子宮・卵巣がんのサポートグループ あいあい 運営メンバー/まつばらけい、大谷勝子 活動が風穴となって医療の透明性を高めるきっかけに

撮影:板橋雄一
発行:2004年7月
更新:2013年4月


医師と患者の情報格差について

子宮・卵巣がんのサポートグループ「あいあい」

まつばら 今日ぜひ話題にしたかったことのひとつは“医師と患者の情報格差”です。医師は医療の専門家で専門的知識をたくさん持っているけれど、患者は多くの場合、最初はシロウト。それを埋めるために、患者が予備知識を持つ努力をすることが力になっていく。

一方、医師や看護師が医療のすべてを知っているわけではないということも。例えば、治療の後遺症への対応や、退院後の暮らしについてなどはあまりご存じないことがあります。

 関心がきわめて低いですね。

まつばら 患者は体験的知識の専門家という見方もあるのでは。より良い医療のために、患者の視点や体験知も重要で、それに医療者の方々にも関心を持っていただきたいと思います。

 その“体験知”というものをもうちょっと説明して下さる?

まつばら 具体的には、例えば、婦人科がんの治療によって、排尿・排便障害や卵巣欠落症状、リンパ浮腫、性生活上の悩み、子供が産めないことをどう受け止めるかなど、さまざまな問題が生じることがあります。それに対して体験者の人たちが、対応法を工夫していたりします。

 なるほどそういう意味ですね。つまり自分が知覚できる、本人が一番わかっている体験のことね。医学ばかりやってきて経験と知識を蓄えてきた人と、突然昨日今日告知されて病名も初めて知った人との知識の格差はそう簡単には埋まらないと思う。

同じ次元で考えると、情報量の格差ははっきりしているけれど、あなたのいう情報は質が違うのね。医者はたまたま医療の専門家で患者は体験知という情報をもった専門家と考えればいい。その異なる情報を交換することによってより良い医療を目指せるはずね。

大谷 そうすれば手術か放射線かを選ぶ判断材料としての後遺症や合併症との関係についても患者は知ることができますよね。私はずいぶん調べた挙句にやっと分かりましたから。

 時間がない人は知らないまま決断を迫られるわけですよ。後で後悔しても治療が始まってしまえばどうしようもない。私がそうだったけど。

患者と医者の間には深くて暗い川がある

 この問題は“医師の教育”ということと関係していると思う。あなたが著書『なぜ婦人科にかかりにくいの?』の前書きの中で“患者と医者の間には深くて暗い川がある”って書かれていたけど、それは私も常々感じている。私は医師に『もしこれ(告知)があなたの奥さんだったら、あるいはあなたのお母さんだったらどういう治療を薦めますか』という質問をどうしてもしたくなってし���うんです。でも最近それがいかに愚かな質問かということに気がつきました。

まつばら 愚かな質問だとは思えませんが……。

 愚かですよ。自分でもそこまでの想像力は持ち合わせていないのに、医者にだけそういう想像力があるわけないでしょう。瞬間に“もし自分の妻や母だったら”と考えられたら、“深くて暗い川”は生まれないはずだもの。でも医者とか看護師とかという職業についている人は、“患者の立場になって考える”という資質が求められる。そのための医者の教育システムってどうなってるんだろう、って思うんですよ。

医療を施す側・施される側の意識改革を

子宮・卵巣がんのサポートグループ「あいあい」
医師と患者、双方の知識の交換ができる
ような医療現場であって欲しいと思いますね

 その資質がないと医師になる資格が本当はないんじゃないかとさえ思う。医者は病気になるまでそんなことはわからないって言うかも知れないけど、もうちょっと相手の気持をおしはかる心をもってほしいと思う。それと、最近強く感じるのは、患者の立場で医療に関する原稿を書いても医療従事者からは何の反応もないんだな、ということ。他の分野では何か書けばワッと電話や投書で反応が返ってくる。医療に関しては何の反応も返ってこない。要するに医療に携わる人はこういうものを読まないんだということがよくわかりました。

医師には相手の立場に立った考え方を培う機会がないことがよくわかるわけです。教育段階でそういうジャンルを取り入れないといい医師が育たないんじゃないか。今こうやって喋っていても、これを読む医者はほとんどいないですよ、空しいけれど。でも、それでも私は言っておかなければいけない。

まつばら 臨床医療教育の改革と同時に、将来、誰もが医療消費者になる可能性があるということを踏まえて、義務教育の段階で、“ころばぬ先の医療消費者教育”を提唱したいんです。“安心・納得の医療を受けるにはどうしたらよいか、医師・医療機関の選び方、治療法選びの心得、セカンドオピニオンの求め方、主な病気の基本的な予備知識”とか、学べる機会があったらどんなによいだろうかと常々思っているんです。

 義務教育で?

まつばら ええ、そうです。

大谷 そうすれば予備知識が得られて、突然の告知でもどう対応すればよいか考えることができるかも知れない。

 医療を施す側、施される側双方の知識の交換が必要なのよね。

まつばら 医療者の方々からも、そういう動きは、あります。『子宮・卵巣がんと告げられたとき』の出版後、患者や家族の方からの反響もたくさんあったのですが、中には婦人科がんの専門医から「婦人科がんの臨床医にこそ読ませたい本」と反響メールをいただいたり、ある大学医学部産婦人科学教室の教授から『うちの医局では医局員全員の必読書にした』とお手紙をいただきました。とても励みになります。

 もっともっと読まれればよいのに。特に婦人科系は男性医師が多いわけだから、こういう本を読もうという気持ちになって当然なのに、そう言ってくれる医者は少数派よね。

まつばら それが最近少しずつ増えているようなんです。

 それは嬉しいことですね。この小さな動きが閉ざされた暗黒大陸に風穴を開けてくれるきっかけになることを祈りましょう。今日はどうもありがとう。

子宮・卵巣がんのサポートグループ あいあい

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婦人科がんを中心とする医療市民グループ。合言葉は「ひとりで悩むのはやめにしませんか?」。癒しと学習を活動の柱に、現在、隔月で体験交流と情報交換の場「わかちあいのミーティング」を開いたり、メールや電話での相談、情報提供などを行う。

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