第4回 抗がん薬の副作用を中医学で緩和する 歩行困難・しびれ編

話・監修●今中健二 中医師/神戸大学大学院非常勤講師
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年4月
更新:2021年4月


「しびれ」にも経絡マッサージを

太腿のマッサージとスクワットは、実は、足の「しびれ」にも効果があります。しびれも、経絡が滞って気血が流れにくくなったことが原因。太腿の表側がしびれる場合は胃の経絡、裏側がしびれる場合は、膀胱の経絡に詰まりが起きていると考えられます。

さらに言うと、裏側のしびれは、気血の滞りを起こしていなくても、腰周りの水分が固まってむくんだことで、経絡を圧迫して起きていることも少なくありません。それほどに腰周りはむくみやすいのです。

ただ、太腿の裏側のしびれについては、自身では手が届かないので、セルフマッサージは少々難しいと思います。これについては別の回で「家族ができるマッサージ法」として詳しく話したいと思います。

ともかく、足がしびれたら、まずは太腿の表側を上から下へ流すようにさすります。胃の経絡を流すこのマッサージと前述のスクワットで、少しずつ緩和させていきましょう。

手の症状は脇下リンパ節のむくみから

手にしびれが出ることも多いですね。腕の付け根の脇の下にはリンパ節があり、肺の経絡や大腸の経絡など、いくつもの経絡が立ち寄る関所のような場所。抗がん薬で胃の水分が固まってむくむと、そのむくみはじわじわと周囲に広がり、脇のリンパ節にも到達します。すると、まずはその先の腕に気血がスムーズに流れなくなり、手にしびれが出やすくなるのです。

しびれを予防、緩和するために、できれば抗がん薬治療が始まる前から脇のリンパ節をマッサージしましょう。方法は簡単。左右交互に、脇の下に親指の腹を入れて少し強めに刺激します。固まったむくみをゴリゴリ溶かしていくイメージです(図4)。

さらに、手や腕に溜まった血を動かしていくために、「グーパー」を繰り返したり、腕を上に伸ばすストレッチもおすすめ(図4)。腕にがんは転移しないので、脇の下のむくみをどれだけ溶かしても、気血をどれだけ流しても大丈夫です。むくみを溶かし、気血が腕から指先までしっかり流れ、かつ戻って来れるようになれば、腕や手のしびれはずいぶん緩和されると思います。

手に現れる症状は、しびれだけではありません。血が循環しづらくなるので、皮膚や爪が分厚く硬くなったり(角質肥厚)、指の関節が腫れてきたり、手や指に黒いしみや皺が目立つようになったりもします。

こうした症状にも脇の下のリンパ節マッサージと両腕のストレッチは効果的。そこにハンドマッサージを加えましょう。何でもいいので保湿���クリームを使って、掌(てのひら)から指先まで、気持ちいい程度に押し流しながらマッサージします。目的はクリームを皮膚に塗ることではなく、血行をよくすること。ですから、クリームを中まで浸透させるイメージで、内側から外側へ向かって押し流します。掌全体が温かく、柔らかくなってきたらOKです(図4)。

ちなみに、倦怠感もむくみによって起こりますから、脇下マッサージや太腿の経絡のマッサージを続けることが緩和策になります。

治療が終われば元に戻るから大丈夫

とはいえ、やはり抗がん薬治療は体全体に気血不足を起こしますから、元気を奪われ、食欲も減退します。体のあちこちでしびれや痛みが起きたり、口内炎や脱毛に悩まされたり。そんなときに「落ち込まないで」と言われても無理ですよね。

ただ、忘れてほしくないのは、これらの症状はすべて抗がん薬の副作用だということ。治療が終われば気血も増えて徐々に元に戻ります。中には症状が長引く場合もありますが、そのときは気血を補い、むくみを取っていくことで軽減させていけばいい。それくらいの気持ちで、おおらかに治療に臨んでほしいと思います。

次回は、がん治療中の感染症対策についてお話します。(次号へ続く)

 

著書紹介

「胃のむくみ」をとると健康になる

今中健二著 サンマーク出版 1,400円(本体)

「水は飲むほど体にいい」に警鐘を鳴らす1冊。過剰な水分摂取が胃をむくませ、そのむくみが体中に伝わって不調が現われるのだという。その症状は、頭痛、腰痛、高血圧、糖尿病、生理痛、肥満、貧血、不妊症、肺炎、がん、緑内障など多岐に渡る。中国伝統医学のプロフェッショナルが教える究極の健康法

医療従事者のための中医学入門

今中健二著 メディカ出版 3,000円(本体)

整体観、陰陽五行学説、弁証理論など、複雑に思える中医学の概念を分かりやすく明快に解説。医療従事者はもちろん、家族の健康を気遣うお母さんたちにも知ってほしい中医学の知識を伝える。舌や顔色でわかる体質や対処法、それに合わせた食事や温度調整など、実際のケアに役立つ知識をまとめた1冊

1 2

同じカテゴリーの最新記事