アルファ・クラブ 世話人代表/梅田幸雄 「照る日、曇る日、嵐の日」がくれた、「支えあう」という生きる喜び

撮影:坂本政十賜
発行:2003年12月
更新:2019年7月


術後後遺症体験を求めて全国行脚

アルファ・クラブ 世話人代表 梅田幸雄

 梅田さんが一番最初に胃を手術された方々についての本、『胃を切った人の養生学―胃を切る人・切った人のために』を出されたのが、ほぼ20年前のことですね。その時代に、全国を回り、患者の側に立って、胃を切った方の術後後遺症について、実例を検証した本を出版された。しかもそのご縁を患者会として組織された、というのは、私の記憶する限り、初めてのことだったと思うんですけれど。

今日、私は、私たち乳がん患者の会が出した65人の体験談を納めた冊子を、梅田さんにぜひもらっていただきたくて、持ってきたんです。こういうものも、今でこそ目新しいものではなくなった感がありますが、この、梅田さんが当時集められた55人の体験談集は、たしか5万部以上売れたんですよね。それだけ、多くの方々の共感を集めた。こうしたタイプの本としては画期的なことだった、と思います。医師の書いた本もなかったんですか?

梅田 まったくありませんでした。何か書かれた本はないか、と探したのですが……。図書館で調べても、ない。

外科学会のものもなかった。なぜっていえば、それは医師が自分のことを話さなければならなくなるから。つまり、自分が手術したら、こんなことになっちゃった、と言わなければならないわけです。そんなこと、言うはずがないでしょう?

僕は人間が短気なものだから、それなら自分で書いてやろう、と思ったんです。

 私がとても不思議なのは、まだ患者会もない、インターネットの情報もない時代に、どうやってお話をしてくださる、55人の方を探したんですか?

梅田 そうですね。人に聞いた、というのがやっぱり多かったかな。人づてでたどって会いに行ったのが、半分くらいでしょうか。あとの半分くらいは、病院を通じた情報、ですか。

東は秋田から、一番遠いのは天草だった、と思います。もちろん、全員が本名でした。

 今と違ってまだ告知もなく、がんを公表するなんて考えられない、そんな時代に、ましてやそのお話を聞いて書かれるなんて、どんなに大変だったことでしょうね。

梅田 私は俵さんのように、人から話を聞き出すプロでもありませんでしたし(笑)。

 本職だって並大抵のことではありません。

もうすぐ2年になる私が立ち上げた患者会だって、今この時代ですら、名前を公表されたら困る、写真は絶対ダメ、という人が多いですよ。

梅田 あの家はがん家系だ、なんてうわさが立つと、娘の嫁入りに差し支えたり、なんてことは、今でもあるでしょう。そう考えると、その辺の事情は、案外驚くほど変わっていないところもあるようですね。

「死」よりもつらい「生」を生きる

アルファ・クラブ
創立以来、毎月発行されている会報と、
その別刷版

 ほかにも胃を切られた方々のための本を出されているそうですが。

梅田 『胃を切ったひとの養生学』はもう絶版にしましたが、僕が出した本は、10冊になります。

 それで10冊は、たいしたものですね。最新作の出版は、いつのことですか?

梅田 平成13年に、『胃を切った人・警戒したい12疾患』を出しました。

 私、梅田さんの華々しい病歴にはとてもおよばないんですが、ひとつだけ、これは勝ってる! というのがあるんです(笑)。98年に、高速道路を運転中、突然一過性脳梗塞に見舞われて、車はガードレールに激突して大破、全身骨折で140日間、入院したんですよ。一度の入院日数では、梅田さんを超えていますでしょう?(笑)

梅田 それは、よく助かりましたね。

 私は自損事故で、ほかの人を巻き込まなかった。ものすごくラッキーだったと思っています。それでも140日間の入院中には、何度もめげそうになったし、その後、鬱にもなった。梅田さんがこれだけ入院なさったその陰には、どれだけの思いがあっただろうなと、本当にそう思います。

だから、この『アルファ・クラブ』平成15年5月号の「死ぬよりも、生きているほうがよっぽどつらいときがある」この言葉に、とても共感しました。

梅田 これは喜劇役者の榎本健一さんの言葉で、榎本さんは糖尿病で足を切断したんです。

 あのとき、何で死んでしまわなかったんだろう。いっそ死んでしまえば、もっとずっと楽だったのに、って。だけど死ななかったんだから、生きているしかない。そう思うほどに、この言葉が胸に染みました。

それと、この「照る日、曇る日、嵐の日」というのは、いったいどなたのお言葉ですか? これもいい言葉ですね。

梅田 これは私が勝手に作った言葉です。でもよく考えてみると、「照る日」なんかありませんね。「雨の日、曇る日、嵐の日」ばっかりです(笑)。

 そうですか? 私はまだ「照る日」があるなあ。「照る日」も「曇る日」もあって、それで「嵐の日」もある。梅田さん、今度はぜひこういうテーマで本を書いてくださいな。

喜びを見つける方法を発見しよう

梅田 たとえば私は、口からものを食べると肺炎になるから、と医師から経口食を止められています。しかし、人間はある意味で、食べることと自分で息をすることを止めたら、それは人生ではない。

だから僕は、口からものを入れれば肺炎の危険がある、というリスクを冒しても、あえて流動食だって食べ物だ、という解釈をして、それに抵抗しているんです。

 「照る日」ではないけれど、そこに喜びがある、ということ?

梅田 喜びとはいえませんね。食欲がありませんから。

 それは寂しいですね。でも「照る日」のないなかで、それでも何かあるとしたら、それはどんなときに感じられる喜びなんでしょうか?

梅田 この前、全国の私立大学の大学病院の看護師さんたちに向けて、講演を依頼されたんです。そのときに、結びとしてマザー・テレサのこんな言葉を引用しました。

「人間として最大の悲しみは、お金がないことでも、健康でないことでもない。自分が誰からも必要とされていない、と感じることである」と。私自身も、強くそう思っています。

そういう意味で、「アルファ・クラブ」の存在と、協和企画という会社の存在が、私の支えでもあり、頼りでもありますね。

 お食事の楽しみはなくされても、何千人もの会員の方、会社の社員の方が、梅田さんを必要としていらっしゃる、と。

梅田 なんだかそう言ってしまうと、キザですねえ。

 いいえ、ちっともキザじゃありません!

「アルファ・クラブ」の会報にも書かれていらしたように、たとえ胃を切っても、何を失っても、100まで生きよう、という、その呼びかけのように、これからもご活躍ください。

梅田 俵さんのご活躍にも期待しています。

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