第1回 病は「胃」から始まる

話・監修●今中健二 中医師/神戸大学大学院非常勤講師
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年1月
更新:2021年1月


毎朝、舌を見る習慣をつけましょう

がんであってもなくても、自分自身の体質が陰陽どちらにあるかを判断することはとても大切。それによって、日常的な対処法が違ってくるからです。

今現在、がんを患っているのであれば、西洋医学で治療しながら、同時に、そのがんを生み出した体質を中医学で改善していきましょう。また、がんを克服されたサバイバーの方ならば、中医学を知って、今後、がんを生み出しにくい体質に変えていきましょう。

ちなみに、陰陽は中医学の根っこになる考え方ですが、決してどちらが良いとか悪いというものではありません。単に、性質を分けているだけ。かつ、陰陽はバランスで決まるので、自身の体がどちらにより傾いているかで判断します。

体が陰陽どちらのタイプであるかを判断する手段は「舌を見ること」です。舌と内臓は経絡で繋がっているので、内臓全般、中でもとくに胃の様子がそのまま表れます。つまり、舌はリアルタイムで胃の状態を映し出してくれる鏡といっても過言ではありません。

舌が全体的に赤く、舌苔(ぜったい)が黄色いときは、体がに傾いています。舌の苔は胃酸の分泌状況を示します。黄色っぽい舌苔は、胃酸が出過ぎて胃の中が煮詰まっているということ。熱が籠り、上へ上がっていくので逆流性食道炎を起こすこともあります。これは食べ過ぎで栄養過多になっている場合がほとんどです。また、のときは気力に満ちているので、舌全体が大きめで張りがあるのも特徴です。

対して、舌が全体的に白い苔に覆われて、白っぽい舌になっているときは、体がに傾いています。白い苔は胃の中に消化できない食べ物がずっと残っている状態を表します。いわゆる「胃もたれ」の感じでしょうか。これは、水分の摂り過ぎが原因であることが多く、胃が水で溢れ、むくんでいる状態を示しています。

胃と同様、舌もむくんでボテッと大きくなり、かつ張りが失われるので、舌の側面に歯型がついてボコボコしてくるのも特徴。のときは、舌自体に気力があって中から膨らむので、大きくても歯型はつきません(図2)。

舌の状態は、実は体全体、もっと言うと、体内の細胞すべてに起きていることを表しています。舌の側面に歯型がつくタイプの人は、頬杖をついていたら、頬に指の跡がすぐにつきます。内臓も同じで、柔らかくて張りがない。つまり、内臓にものが停滞したら、内臓自体に張りがないので破れやすいとも言えるのです。

強い香辛料で胃を傷めるのがこのタイプ。抗生剤など強い薬にも弱いです。よく「胃が荒れている」と表現されますが、あれは胃の中に擦り傷ができていたり、破れて出血している状態を言うのです。

自身の体の状態を知るために、もっとも簡単で、しかも正確な方法が「舌を見ること」。毎朝起きたら飲食や歯みがき前に、舌を観察してみてください。

食べ過ぎない! 水を飲み過ぎない!

自身の体が陰陽、どちらに傾いているかがわかったら、そのバランスをとるための対策をとっていきましょう。

●赤い舌の熱タイプで、体が��に傾いている場合

主たる要因は食べ過ぎの栄養過多です。栄養価の高い肉や甘いものの食べ過ぎで血液が濃くなり、濃縮され、さらに血液量そのものが増え過ぎていることもあります。

「栄養を摂ろう」と頑張っているタイプに多く、野菜も白菜や大根など白いものより、ほうれん草やカボチャといった栄養価の高いものばかりを選んで食べている傾向も。栄養は大切ですが、摂り過ぎは返って毒になることを知って、まずは食べる量を減らしてみてください。

●白い舌の水分タイプで、体がに傾いている場合

まず水分摂取を控えてみてください。これまで、意識的に水を飲むようにしてきませんでしたか? もしかしたら、それは体が求めている水分量を大幅に超えて胃をむくませ、溢れた水が体中を巡って、むくみを起こしているかもしれません。ただし、抗がん薬治療中は多めの水分摂取が必要な場合もありますので、医師に相談してみましょう。

胃から溢れた水分は体中にむくみとして現われますが、とくに足やお尻など下のほうに溜まりやすいのも特徴です。それを上へ上げて、汗や尿として外へ出したいですよね。そのためにはやはり運動が必要です。むくみは、運動をある程度の時間続けることで汗になって出ていってくれます。家の中をちょっと動く程度では不十分。汗をかくぐらいの適度な運動を継続すると効果があります。

ちなみに体内の水分が冷えて固まったものが脂肪。つまり、ウォーキングなどである程度の時間運動して体が温まってくると、脂肪が水分に変わり、液体となって体を循環し、最終的には汗や尿として体外に出ていってくれるのです。

ウイルスから体を守る抵抗力にも

こうして見てくると、人の体を司っているのは「胃」だということがわかるのではないでしょうか。さらに中医学的に言うと、体の要(かなめ)は「胃と脾臓」。胃と脾臓で気、血、津液を作り、体中に分配しているのです。

飲食物を最初に取り込んで消化するのが胃。そして、その消化物をどこにどの割合で分配するかを決める司令塔の役割を果たすのが脾臓です。例えば、あなたは栄養分だから肝臓に行って蓄えられなさい、あなたは水分なので腎臓に行って尿になりなさい、あなたは気なので肺に行って呼吸の原料になりなさいよ、といった具合です。

要である胃が過重労働でオーバーヒートしたり、水浸しになってむくんでしまっては、十分に働くことができず、その影響は体全体に及びます。まずは、自身の体が陰陽どちらに傾いているかを知り、バランスよい状態になるよう対策をとることで、胃が元気になります。それはすなわち、がんになりにくい体質を作ることであり、同時に、体の外から入ってくるウイルスや細菌といった邪(よこしま)なものから身を守る抵抗力にも繋がっていきます。

病は「胃」から。そう意識して、日々、胃を労わって過ごしたいものです。

次回は、がん治療に伴って体重減少が起きたとき、体の中では何が起こっているのか、そして、どう対策すればいいのかについてお話します。(次号へ続く)

 

著書紹介

「胃のむくみ」をとると健康になる

今中健二著 サンマーク出版 1,400円(本体)

「水は飲むほど体にいい」に警鐘を鳴らす1冊。過剰な水分摂取が胃をむくませ、そのむくみが体中に伝わって不調が現われるのだという。その症状は、頭痛、腰痛、高血圧、糖尿病、生理痛、肥満、貧血、不妊症、肺炎、がん、緑内障など多岐に渡る。中国伝統医学のプロフェッショナルが教える究極の健康法

医療従事者のための中医学入門

今中健二著 メディカ出版 3,000円(本体)

整体観、陰陽五行学説、弁証理論など、複雑に思える中医学の概念を分かりやすく明快に解説。医療従事者はもちろん、家族の健康を気遣うお母さんたちにも知ってほしい中医学の知識を伝える。舌や顔色でわかる体質や対処法、それに合わせた食事や温度調整など、実際のケアに役立つ知識をまとめた1冊

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