第8回 睡眠の力 心地よい眠りにつくために

話・監修●今中健二 中医師/神戸大学大学院非常勤講師
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年8月
更新:2021年8月


速やかに眠りに入るコツ

手足の冷えは、そのほとんどの原因がむくみ。むくみで血行不良が起き、手足に血液が届かなくなって冷たくなっています。末端に血が巡らなくなると、行き場を失った血液は水蒸気とともに上へ昇り、頭部へ流れ込んでいくのです。こんなときは、手足のむくみをとって、体全体に血流が巡るようにしましょう。

先述のように、湯船にゆっくり浸かって手足を温め、むくみを溶かします。その後、温まった手足が冷える前に布団に入りましょう。冷え性の方は、布団の中でも、ゆったりめの靴下を履いてみてください。レッグウォーマーもおすすめです。夏場は関係ないと思いがちですが、上半身は暑いのに下半身が冷たいという状態は、夏でも珍しくありません。とくにエアコン使用中は要注意です。

安眠へいざなうマッサージ

お風呂で温まり、足先も温かいまま布団に入ったのに眠れない……。そんなときは、まだ頭に血が流れ込んできているので、その血流を穏やかにするマッサージを行ってみるといいですね。

両手5本の指をピアノを弾くように丸く固定し、指の腹でゆっくり、頭皮の各所を押さえます。大切なのは押さえるだけで、流したり散らしたりしないこと(動画)。血管の拍動に合わせて、優しい力でゆっくり押さえていくと、頭部の脂肪(むくみ)が少しずつ溶けて水になります。かといって流さないので、溶けた水分がその場にちょっとした血行不良を作り出し、血液の流れ込みを穏やかにしてくれるのです。

それでも眠れないときは、おでこマッサージを行ってみてください。

両方の親指を逆さにして、目頭のすぐ上に置き、そこから深めにギューッと押し込みながら、額の生え際まで、ゆっくり少しずつ上に引っ張り上げます。眉間の中央部にある印堂(いんどう)というツボを刺激して眠りを誘うマッサージ。印堂は安定に導くツボです(動画)。

さらに、首筋をマッサージしてコリをとってあげるのもおすすめです(動画)。首筋が凝って詰まっていると、頭部から降りてくる静脈の流れが妨げられて、頭に血が溜まりがちになるのかもしれません。首筋をやわらかくすると眠くなることが多いので、試してみてください。

■動画 入眠を誘う頭皮・おでこ・首筋マッサージ

また、平常時から熱が高めだったり、赤ら顔の方など、体質的に血が頭部に昇りやすい人は、冷やすのも効果的です。頭に集まってきた血を冷やして、シンプルにクールダウンするイメージです。水枕を使うのも一考。ただし、これはあくまでも赤ら顔の方、微熱気味の方、顔が火照(ほて)っている方に限ります。加減については、マッサージにしろ、冷やすにしろ、それを行って「気持ちいい」ことが目安です。

睡眠のコアタイムは夜11時から夜中3時

最後に、睡眠の時間帯にについてお話ししたいと思います。

ずばり、睡眠のコアタイムは夜11時から夜中3時。ここは「肝臓の時間帯」と言われていて、血流に載せて体中から使用済みの血液を回収し、いったん肝臓に蓄え、そこから老廃物を尿として排泄するための準備をする時間帯です。

中でも、夜11時から夜中の1時までは発汗の時間。寝汗をかいたり、ときに呼吸を荒くしてクールダウンします。そして、夜中の1時から3時は使用済みの血液から老廃物をかき集める時間。肝臓に集められた血液から老廃物を濾(こ)し出し、腎臓に運んで尿を作り出します。

加えて、がん治療中をはじめ、風邪のひきはじめなど体調不良を感じたときは、実は夜9時から11時の時間帯もとても大切です。

三焦経の時間帯

この2時間は、気血が経絡(けいらく)を介して体の隅々までパトロールし、不調な場所がないかを見回る時間帯。中医学では「三焦経(さんしょうけい)の時間」と表現します。

がん治療中、体調不良の方、とくに腹水や胸水に問題を抱える方は、三焦経の時間帯を大切にしてほしいと思います。つまり、この時間帯に血液循環を良い状態に持っていきたいので、入浴時間を早めにし、夜9時を目安に、早めに布団に入ることを習慣にしてください。

枕はご自身の寝心地優先で大丈夫。ただし、熱が上に昇ってきがちな赤ら顔の人は、頭部を包み込む柔らかいタイプではなく、そば殻など通気性の良い材質の少し硬めの枕がおすすめです。

いろいろお話してきましたが、眠れない日があってもあまり気にせず、「そんな日もあるよ」くらいの気持ちでいましょう。睡眠は「意識のない眠り」だけを意味するのではありません。例え眠れなくても、体を横たえているだけでむくみは解消され、血流が良くなり、体はある程度、回復します。

まずは、夜9時になったら、その場に転がってみるだけでもいいですね。次号は「家族がしてあげられる、手足の痛みやしびれを和らげるマッサージ」についてお話しようと思います。(次号へ続く)

経絡(けいらく):気血が流れるエネルギーの通り道。経絡は全部で12本あり、頭や顔、内臓や手足を繋ぐように体中に張り巡らされている

 

著書紹介

「胃のむくみ」をとると健康になる

今中健二著 サンマーク出版 1,400円(本体)

「水は飲むほど体にいい」に警鐘を鳴らす1冊。過剰な水分摂取が胃をむくませ、そのむくみが体中に伝わって不調が現われるのだという。その症状は、頭痛、腰痛、高血圧、糖尿病、生理痛、肥満、貧血、不妊症、肺炎、がん、緑内障など多岐に渡る。中国伝統医学のプロフェッショナルが教える究極の健康法

医療従事者のための中医学入門

今中健二著 メディカ出版 3,000円(本体)

整体観、陰陽五行学説、弁証理論など、複雑に思える中医学の概念を分かりやすく明快に解説。医療従事者はもちろん、家族の健康を気遣うお母さんたちにも知ってほしい中医学の知識を伝える。舌や顔色でわかる体質や対処法、それに合わせた食事や温度調整など、実際のケアに役立つ知識をまとめた1冊

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