最初に手術を選択したほうが再発した場合、次の一手が

回答者●古賀文隆
がん・感染症センター都立駒込病院腎泌尿器外科部長
発行:2025年1月
更新:2025年1月

検診でPSA値が5.2で、その後の精密検査で悪性度が7。組織生検でがん細胞が見つかりました。MRI検査で前立腺の左側に約6㎜の腫瘍が見つかりましたが、転移はありませんでした。主治医から根治治療として、手術か放射線治療のどちらかを勧められていますが、どちらを選択すればいいのか、迷っています。

(61歳 男性 神奈川県)

それぞれの特徴をよく理解した上での選択を

がん・感染症センター都立駒込病院
腎泌尿器外科部長の古賀文隆さん

相談者は中リスクの限局性前立腺がんであり、根治治療を受けることで10年後に前立腺がんで命を脅かされる可能性は極めて低い病状です。

「前立腺がんで命を脅かされない」ことを目的に治療法を選択するならば、手術、放射線治療のいずれを選択しても目的は達成できると言えます。どちらの治療を選択するかは個々の患者さんの判断に委ねられ、それぞれの治療の特徴を理解したうえで選択することになります。

●手術療法(前立腺全摘除):全身麻酔をかけて前立腺を摘除します。大部分の限局がん症例で手術療法のみで完治を期待できます。術後は尿が漏れやすくなりますが、漏れの程度は病状や施設や術者の経験や技量によりさまざまですが、一般的に1年程度で大多数の方は生活に支障が出ない程度まで回復すると報告されています。

前立腺が精液の液体成分を作るので、術後射精はできなくなります。勃起機能は低下しますが、勃起神経温存手術により早期回復を期待できます。現在、日本の多くの施設ではダヴィンチなどの手術支援ロボットを用いた腹腔鏡下前立腺全摘除が行われています。

都立駒込病院のロボット支援手術の場合、入院期間は6~7日、尿漏れは術後3カ月で殆どの患者さんが日常生活に支障がない程度(尿漏れパッド不要または念のため1日1枚使用)に回復しています。勃起神経温存手術を実施した症例の80%が、術後1年以内に勃起反応が回復しています。

●放射線治療(強度変調放射線治療):放射線療法で最も多く行われているのは強度変調放射線治療で、中リスクがんでは6カ月間ホルモン療法を併用し、入院を必要とせず、1~2カ月弱の間、毎日通院して治療を行います。

手術療法と異なり、放射線治療では尿漏れが起きにくいことが利点です。性機能も比較的温存されますが、ホルモン療法中は性欲や勃起機能が低下します。手術療法では、排尿状態や性機能は治療直後で大きく低下し、その後は回復していきます。

放射線治療では、治療中は排尿状態や性機能に著しい変化はないものの、治療後に時間をかけて徐々に低下していきます。治療後の排尿状態や性機能に関するQOL(生活の質)を手術と放射線治療とで比較した研究によると、治療後5年間は放射線治療のほうが手術よりQOLが良好であったものの、5年目以降は手術が逆転して良好であったと報告されています。

●PSA再発時の治療:手術と放射線治療では治療後再発した場合の治療法が異なります。いずれの治療を受けた場合も、中リスクがんの場合、5年後で10~30%程度の患者さんがPSA再発(基準値を超えたPSAの再上昇)を経験します。

手術と放射線治療でPSA再発の定義が異なるため、治療効果の優劣を単純に比較することはできませんが、手術療法後は救済放射線治療で、放射線治療後は救済前立腺全摘除で根治を期待できます。

救済前立腺全摘除では、放射線治療の影響で前立腺周囲組織の繊維化と血流低下が起こり、合併症や排尿・性機能障害のリスクが高まるため、救済手術を選択する患者さんは実際には少ないのが現状です。そのため放射線治療後再発の患者さんの多くは、根治治療ではなく男性ホルモン除去療法を選択されます。

この療法は根治が目的ではなく、病勢コントロールが目的となります。男性ホルモンは男性の健康の下支えをしているため、長期の男性ホルモン除去療法は、男性の健康度を低下させます。具体的にはメタボの傾向が強くなり、心筋梗塞や脳梗塞による死亡リスク上昇が知られています。また、認知能が低下する方もおられます。最初に手術を選択したほうが、PSA再発が起きた場合の男性ホルモン除去療法を避けられる可能性は高いと言えます。

同じカテゴリーの最新記事