内田絵子と女性の医療を考える会 代表/内田絵子 乳がんになって教えられたこと、出会ったこと 多くのことを人生の勲章に

撮影:板橋雄一
発行:2004年11月
更新:2013年4月


一生に一度の自分へのご褒美

内田絵子と女性の医療を考える会
乳がんは自分で調べることが容易な数少ない
がんの一つですから、自分自身を守るため、
正しい知識を身につけてほしいと思います

 再建手術が原因で亡くなったというケースは聞いたことがありますか?

内田 それはないですね。

 では命には関わらない手術だと。

内田 アクシデントは常につきものなので絶対とは言えませんけれど。ただ再建してうまくいかなかったというのは何回か聞いたことがあります。萎んじゃったとか、感染症で苦しんだとか。

 そういう失敗したものは、治してよくなりますか?

内田 もちろん信頼できる先生に頼めばきれいになります。

 しかしそれが保険適用でなかったら大変な出費ですね。

内田 そうなんです。お子さんがいる主婦の場合などは、おっぱいをつけるより子供の教育費のほうが優先されるわけです。ですから2、3年経って自分がどうしても欲しいと思ったらパートで頑張って費用をつくる。一生に一度の自分へのご褒美のようなつもりで、と私は勧めています。その大事なお金で失敗されるのを避けるためにも臨床例がたくさんある信頼できるドクターのところで、納得するまで何度でも説明を受け、自分で決めることが大事です。

乳房再建の保険適用について

 乳房再建には200万円ほどかかると聞いたことがありますが、それ位ですか。

内田 それだけあれば充分でしょうね。病院によって差額ベッド代や入院費など違いはありますが。

 保険はどの範囲まで利くのですか。

内田 乳房のふくらみは利きますが、“乳輪と乳首”は利きません。

 おっぱいはそれら全てで一つのものなのに、ふくらみは利くけど乳輪、乳首は利かないなんておかしな話ですね。

実を言いますとね、私が手術を受ける2、3日前に、病院の患者会の方が再建手術をしたおっぱいを見せてくれたんです。ただ、二期再建中でまだ乳首がなかった。ふくらみだけ。あれは何と言うか言いようのない違和感を覚えましたね。

内田 それはそうですよ。ふくらみも乳輪も乳首も全部そろっておっぱいなんですから。そういう保険に関する問題も患者会として求めていきたいと思っています。

 うちの会員の中に障害者として認定してもらったらどうか、という意見があるんですけど、お宅はどうですか?

内田 うちの会員からも、そういった声はあります。私は自分が10カ月間おっぱいが片方だったとき、軽度障害者になったと言っていたんです。片方のおっぱいだけで自分はどういう心理状態になるのか、生活にどんな不便があるのかと実際に体験したわけですが、肩が凝ったり慣れなくて傾いてしまうような気がしたり、そんな違和感がありました。

 保険適用に関してはもちろん誰でも願っています。けれども、障害者として認定されるってことはどういうことか、と考えるとこれもまた難しい。こういうことで障害者だと思ってしまうことが嫌だと。

内田 また別な差別意識ですよね。障害者の認定ではなくて保険が適用になれば一番いいんですけど、おっぱいは外から見えないし、不都合にしても主観的な部分が大きくてなかなか人から理解してもらいにくいですしね。

 リンパ浮腫の副作用で、洋服の袖が通りにくいとかいろいろあるんだけれどね。だから、障害者なのかって言われると……。

がんにならなければ得られなかったもの

内田絵子と女性の医療を考える会
がんにならなくっても素敵なことって
いっぱいあるだろうけど、がんになら
なければ見つからなかったことはた
くさんあります

 お喋り会については先ほどお聞きしましたが、他には、患者会としてどのような活動をしていますか。

内田 私たちの会は“学び、癒し、国際ボランティア”の三本の柱で活動しています。“学び”は、私は、がんになって言われるままに手術して今に至ってしまったけど、再発のことも考えて勉強をしようと、専門の先生に来てもらっています。また、最近では“死”についての勉強会も開いています。

 それは非常に難しいテーマですよ。どんな形で勉強しているの?

内田 このテーマに取り組まなかったら本物ではないと思って、3年経ったときに仲間に口火を切って“死”の勉強をしたいと。奥さんを乳がんで何十年も看取った獣医さんのお話や、末期がん患者の方、死と向き合っておられるドクターの方などをお呼びしてお話を頂いています。

 宗教家は?

内田 今年の2月にお坊さんに「失ってこそ見えてくるもの」というテーマで講演して頂きました。

 3つ目の国際ボランティアというのは珍しいけれど、具体的にはどういう活動ですか?

内田 シンガポールで手術したとき、英語もまったくできない私が献身的に看護してもらい、退院する時には楽しいイベントが終わってしまうかのような寂しさを覚えたくらい素晴らしい闘病生活を送れました。私は幸運にも日本に生まれ金銭的に恵まれて最高の医療を受けることができたけれど、もし東南アジアの貧しい地域に生まれていたら、乳がんになっても乳房再建どころか治療さえも受けられずに死んでいたかも知れない。生きていくのに精一杯という地域がたくさんあるんです。

ですから皆で1カ月に1回ケーキを我慢して1000円の寄付を長く続けようとやっています。

 ああ、とてもよくわかりました。あなたはお返しが出来て、初めて自分が納得できるんですね。

私は、いつも思うんです。がんにならなくても素敵なことっていっぱいあるだろうけれど、がんにならなければ見つからなかったこともある、出会わなかった友もいる。もし、乳がんにならなかったら “アメリカで乳がんと生きる”という本にあった女性詩人のヌード写真(片方の乳房がない)を見て、殴られるほど素敵だなと、衝撃を受ける私にはならなかった。負け惜しみではなく、がんにならなければ得られなかったことがたくさんあります。

内田 私も乳がんになって教えられたこと、出会ったこと、それら多くのことを人生の勲章に、花飾りにしたいと思います。そして、自分が“乳房再建をして癒えた”と思うことはどういうことだろうと考えたんです。

先日、田原節子さんがお亡くなりになりましたけど、ご自分の闘病の様子や最新治療、薬についてずっと探究し続け、それを広く伝えていらっしゃいました。私も経験したことを公表することで、誰かの役に立ちたいと思ったんです。

 お話を伺って、なぜあなたがおっぱいを出した写真を公表されたのか、分かってきました。堂々としていて素晴らしいと思います。貴重なお話をありがとう。乳がん患者にとってもっとも知りたい部分を教えていただきました。

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