- ホーム >
- 連載 >
- 中医師・今中健二のがんを生きる知恵
第9回 家族にもできる、手足の痛みを和らげるマッサージ
腕のマッサージ法、内側からスタートして外側を戻る
2パターンの痛みのメカニズムを知ったところで、いよいよ家族ができるマッサージ法を、パターン別に紹介していきたいと思います。
まずは1つ目のパターン。動脈付近で〝土砂崩れ〟が起きてその先に血液が流れづらくなっているときのマッサージ法から説明します。
腕は、付け根の内側(脇)をスタートして指先へ向かい、指先から腕の外側を通って肩側の付け根に戻ってきます。マッサージするときにぜひ実践してほしいのが、3回に分けて行うこと。腕には経絡が3本走っているので、1本ずつ、3分割して行うのが効果的です。
まず1本目は付け根の内側の上部分をスタートして親指に向かって、進行方向に血を流すように、じっくり、ゆっくり、マッサージします。2本目は付け根の内側の中央部から中指へ向かい、3本目は同じく内側の下部分をスタートして小指に向かって、ゆっくり流すようにマッサージ。
指先から腕の付け根に戻るときも同様です。1本目の帰りは、親指から腕の外側の上部分を通って肩を経由し鎖骨に向かいます。2本目は中指から腕の外側の真ん中を通って肩甲骨に向かい、3本目は小指から同じく外側の下部分を通って脇に向かってマッサージしていきます。
マッサージするときは、血液を進行方向に押し流すイメージを持ってください。表面だけでなく、深いところまで流したいので、「流す」ではなく、「押す」でもなく、「押し流す」です(動画1)。
脚マッサージも3分割で
脚の経絡も3本走っているので、同様に3分割してマッサージします。ただし、経絡の流れる向きが、腕と脚は逆なので注意しましょう。脚は付け根の外側からスタートします。直立姿勢をとったときの脚の外側(側面)と内側を意識してください。
1本目は付け根の側面の前側をスタートして太腿、膝のお皿を通って脛(すね)、そのまま足首、足先へ。そこから足の内側へ移動し、内側の前側を戻ります。親指を出発して脛から膝を通り、鼠径部に向かって、内股の前側を付け根に向かって優しく流してあげます。
2本目は付け根の側面の真横をスタート。ズボンの縫い目に沿うように太腿、膝下、足首まで行き、戻りは足裏の土踏まずから、脚の内側の真ん中を付け根に向かって戻ってきます。
3本目は側面の後ろ側をスタート。お尻の座骨神経から始めて太腿、膝裏、ふくらはぎをマッサージしますが、ここはとくに気持ちいいことが多いので、時間をかけてあげるといいと思います。ふくらはぎから足裏へ。そこから帰りは脚の内側へ移動し、内側の後ろ側、かかとからアキレス腱、膝裏を通って、肛門に向かって押し流します(動画1)。
これは血流を流すマッサージなので、マッサージが難しい状況の場合は、足浴や、タオルをレンジで温めて足の付け根や膝裏、ふくらはぎを温めてあげるのでもよいですね。
血流の渋滞にマッサージは禁物
2つ目のパターンの痛みは、全く違うアプローチになります。
これは進行方向の先でむくみが起きて血管がせき止められ、血液が渋滞を起こして流れなくなっていることが痛みの原因。ですから、マッサージをしてしまうとパンパンの血液をさらに押さえつけてしまうので、痛いだけ。患者さんが痛がるときはこちらのパターンなので、決して無理やりマッサージしないでください。
この場合は、渋滞の原因となっているむくみそのものを散らすというアプローチです。腕ならば、肩関節をゆっくり回してあげましょう。自分で回してもよいですが、ご家族が腕を持って付け根から回す手助けをしてあげるのもよいですね。また、バンザイの状態で腕を持ち、小刻みに振ってあげるのもよいでしょう。腕の付け根(脇)で凝り固まっているむくみを柔らかくして、流すイメージです。抗がん薬治療はとくに脇にむくみを作りやすいので、腕のストレッチは効果的です(動画2)。
むくみそのものにアプローチする方法
血流が渋滞することで起こる脚の痛みも、腕同様に抗がん薬治療が原因で頻発します。動脈は順調に流れていて、脚自体の血流は悪くなくても、血液が付け根に戻ってきたとき、鼠径部や肛門周辺、または骨盤の中でむくみが固まって静脈を圧迫してしまうケースが少なくないからです。すると、夜になると脚がむずがゆくなったり、うずくような痛みが続いて眠れないといった症状が現れます。
そんなときも、揉みほぐすマッサージは禁物。痛みが強くなるだけです。この場合も痛みの原因になっているむくみにアプローチするのが先決。まず、仰向けに横になった患者さんの膝を曲げて、カエルの脚の形にします。平泳ぎの仰向けスタイルと言ったらいいでしょうか。施術者が持つのは膝部分。患者さんに痛みがないことを確認しながら、片足ずつ、股関節をゆっくり、大きく回してあげます。そうすることで、凝り固まった脚の付け根や股関節が少しずつ柔らかくなって、静脈を圧迫しているむくみが流れていってくれるのです。必ず片足ずつ行いましょう(動画2)。
こうして静脈付近のむくみが解消されると血液が流れ始めるので、血液の渋滞が解消されて痛みが和らぐと同時に、今度は、マッサージしてもらうと心地よいと感じられるようになっていきます。
実は、股関節を柔らかくするこのストレッチは、むくみが静脈を圧迫している2つ目のパターンの患者さんだけでなく、動脈を圧迫している1つ目のパターンの方にも効果的。腕や脚の血管は、動脈のスタート地点も静脈のゴール地点も付け根であることに変わりはなく、むくみが起きている場所も非常に近いと考えられるからです。
家族にとって、体の痛みやしびれなど、さまざまな不調を訴える患者さんを前に、何もできず、ただ寄り添うしかないという状況は想像以上につらいことです。だからこそ、患者さんの痛みを少しでも和らげる手助けができることは、マッサージしてもらう患者さんのみならず、実は家族にとっても安堵をもたらすものだと思います。ぜひ、患者さんの痛みに寄り添い、そして自らの手で和らげてあげてください。(次号へ続く)
著書紹介

「胃のむくみ」をとると健康になる
今中健二著 サンマーク出版 1,400円(本体)
「水は飲むほど体にいい」に警鐘を鳴らす1冊。過剰な水分摂取が胃をむくませ、そのむくみが体中に伝わって不調が現われるのだという。その症状は、頭痛、腰痛、高血圧、糖尿病、生理痛、肥満、貧血、不妊症、肺炎、がん、緑内障など多岐に渡る。中国伝統医学のプロフェッショナルが教える究極の健康法

医療従事者のための中医学入門
今中健二著 メディカ出版 3,000円(本体)
整体観、陰陽五行学説、弁証理論など、複雑に思える中医学の概念を分かりやすく明快に解説。医療従事者はもちろん、家族の健康を気遣うお母さんたちにも知ってほしい中医学の知識を伝える。舌や顔色でわかる体質や対処法、それに合わせた食事や温度調整など、実際のケアに役立つ知識をまとめた1冊