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第17回 サバイバーという生き方 がんに傾かない体質を目指す!
がん治療後の養生、秋から冬の場合
がん治療が秋から冬にかけての時期に終了した場合、エネルギーが体の内側に集約されて内臓修復が促される季節に入ります。ぜひそれを上手に活用した過ごし方を心がけたいものです。自然に暮らしていれば内臓は修復されますので、その際に内臓から出る老廃物をスムーズに排出(排尿)できるようにすることだけ意識してください。
排尿をつかさどるのは、後頭部から背中、足の後ろ側を走る腎臓・膀胱の経絡。できる範囲でいいので、軽いウォーキングを日課にして、ふくらはぎの筋肉を使い、腎臓・膀胱の経絡を刺激しましょう。ウォーキングが難しい場合は、マッサージや入浴、仰向けに寝転んで足をあげて壁にあずける姿勢をとるのもおすすめ。水分を上にあげることで内臓に水分を送り、その水分で内臓から出たゴミを絡めとって尿にして排出してくれます。
その後、春に移行するころには内臓修復が進み、同時に、修復で出た老廃物が尿だけでは排出し切れず、体内に備蓄されているので、今度は春夏の拡散のエネルギーを使って、発汗して外に出していきましょう。これが季節を味方につけた内臓修復とデトックスの方法です。
がん治療後の養生、春から夏の場合
がん治療を春から夏にかけての時期に終えた場合は、少し注意が必要です。
治療直後は、まず内臓の修復をしたいところですが、夏場は血流など体内のエネルギーが外側へ拡散するため、内臓に血液が集まらず、内臓修復は進みません。かといって、この時期に無理して運動を開始すると、それでなくてもエネルギーを外へ拡散する時期なので、必要以上に発汗でエネルギーを放出してしまい、内臓に必要な栄養分が足りなくなってしまいます。
ならばと無理して食べるのも逆効果。外側へ拡散しようとする血流を、消化のために無理やり胃に呼び戻すことになり、それは胃もたれや倦怠感を引き起こす原因になりますし、何より、治療終了早々、胃の経絡を傷めることにも繋がりかねません。
夏のエネルギーは拡散方向に働くと同時に、体全体を温めて自然にスムーズな血流状態を作り出してくれます。その栄養分は太陽光。ですから、春から夏にかけての時期にがん治療を終えた場合は、無理に食べたり、運動したりすることは控え、暖かい太陽の光をたくさん浴びて、ゆっくり過ごすことを心がけましょう。食事は食べたいと思う分量にとどめ、決して無理して食べないこと。そして、食べるときは消化のよいものを選ぶようにすることです。
季節が移り、秋から冬へ向かうと、内臓の修復期に入ります。そのときに内臓をじっくりリカバリーし、次の春には発汗して老廃物を排出し切ってしまうといいですね。
ちなみに、食べ過ぎないこと、消化のよいものを選ぶことは、治療終了後しばらくは、どの季節も同様です。消化のよいものって何だろう? と思ったら、離乳食を終えたばかりの2~3歳の子どもに食べさせてOKと思えるものと考えたらいいと思います。ステーキや刺身を離乳食明けの子どもに食べさせようとは思わないですよね。その感覚で大丈夫です。細かく刻んだり、じっくり火を通したもの。肉ならハンバーグ、魚なら煮つけ、といった感じでしょうか。
眠っているときの呼吸が理想的、うたた寝しない!
デトックスで忘れてならないのが呼吸です。呼吸には、皮膚呼吸と鼻(口)呼吸があります。皮膚呼吸は発汗と関係していて、夏場のデトックス法の1つでもありますね。鼻呼吸は意識して行う通常の呼吸ですが、最も理想的な鼻呼吸は、実は眠っているときに自然に行っている呼吸(調整呼吸)です。
睡眠中は、その人が、そのとき一番必要な方法で呼吸をしています。酸素がたくさん必要な体の状態なら、たくさん吸ってたくさん吐くので寝息が荒くなるし、体内の酸素量が安定していてエネルギーを溜めたいときの呼吸音は静かです。
つまり、疲れたとき、体調不良のときは眠るのがいちばん。睡眠はエネルギーチャージだけでなく、デトックスにも大きく貢献しているのです(第8回 睡眠の力 心地よい眠りにつくために)。
ただ、血流を滞らせた状態で眠るのは、デトックスにも何にもならないので避けてください。椅子に座ってうたた寝するなんて、疲れが増幅するだけで体にいいことは何もありません。少しの時間でも、ぜひ横になって眠りましょう(図2)。

心の拠りどころ、学ぶこと、自分の価値
最後に、がん治療を終えたサバイバーの方々にぜひ考えていただきたいことを、連載の締めくくりにお話しようと思います。
中国でがん治療を行う際、治療中も治療後も、大切にされている医療メソッドがあります。その中から3つ、紹介します。
●心の拠りどころを見つけるよう促す
●知識を得て、考え方を学ぶよう促す
●自身の価値を見い出すよう促す
これらは、医療を行う側の姿勢を問うメソッドではありますが、同時にサバイバーの生き方に繋がる考え方でもあると思うのです。
心の拠りどころとは、趣味でも、好きな活動でも、ボランティアでも、宗教でも、何でもいい。ここにいると落ち着くという居場所を持ってほしい。お寺にお参りしていると心が落ち着くもいいし、子どもの寝顔を見ているとホッとするでもいい。
学ぶことは未来に繋がります。「がんサポート」を読んで治療後の生き方を考えることもその1つ。もし自分に合う患者会を見つけたら参加してみるのもいいですね。1人で悩まず、意識を外に向けると、入ってくる情報も変わり、考え方も広がることが多々あると思います。
自身の価値は、周囲によって気づかされることもあります。中国のがん病棟では、患者さんに、できることをしてもらう風潮があります。ある患者さんが音楽の先生とわかったら、「ピアノを弾いてください」とお願いして、実際にみんなで集まって演奏に耳を傾けたり、伴奏に合わせて歌ったり。これが院内の当たり前の風景です。
「私にはこれがある」「これができる」と思えることはとても大切。自分の価値は自身で探すこともできますが、医療者や家族、友人といった周囲が、気づくきっかけを作ることもできるでしょう。
がん治療を終えたこれからが人生です。「心の拠りどころ」を見つけ、「学ぶこと」を続け、「自身の価値」を感じながら生きていくことが、きっとこれからの人生の大きな力になると信じています。
これで1年半の連載を終了します。またお会いしましょう。
著書紹介

「胃のむくみ」をとると健康になる
今中健二著 サンマーク出版 1,400円(本体)
「水は飲むほど体にいい」に警鐘を鳴らす1冊。過剰な水分摂取が胃をむくませ、そのむくみが体中に伝わって不調が現われるのだという。その症状は、頭痛、腰痛、高血圧、糖尿病、生理痛、肥満、貧血、不妊症、肺炎、がん、緑内障など多岐に渡る。中国伝統医学のプロフェッショナルが教える究極の健康法

医療従事者のための中医学入門
今中健二著 メディカ出版 3,000円(本体)
整体観、陰陽五行学説、弁証理論など、複雑に思える中医学の概念を分かりやすく明快に解説。医療従事者はもちろん、家族の健康を気遣うお母さんたちにも知ってほしい中医学の知識を伝える。舌や顔色でわかる体質や対処法、それに合わせた食事や温度調整など、実際のケアに役立つ知識をまとめた1冊