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第7回 食事療法 後編 ―がんを再発させないために―
虚弱が強いときは、フコイダンやキトサンも
陰タイプで虚弱が強い場合には、昆布を濃縮したフコイダンや、甲殻類と貝類のエキスを濃縮したキトサンといった栄養補助食品の力を借りる時期があってもよいと思います。ただし、気をつけたい注意点もあります。
フコイダンの原材料は昆布なので、気血増加を促すとともに、水分を下におろします。ですから、フコイダンを摂取して動かずにじっとしていると、水分が下半身に溜まってむくみを引き起こしてしまうのです。昆布の力を享受するには、気血を循環させてあげることが大切。ウォーキングなどの無理なくできる運動、運動が難しければ足のマッサージを行って、増えた気血をしっかり体の隅々まで送り届けるとともに、下におりた水分を腎臓に送り、尿として速やかに排出させるという体内のルーティンを作り出しましょう。湯船にゆっくり浸かる入浴もいいですね(図3)。

キトサンの原材料は貝類と甲殻類。貝類や甲殻類は、死んだ魚などの動物性タンパク質、つまり有機物を食べて海水を浄化しています。ここで発想を大きくして考えてほしいのですが、人間の体でいうと、海は肝臓に該当します。山から流れ出した湧き水が最後に行き着く場所が海。そして、血液が流れて最後に行き着くのが肝臓。海水をきれいにする貝類や甲殻類は、体内では肝臓をきれいに掃除してくれるのです。
よく「アサリやシジミはきれいな水にしか住まない」と言われますが、あれは逆で、アサリやシジミが水をきれいにしてくれているのです。というわけで、貝類と甲殻類のエキスを濃縮したキトサンは、肝臓に溜まった血を浄化してくれる作用があります。ただし、同時に血を濃縮する作用も大きいので、やはり陰タイプにお薦めの食品と言えるでしょう。血が濃い人が摂取するとアレルギー反応を起こす可能性があるので注意が必要です。
栄養補助食品は成分が濃縮されているので、良くも悪くも作用が強く現われます。だからこそ、原材料は何か、それらにはどのような作用があるかをしっかり把握した上で、過剰摂取しないよう注意しなくてはなりません。それさえ守れば、虚弱な状態にあって、体を速やかに回復させたいときには大きな助けになってくれると思います。
「老年期」には〝普通の食生活〟へ
治療後の経過観察が3カ月、半年と伸びていき、「次は1年後でいいでしょう」という状況になったら、がんは「老年期」へと入っていきます。これは、例えごく小さいがんが体内に存在していたとしても、腫瘍マーカーの数値が全く上がらない、もう成長しないだろうと判断できる状態に至ったということ。つまり、がんが「お年寄り」になったわけです。
ちなみに、これは人間の年齢ではなく、あくまでもがん細胞の年齢です。「サバイバー」はこの段階になります。ここまで来れば、以前のがんが再び悪さをすることはないでしょう。ここから先に目指すべきは、新しいがんを��度と生み出さない体内環境にすることです。
「老年期」になれば、食生活を〝普通〟に戻して構いません。もちろん、がんになる前の食生活を反省した後の〝普通の食生活〟という意味です。このころには、がんになって数年が経過しています。その間、食生活を見直し、食材を選んで過ごしてきていますから、〝普通の食生活〟が、がんになる前とはかなり違っていると思うのです。
食べ過ぎ、飲み過ぎがどのような状態かも十分理解できているでしょう。そうした状態にならないように過ごしてきた数年間、がんが再び現れなかったのであれば、その食生活が貴方には合っているということです。自信を持って、ご自身の〝普通の食生活〟を続けてください。
「お茶文化」について考える
ただ、この段階に来ても、意識して気をつけてほしいことがあります。それは、おやつ類。お菓子や果物の摂り過ぎだけは、ぜひ注意し続けてください。気を抜くと、つい分量が増えていくのが「おやつ」です。とくに「タピオカ」など、流行りの新しいスイーツに飛びつかないように。あれは糖分の宝庫です(笑)。
最後に、壮年期、老年期を通して考えてほしいのが「お茶文化」についてです。食後にお腹いっぱいなのに習慣で「お茶」を飲んでいませんか? さらに日本には昔から、午後3時には「お茶にしましょう」という文化があります。喉が渇いていようがいまいが、「3時にはお茶」。中には「10時のお茶」というのもあるそうで(図4)。

繰り返しますが、お茶は喉が渇いているときに飲むものです。時間を決めて飲むものではないし、淹れてくれたからといって全部飲まなければいけないわけでもありません。コーヒーも紅茶も同じです。体は欲していないのに、つい飲んでいることに気づいたら、その習慣をぜひ改めてほしいのです。しつこいですが、お茶は喉が渇いているときに飲みましょう。
次回は、がん治療中の「睡眠」について考えてみたいと思います。(次号へ続く)
著書紹介

「胃のむくみ」をとると健康になる
今中健二著 サンマーク出版 1,400円(本体)
「水は飲むほど体にいい」に警鐘を鳴らす1冊。過剰な水分摂取が胃をむくませ、そのむくみが体中に伝わって不調が現われるのだという。その症状は、頭痛、腰痛、高血圧、糖尿病、生理痛、肥満、貧血、不妊症、肺炎、がん、緑内障など多岐に渡る。中国伝統医学のプロフェッショナルが教える究極の健康法

医療従事者のための中医学入門
今中健二著 メディカ出版 3,000円(本体)
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