こちらの世界だけで 考えているからつらくなる 矢作直樹 × 鎌田 實
がんと闘うことより 普通に今を生きること
鎌田 『人は死なない』の中に、矢作さんが最高の救急医療を施して、一旦はいのちをとりとめた患者さんが、結局は亡くなっていった症例が書かれていました。やっぱり、どんなに最新で最高の医療を施しても、最後は人間は死ぬんですね。ただ、矢作さんの主張のポイントは、死んで肉体は滅んでも、霊魂という大事なものは残るということです。その観点から、がん患者さんはどういう考え方をしたら、がんと闘いやすくなりますか。
矢作 例えば、陸上競技場のトラックで、一生懸命苦しい競技をしているのが、今に生きる私たちだとすると、すでに競技を終え、観客席からハーフミラーで、子孫が元気でがんばっているのを見ているのが、あちらの世界だと思うんです。つまり、こっちとあっちは合わせ鏡で、魂がその間を自由に出たり入ったりしているわけです。ですから、がんと特別に闘うのではなく、ごくごく普通に、まっとうに今を生きていれば無事に死ねて、向こうの観客席で「やれやれ」と安息の時を持つことができるんです。こっちの世界だけ考えていると、この先は崖っぷちに思われて、がんと闘わねばという発想になるのでしょう。
鎌田 この1~2年の短いスパンでがんと闘うのではなく、魂の大きな流れの中でがんをとらえれば、怖さはなくなるということですか。
矢作 こちら側の世界だけで考えていると、窮屈になるんだと思います。
鎌田 末期がんの患者さんに対しては?
矢作 まったく一緒ですね。さらに言わせてもらえば、がんに限らず、どんな病気も要は気づきだと思います。病気には原因がありますね。そして魂の特徴によってなりやすい病気がある。例えば、今回の魂は動脈硬化になりやすいから、怒ってばかりいてはダメと気づくことが大事でしょう。脳出血しちゃったら、心は穏やかに持とう、人には優しくしようと思えば、それでいいのではないでしょうか。
鎌田 そうか。自分の魂がそういう肉体に乗っていることを早く気づけばいいんだ。
日本人本来の生き方が 日本人を幸せにする

矢作 人間関係も同じです。親子関係もそうですが、こうして鎌田先生と私が出会う関係も、まったく偶然に会っているわけではないんです。人間がここにいるというのは、必ず何らかの意味があるんです。
鎌田 それぞれミッションを持って存在している。
矢作 人間が��の世に生まれてくるのは、自分の意志と指導霊の相談によるものです。生まれる前はそのことを記憶しているはずですが、生まれたときに憶えていたのでは、試験の答案を先に見ているようなものですから、普通は忘れます。しかし、この世に生まれるとき、ただ漫然と生まれているわけではないことに、しっかり気づくことは大切です。
鎌田 矢作さんに与えられたミッションは、ご自身で何となくわかるものですか。
矢作 それほど大したものではなく、自分の心の内なるもの、つまり分霊(わけみたま)、もっと言えば、高次元の意志でしょうか、そういうものを感じる意味を説明する役割なのかな、という感じはします。
鎌田 なるほど。だから、そのミッションを果たそうと、次々に本を出されているんだ。
矢作 そうなんですが、私の場合はもう少し即物的で、世界中の人にそのことを説明しようという大それたことではなく、目の前にいる患者さんやご家族から見える日本人を見ていて、親の代のような日本人に戻れたら、もっと幸せに生きれるんじゃないでしょうか、ということを伝えたいと思っているだけです。
鎌田 「足るを知る」とか「利他の心」とか、かつての日本人が持っていた美徳といいますか、心を取り戻す必要性も説かれていますよね。矢作さんは何か特定の宗教を信じておられるのですか?
矢作 いいえ。神道的感性を理解しているつもりですが、特定の宗教には帰依していません。私が霊性とか霊魂とか言っているのは一種の方便でして、主旨としては、現代の日本人がそういった日本人本来の生き方に少しでも気づけば、もう少し幸せになれるのにと言いたいのです。私は、団塊世代の人たちにその先頭に立ってほしいと考えています。
東大病院に住み込んで 救急医療に全力を尽くす
鎌田 私は『下りのなかで上りを生きる』(ポプラ新書)という本の中で、アメリカのペンシルバニア州ロゼットという小さな町で、30年間、心筋梗塞が非常に少なかったという「ロゼット伝説」を紹介しましたが、その要因は町民同士の絆の深さ、助け合い精神です。つまり、利他的な生き方が血管を詰まらせなかったということですが、そう考えていいんでしょうか。
矢作 いいと思います。実は思いの力って、すごく強いんです。世に言われる成功の法則なんていうのも、結局は思いが実現するということですものね。どんなことも、思わなければ実現しない。
鎌田 がん患者さんも、医師から「5年生存率25%」などと言われても、「25%もあるから大丈夫」と思っていたほうがいいですね。
矢作 思わないより思ったほうがいいですし、統計的な数値などはあまり気にしなくていいのではないでしょうか。極論すれば、どっちでもいい。今をがんばっていれば、また次が始まるので。
鎌田 どんなときでも、肩に力を入れず、ひょうひょうと生きる。
矢作 虚心坦懐でいいと思います(微笑)。この世にしがみつこうと思うからつらくなる。早くゴールして次のステージに行けると思えば楽になりますよ(笑)。
鎌田 なるほど。なくなっても、なくならない。死に一喜一憂することはない(笑)。最後に、矢作さんはふだん、1日24時間、東大病院におられるようですね。
矢作 研究棟の中に自分の居室をお借りして、そこで仕事をしながら暮らしています。もちろん本来の仕事場は外来病棟ですが、あとは自分の居室で仕事をしています。
鎌田 ご自身の住まいは?
矢作 歩いて1分のところに官舎がありますが、泊まったことはないです(笑)。
鎌田 かなり変わってますね。
矢作 いや、変わっているというより、ズボラなだけだと思います。ズボラの究極は職住一致です(笑)。
鎌田 救急医療医としては最高のパターンですよね。東大病院の救急医療は幸せですね。ご家族は?
矢作 ひとりです。いつでも成仏できる身ですから、幸せです。東大病院は天皇陛下が入院される病院ですから、医療が国民のセーフティネットとしての役割を十分果たせるよう、これからも魂をふりしぼって尽くしていきたいと思います。
鎌田 がんばってください。ありがとうございました。
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