第15回 肝がんは、肝臓以外の疾患がないか注意を!

話・監修●今中健二 中医師/神戸大学大学院非常勤講師
取材・文●菊池亜希子
発行:2022年3月
更新:2022年3月


腎臓や膀胱が、老廃物を捨てきれないとき

では、海に例えられる肝臓に炎症が起きるとは、どういうことなのでしょうか。

海である肝臓は、やってくるすべてを受け入れる大きな器です。海に異変が起きるのは、汚染された川の水が大量に注ぎ込んだり、大量の汚物や落ち葉が流れ込んだりした結果。つまり、海そのものの問題ではなく、注ぎ込む川の水に原因があるのです。

体内に老廃物が多すぎて腎臓が処理し切れず、肝臓に大量の老廃物が流れ込んでしまうと、異変が起こります。このケースは、腎臓のキャパシティオーバーだけでなく、膀胱が何らかの原因で尿を溜められなくなって老廃物の排出がうまくいかなくなっていることも考えられます。妊娠中に胎児が膀胱を圧迫したり、子宮筋腫が膀胱を圧迫することで、そうした状態になることもあるのです。

食べ過ぎが原因で肝がんになることも

汚れたが肝臓に流れ込む原因は、腎臓や膀胱だけでなく、胃にあることも実は多くあります。

食べ過ぎて栄養過多になると、経絡に沿って栄養分を分配し終えても、栄養分が大量に余ってしまい、溢れた栄養分は老廃物となって肝臓に行きつくことがあります。

老廃物なので、尿にして排出できれば問題ないのですが、腎臓にもキャパシティがあって処理できる量は限られます。ゴミ出しをしようとしたら、ゴミが大量過ぎて袋に入り切らず、「次回にまわそう……」といったイメージでしょうか。捨て切れなかった栄養分が老廃物となって、そのままゴールの肝臓まで流れついてしまうことが多々あるのです。

つまり、脂肪肝にせよ、肝炎にせよ、肝がんにせよ、肝臓の異変は、肝臓そのものが原因ではなく、他の場所に問題を抱えていて、それが肝臓で異変を引き起こした可能性が高いということを認識してほしいのです。

肝臓は、自分でがんを生み出す臓器ではありません。他の臓器から流れ込んできた原因物質によって、がんを発症します。つまり、肝臓にがんができたからといって、肝臓だけを注視せず、他の疾患がないかを見て、肝臓に老廃物が溜まった原因を探り当てようとする目を持っていただきたい。

食べ過ぎによる胃が原因の肝臓疾患

食べ過ぎが原因の場合、肝臓疾患以外にも、多々、症状が現れていることがあります。

口内炎、目頭の充血、片頭痛、乳がん、乳腺炎――これらは、食べ過ぎや栄養過多によって胃の経絡が異変を起こしたときに起こる代表的な熱性症状。他にも、逆流性食道炎や胃痛、膨満感といった症状はもちろん、一見関係なく思える股関節痛や膝痛も、胃の経絡疾患からくることが実は多くあります。

血液検査の数値でいうと、血糖値、コレステロール値、血圧などが高い状態も、胃の熱性症状を表しています。こう考えると、ほとんどの不調が胃から来ていることがわかると思います。

胃がんなら食べ物に気をつけようと思うけれど、肝がんだから食事量を控えようとは思わないでしょう。逆に、「栄養をとらなくちゃ」と必死で食べてしまいがち��す。実はそれが盲点。多くの病が食べ過ぎから来ていることも、覚えておいてほしいと思います。

腎臓、膀胱が原因の症状とは

腎臓に問題があるときは、腎臓疾患はもちろんですが、尿タンパクが出たり、クレアチニン値が高かったりします。

また、妊娠中の胎児、もしくは大きな子宮筋腫があることで、子宮が膀胱を押してしまって膀胱が膨らまず、尿を溜められなくなって老廃物の排泄ができなくなっている、というケースも散見しますので、要注意。

肝がんをはじめ、肝臓疾患があると知ったときは、肝臓に異変が起きた本当の原因を見極めるために、まず、自身に肝臓以外の疾患がないかを、目を凝らして見つめてほしいと思います。

繰り返しになりますが、肝臓は自分から問題を起こす臓器ではありません。ですから、肝臓のケアは、肝臓に流れ込んでくる問題物質を取り除く、もしくはできるだけ小さくするというふうに考えましょう。

たとえ海が汚染されても、広大な海からその汚染物質をすべて取り除くことは不可能です。できるのは、汚染物質を川に流している工場や町へのアプローチでしょう。

ゴミや汚染物質を出さない町に変えることこそがいちばんの対策。つまり、食べ過ぎないこと、腎臓を健康に保って尿をしっかり排出できるようにすること。それこそが肝臓疾患に対する何よりの対策。そのうえで、さらに肝臓ケアのためにできることをお伝えしたいと思います。

オーバーワークや疲労は肝臓の敵

肝臓は血液循環のゴール地点。肝臓にたどり着いたはここでしばらく休息して英気を養い、そしてまた、肺に戻って2巡目をスタートさせます。

そのためにも、は肝臓で英気を養うことが重要。そんなときに、筋肉を使い過ぎたり、オーバーワークや疲労を溜めたりするのは禁物です。

筋肉を激しく動かすと乳酸が出てきます。この乳酸、通常はさして問題になりませんが、あまりに疲労を溜め込んだり、筋肉疲労が激しかったりすると、乳酸が大量に作られて、それが老廃物となって肝臓に流れ込んでくることがあります。

ゴールしたが少しずつ肝臓に溜まり、新たな出発に向けて休息をとっているときに、そんなものが流れ込んできたら、肝臓はおちおち休んでいられない。しっかり休めないまま、2巡目に向かう羽目になってしまいます。

つまり、肝臓にとっては、オーバーワークや疲労は大敵。肝がんをはじめ、肝臓を患っているときは、なおのこと、過剰な運動や働きすぎは避けましょう。マラソンや激しい筋トレはNG。ストレッチやヨガなど心地よい程度の運動に切り替えてください。

肝臓にゴールしたが英気を養うには休息が必要。そのためには、疲労を溜めない。がんばらない。ゆったり過ごすことを心がけましょう。

魚介類は、肝臓をきれいにしてくれる

最後に、食べ物について触れておきます。

肝臓は海。海(水)をきれいにするものを食べると、肝臓をきれいにしてくれます。

それは、魚介類。とくに、アサリやシジミなどの貝類がよいですね。よく「アサリやシジミはきれいな海に住む」といわれますが、それは逆。彼らが海をきれいにしてくれているのです。

 

著書紹介

「胃のむくみ」をとると健康になる

今中健二著 サンマーク出版 1,400円(本体)

「水は飲むほど体にいい」に警鐘を鳴らす1冊。過剰な水分摂取が胃をむくませ、そのむくみが体中に伝わって不調が現われるのだという。その症状は、頭痛、腰痛、高血圧、糖尿病、生理痛、肥満、貧血、不妊症、肺炎、がん、緑内障など多岐に渡る。中国伝統医学のプロフェッショナルが教える究極の健康法

医療従事者のための中医学入門

今中健二著 メディカ出版 3,000円(本体)

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