円の寄附を集めることを目標としていますが、寄付集めはまだ始まったばかり。会のホームページで、がんペプチドワクチンについての啓発活動を行いながら、広く寄付を募っているところです。理事の福士智子さんは訴えます。

「この臨床研究が進めば、3大治療では救われないがん患者さんに、治療の道を拓くことができます。コーヒー2杯分の金額を年1回、1万人が寄付するだけで、臨床研究の年間費用が賄えるのです。がんになる可能性は万人にある。ご自分やご家族のための投資として、ぜひ活動に参加していただきたい。この活動を市民運動として盛り上げていきたいです」

講座では今夏から、“難治がん”といわれる食道がんとすい臓がんを対象にワクチンの臨床試験がスタートする。これを皮切りに、より多くのがん種についても研究を広げていく計画です。

自分らしく生きるためにワクチンを使いたい

こうした草の根の取り組みを支持する声は、患者さんや家族の間で着実に広がっています。2年前にご主人を急性骨髄性白血病で亡くした山川由美子さん(仮名)も、その1人です。

山川さんのご主人は骨髄移植を受けた後、再発して亡くなりました。移植に先立つ苛酷な抗がん薬治療が、ご主人の体力を奪ってしまったのです。

「移植後に再発したとき、主人には、もう病気と闘えるだけの免疫力は残っていませんでした。そのころ、たまたまペプチドワクチンのことを知りましたが、『時すでに遅し』でした。

早い段階から抗がん薬とペプチドワクチンを併用できていたら、免疫力を保ちながら治療を続け、もっと自分らしく生きられる時間をもてたのではないか――そう思うと、残念でたまりませんでした。

リスクがあることを承知のうえで、『それでも最後の1%の可能性に賭けたい』という患者さんはたくさんいます。治療の選択肢の1つとして、がんペプチドワクチンを使える日が来ることを願っています」

今、苦しんでいる患者さんのために

神奈川県が「がんワクチンセンター」の設立に乗り出したことを受け、知事の黒岩祐治さんに要望書を提出した。研究と政治・行政を車の両輪としてとらえ、地方自治体や国会への働きかけも進めていく考えだ

現在、同会では、ホームページでの情報発信や講演会、出版活動などを通じて、がんペプチドワクチンについての理解を広めるべく、広報活動や行政への働きかけを行っています。

「厚生労働省が承認して治療薬ができるまでには、5年、10年という時間がかかります。それでは、今この瞬間、厳しい状況に直面している患者さんの治療には間に合わない。今、苦しんでいる患者さんのために、何かできることをしたい。その一環として、未承認薬の人道的使用(コンパッショネート・ユース)の推進にも取り組んでいきます」(會田さん)

人道的使用とは、治療の手立てのない患者さんを救済するために、治験段階にある未承認薬の使用を認める仕組みのことです。

「私たちの目標は、がんペプチドワクチンが、3大治療と並ぶ選択肢の1つとなること。再発予防という点でも、期待できるところは大きいと考えています。いつでもどこでも、がんペプチドワクチンの治療を受けたいと望むすべての方が治療を受けられる状況にしたい。そのために、今後はホームページ上での電子署名も行っていきたい。多くの方にご協力いただければと思います」

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