第2回 体重減少を不安に感じたとき

話・監修●今中健二 中医師/神戸大学大学院非常勤講師
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年2月
更新:2021年2月


色の濃い野菜が血を作る!?

血を作り出す食品の筆頭を「レバー」だと思っていませんか? 動物の肝臓であるレバーを食べても、実は自身の肝臓の細胞を増やすだけです。面白いことに、動物性の食品を摂取すると、人間の体はその遺伝子を分解して自身の体に使えそうなものを流用します。だからレバーを食べると、体は「これは肝臓の回復にちょうどいいな」ということで肝臓の修復に使います。元気な肝臓を持っている人にレバーは必要ないわけです。

では、血を増やすには何を食べたらいいのでしょうか。

それは植物性の食べ物、つまり野菜や果物です。造血作用のある食品を並べてみると、ほうれん草、小松菜、ひじき、昆布、黒きくらげ、ブルーベリー……そう、すべて色の濃い植物です。

メカニズムは複雑なので省略しますが、色が濃い植物性のものを食べたら、血が増えます。緑黄色野菜や海藻など色の濃い植物は血を増やし、白菜やキャベツ、大根など色の薄い植物は水分(津液)を増やします。

さらに言うと、白菜の中でも、白い軸の部分は水分を増やし、緑色の葉は血を増やす。貧血気味なら緑の部分、糖尿病で血が濃いなら軸の白い部分というように、家族の中でも体質によって食べる部位を変えてもいいですね。ポイントは色の濃さです(図2)。

肉や魚はどう摂ったらいいの?

一方、動物は自ら動く生き物なので「気」が強い。動物性のものを食べると元気になります。ただ、「気力アップしよう」とサーロインばかり食べていたら、お腹周りの肉が増えるだけ。肩ロースばかり食べていたら、肩周辺の肉がつきます。逆に、この摂理をうまく使ったらどうなるでしょうか。例えば、皮膚を傷めているなら鶏の皮がお薦め。皮にはコラーゲンが多く含まれていて、皮膚の修復を早めてくれます。

小魚など、頭から尻尾まで丸ごと食べられる食品は万能です。とくに骨粗鬆症には、骨まで食べられる小魚がいいですね。丸ごと食べるのが難しかったら、出汁(だし)にとればエキスとして摂取できます。卵や牛乳も骨や血の材料を豊富に含む総合栄養食です。

ただし、動物性の食品を摂るときは、胃が元気でないと消化できません。抗がん薬治療中や胃薬の服用中、胃もたれを起こしているときなどは、ひと手間加えて、流動食にしましょう。赤ちゃんの離乳食のイメージです。刺身やステーキなど自力で噛みきれない食材は避け、魚ならつみれやかまぼこ、肉ならハンバーグやロールキャベツ。焼くより炊くほうが胃に優しいので、ロールキャベツのほうがいいかもしれません。

筋力をつけて自力で歩くために

次に、体重減少で体力の低下を感じているときに薦めたい運動を紹介します。

血が不足すると手足の筋肉に栄養が届きにくく、筋力低下を起こしがち。深刻なのは足の筋力低下で歩くのが億劫に���ったり、実際に歩けなくなったりすることです。そこで、治療中や回復期に習慣にしたい簡単なスクワットを紹介します。

バランスを崩しても大丈夫なようにベッドサイドで行いましょう。足がふらつく場合は、片手をベッドサイドに添えて行ってください。両サイドに掴まれるものがあると、なおよいですね。

①ベッドサイドに座り、太腿(ふともも)に掌(てのひら)をあてます。そのままゆっくり腰を浮かせ、いったんストップ。そのとき太腿の筋肉が硬くなっているのを感じながら、ゆっくり立ち上がります。

②そこから座っていきますが、途中でストップ。掌は太腿にあてたまま、筋肉が硬くパンパンになっていたらOK。そのままゆっくり座ります(図3)。

立つ、座るだけの簡単なスクワットですが、ポイントは動きの途中でいったん止めて、太腿の筋肉が硬く張っているのを掌で感じながら、ゆっくり続けること。10回を1セットとしてトライしてみてください。

最初は1回がやっとかもしれませんが、それでいいのです。繰り返すうちに1回が3回になり5回になり、1セットできるようになります。慣れてきたら、トイレに行くたびに1セットなど、1日に何度も行うのが理想的。毎日続けたら、あっという間に太腿に筋肉がついてきて、細かった足が太くなっていきます。そして、ふらつきが軽減し、歩行が怖くなくなると思います。

胃の調子も整えるスクワット、大事なのは回数

回復期の運動に大切なのは、長時間続けることではなく、回数。太腿の筋肉が硬くなっていることを感じる回数が多いほど効果があります。実は太腿には胃の経絡(けいらく)が通っているので、この運動は、筋力アップと同時に、経絡を刺激して胃を元気にしてくれます。胃の調子が整ってくると食欲が回復し、血も作れるようになるのです。一挙両得のスクワット、ぜひ習慣にしましょう。

血を作り出す食品を摂取し、筋力アップのスクワットを続けていくと、血が少しずつ増えていき、気血は連動しているので、気力もアップします。顔色がよくなって体が軽くなれば、徐々に動けるようになり、行動範囲も広がるでしょう。朝、鏡を見たときに「今日は顔色がいいな」と思えること、それが何より大切なのです。

次回は、抗がん薬治療に伴うさまざまな副作用を和らげる方法について、経絡からアプローチしてお話しようと思います。(次号へ続く)

経絡(けいらく)=中医学では、私たちの体には12本の「エネルギーの通り道(経絡)」があると考えます。それらは、頭や顔、内臓や手足を繋ぐように体中を張り巡らされていて、胃の経絡はその1本です。

 

著書紹介

「胃のむくみ」をとると健康になる

今中健二著 サンマーク出版 1,400円(本体)

「水は飲むほど体にいい」に警鐘を鳴らす1冊。過剰な水分摂取が胃をむくませ、そのむくみが体中に伝わって不調が現われるのだという。その症状は、頭痛、腰痛、高血圧、糖尿病、生理痛、肥満、貧血、不妊症、肺炎、がん、緑内障など多岐に渡る。中国伝統医学のプロフェッショナルが教える究極の健康法

医療従事者のための中医学入門

今中健二著 メディカ出版 3,000円(本体)

整体観、陰陽五行学説、弁証理論など、複雑に思える中医学の概念を分かりやすく明快に解説。医療従事者はもちろん、家族の健康を気遣うお母さんたちにも知ってほしい中医学の知識を伝える。舌や顔色でわかる体質や対処法、それに合わせた食事や温度調整など、実際のケアに役立つ知識をまとめた1冊

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