東京肝臓友の会 会長/中島小波 引き起こされた悲惨な被害 真正面から受け止め、誠意ある対応を

撮影:板橋雄一
発行:2004年8月
更新:2013年4月


肝炎訴訟といわれのない差別

東京肝臓友の会 会長 中島小波

 エイズ訴訟のように、患者会では何か社会的な行動を起こしておられますか?

中島 はい。患者会として起こしているのではありませんが、二つの裁判のバックアップをしています。一つは10年以上前の札幌でのB型肝炎の母子感染の訴訟。高裁で勝訴したんですが国が控訴しているんです。

 その裁判の論点は注射針の使い回し問題ですか?

中島 そうです。集団予防接種、それがポイントです。もう一つは去年、東京、大阪、名古屋、仙台、福岡、5カ所で同時に起こした薬害肝炎訴訟ですね。

 血液製剤にウイルスが入っていたということ?

中島 そうです。当時日本ではアメリカで集めた血液を使っていたのですが、すでにアメリカでは問題になっていて1977年に製造禁止になっているんです。なのに日本では野放し状態がそれから10年以上続いたんです。

 エイズと同じわけね。厚生省の怠慢としか言いようがないですね。

中島 被害者のほとんどが女性なんですね。出産時に必要のない止血剤を使われて感染させられ、それが原因で一家離散になったケースもあるんです。

 それは国と製薬会社を相手どって患者会が原告になっているんですか?

中島 いいえ。個人が集まって起こしています。ほとんどの人が匿名ですが。

 どうして?

中島 差別の問題があるからです。

 ああ、今日はそれも伺いたかったの。差別ってどんな?

中島 例えば就職時にウイルスを検査して陽性だと、たとえ内定していても取り消されてしまうんです。

 そんなことが許されるんですか? それはどこですか?

中島 警視庁でそういうことがありました。ウイルスがいても発病していなければ何の支障もないはずなんです。でも落とされる。

 それは人権問題じゃないですか。

中島 その他には、つい最近まで医療機関でも肝炎の患者さんだけを一つの病室に集めるとか、使い捨ての食器を使うとか、お風呂は一番最後になるとか……そういう話を会員さんからよく聞きます。過剰防衛って言うんでしょうか。

 認識不足からね。

中島 そうですね。それからお年寄りがウイルスを持っていると入所させないっていう老人施設もありました。そういう偏見をなくすように毎年国に要望を出しているんですけど、らちがあきませんね。

国民の5パーセントがウイルスキャリアに

 乳がんって肝臓に転移しやすいんです。私も検診に行くと医師が真っ先にやることは エコーで肝臓を診ます。だからよっぽど肝臓を警戒しているのだなということがわかります。

うちの会員さんで乳がんはほぼ緩解しているのに肝炎で悩んでいる方が本当に多いんです。よく聞いてみると、20年も前の手術が原因らしい。当時の手術はアバラ骨が見えるほど大きく切り取るのだけど、おそらく止血剤が使われたと思うし、注射針も使い捨てではなかったとも思う。

乳がんは治っているのに、そのときに感染した肝炎で病院通いをしている。出産だけでなく、乳がんや他の手術でもきっと感染した人が多くいるのではないかと思いますね。

中島 そうでしょうね。最近エイズはよい薬が出て完全治癒とまでいかなくても発症が抑えられている人が多いのですが、治療薬に混入した肝炎ウィルスでC型肝炎に感染し、肝臓がんで亡くなってしまうんです。エイズに感染させられたばかりでなく、C型肝炎にもなり、肝臓がんで亡くなる方が多いと聞いています。本当にお気の毒です。

他にも高齢の人では、結核で胸郭整形手術をしたときの輸血などで肝炎になり、がんが発症したケースも多いようです。統計によれば国民の5パーセントが肝炎ウイルスの保持者ではないかと言われているとか。発症されている患者さんも含めてですが。

 もはや国民病と言っても過言ではないですね。しかも人災によるところが大きい。

中島 それなのに未だに間違った認識がまかり通っているんです。国の政策の過ちによって感染させられて、差別までされるなんて、この憤りを一体どこに向ければよいのかと思います。夫が国に要望した件についても今なお、あまり改善されていませんし、あの頃とそれほど変化していない現状に、時として無力感を覚えることもあります。こんなに肝臓病を蔓延させてしまったことを国は真正面から受け止め、誠意ある対応をしてほしいと強く思います。

いち早い対応の改善を

東京肝臓友の会 会長 中島小波
医療を取り巻く環境の改善のため
お互いに頑張りましょう

 他にこれだけは言っておきたいということはありますか。

中島 言いたいことはたくさんありますが、具体的には肝炎の治療費、ことに肝臓がんの治療費がとてもかかるんですね。補助がないものが多いですから。

また薬の認可などにもとても時間がかかります。アメリカで承認され使われている薬をまた日本で長期間治験をやり直す。そんな必要はないんじゃないでしょうか。金銭的にも肉体的にも患者の負担が大きいですから、審査をもっと早くしてほしいですね。

 アメリカ人と日本人とでは身体が違うとか、色々と理由を付けてね。

中島 本当にそうですよね。

 最近の新聞で“認可を早めよう”という記事が出ていましたけど、本当だったら嬉しいですね。

中島 男性機能不全回復のバイアグラなんてすごく速く認可されたんですよ。本当にあのときはくやしかったです。

 ああいうのだけ速いのよね。深刻な死につながる病気への対応を、もっと真剣に、もっと迅速にやってほしい。

道程は長いとは思いますが、患者側に立った医療を求めてお互いに頑張りましょう。

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