リンパの会 代表/金井弘子 がん治療の後遺症「リンパ浮腫」を知る

撮影:板橋雄一
発行:2004年12月
更新:2013年4月


保険制度ががんである

リンパの会
「スリーブは、先のほうがきつくてだんだんと
緩くなって、リンパ液が少しづつ戻っていくん
ですね。しかしはめるのが大変」と俵さん

 私はずっとリンパ浮腫とは無縁でしたが、乳がんの手術後手がパンパンに腫れて困っている人や、子宮がんの方が歩くこともできないでいる様子を見たときに、リンパ浮腫とはこんなに恐ろしいものなのかと思いました。けれども、どの医者の所に行けばいいか分からない。手術をした医者の所に行っても『関係がない』とか『それは病気ではない』などと言われると、行き場を失ってしまいますよ。

金井 医者の中には、『命が助かったんだから、それだけでも幸せと思え』と言わんばかりの人もいます。

 あなたの会だけでも1000人近くの悩んでいる人がいて、私の会にもたくさんいるのに、なぜ医療者の教育機関でリンパ浮腫の専門の教育をやらないのかと不思議に思いますが。

金井 患者を診ても保険の点数にならないからなんです。有効な薬もありませんし。だから病院では扱わないのだと思います。

 保険制度ががんだからこそそこにメスを入れるべきです。こんなに大勢の人が苦しんでいるのに……。

金井 そうなんです。

 でも点数にならないからといって“患者を診ない、訴えてくる患者がいるのにその症状に対して勉強もしない”というのは医師の倫理に反することだと思います。それは大きな問題です。リンパの免疫療法なんかも最近注目されてきているけれど、保険が利かない。1回25万ですから6回ですと150万もかかるわけです。治療法がなくなって最後にたどり着いた免疫療法などに高額な費用がかかるというのでは、とても気の毒な気がします。

金井 私も免疫療法をしている医者の講演を聞きましたが先生自身が効果があるのかどうか分からないって言うんです。

 保険で認められるには20パーセントの治療効果(腫瘍縮小)が必要で、これは今10数パーセントだからゼロとも言えないけれど、保険で認めるほどの効果もない。でもあらゆる治療から見放された患者はワラにもすがりたい思いでその治療に最後の望みを託すわけです。それに多額の費用がかかるとなると、治療を断念せざるをえない人もいると思う。そういう医療の谷間で医者が大きく利益を得ているとは言わないまでも、利用している気もして複雑な思いです。保険が利かないのだからリンパ浮腫の専門病院でも高額な費用がかかるのでしょう?

二人に一人ががんにかかるという時代に、その後遺症ともいえるリンパ浮腫に保険を認めないなんて絶対におかしいです。

置き去りにされたままの現状

リンパの会
リンパの会の会報誌「ながれ」

金井 イタリアで乳がんの手術をした会員の方がいらして、イタリアでは手術後専門のリハビリ師が必ずついてリンパ浮腫を起こさないためのマッサージ指導が徹底されるそうです。理学療法士によるリンパマッサージには保険の適用があるとか。リンパ浮腫は一度発症してしまうと完治が難しいですから、予防はとても大事です。日本でもそれが実現できればと願っています。

 でも予防どころか医者の中にはその知識さえ欠如している人がいます。置き去りにされたままの現状には憤りすら覚えます。保険の問題がからんでくるのでしょうけど、“リンパ節郭清とリンパ浮腫が分離した状態”であるところにも大きな問題があると思います。大変な状態になって初めて“リンパ浮腫”という病気を知るのではなく、前もって予防することができれば、それにこしたことはないですから。

そのことに対して会として何か政治的な行動を起こしたことはありますか?

金井 はい。嘆願書を参議院、衆議院にもっていったり、去年の春、衆議院議員にお会いして直訴しました。でもご自分や家族が経験したわけではないので他人事なんですね。親身さがないというか。それっきりでした。

 今度行動を起こすときはぜひ声をかけてください。一緒にやりましょう。そういったことは、効率的なルートを研究して、めげずに何度も何度もやらなければダメなんです。一度やってダメだったからと諦めてはいつまでたっても取り上げてもらえない。“継続は力なり”です。

金井 ありがとうございます。保険が適用になれば専門医やリンパセラピストも増えるでしょうし、予防対策にも本腰を入れてもらえると思います。スリーブやストッキングも安価に手に入れられますし。

 ところで、会報誌の名前が“ながれ”なのは、リンパの流れを願ってのネーミングなんですね。切実さが伝わってきます。

金井 立ち上げてから今年で15年になりますが、リンパ浮腫の講演など、以前より情報は多くなりましたが、地域格差があります。情報が行き渡っているとはまだ言えません。症状は進行していきますので、1日も早く有効な情報を得て、毎日の生活に取り入れていかなければなりません。会としても火曜日と金曜日の午後1時から4時まで電話相談を受けておりますので、悩んでおられる方はまず、電話して欲しいと思います。

 根気よく声をあげ続けて、一歩一歩進んでいきましょう。一緒に頑張りましょう。

対談を終えて-俵さんの感想-

医師が自分の手術の後始末をきちんとせず、勉強すらしようとしない医療の現状はひどく、本当に憤りを感じます。術後のケアまで含め、『手術が成功した』といえる時代が来ることを願ってやみません。

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1989年、リンパ浮腫の治療に取り組む廣田彰男医師とリンパ浮腫に悩む患者によって設立される。専門家を講師に迎えての年1回の講演開催、会員の体験記や日常生活上の注意を掲載した機関誌「ながれ」(年1回)を発行するなど、患者にとって有効な情報を収集、提供している。安心してリンパ浮腫の治療が受けられる社会を目指し、保険制度改革の必要性を行政に訴える。

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