「鎌田 實の諏訪中央病院へようこそ!」患者・ボランティア編――植物の生きる力が患者さんに希望を与えている
患者さんにハーブ茶を出すのが ボランティアの文化になった
▼ボランティア&ハーバリスト 萩尾エリ子さん
鎌田 萩尾さんは脳腫瘍のご主人の最期を、この緩和ケア病棟で看取られたんですね。そのときの経験がグリーンボランティアに結びついた。
萩尾 主人が入院中、庭に降りてきてホッとひと息つくと、自分が自分であることを確認できたんです。
鎌田 グリーンボランティアの人たちがキノコ味噌汁を作っていて……。
萩尾 「いかがですか」って、声を掛けてくださった。
鎌田 そうか。それが今、グリーンボランティアの文化になってるんだ。患者さんが来ると、「お茶、飲んでいかない?」「お昼ご飯、一緒に食べましょう」って、ボランティアの人たちが声を掛けるよね。誘われると、患者さんはめちゃ喜ぶようだね。
萩尾 「いいの?」って、嬉しそうに。普通の食卓がそこにある。
鎌田 萩尾さんは今年初め、『香りの扉、草の椅子 ハーブショップの四季』(天然生活ブックス)を出されてますから、こんどここで勉強会をやるとき、萩尾先生に講演してもらおうかな。
萩尾 とんでもございません(笑)。私、この何十年かの間に、人の力が一番だけど、植物ももう1つの力だと思うようになって……。この庭は、後ろに人の力がないとできないんだけど、人と植物の力が一緒になって、また力が出て、患者さんたちに生きる力を与えているんだと思う。
鎌田 萩尾さんはハーブ好きな患者さんには、アロマトリートメントをしてあげたり、いろいろ協力していただいてますよね。
萩尾 薬を処方されたり、ケアをしていただいても、患者さんが落ち込むときはありますよね。そういうとき、かえって私のような普通の人が側にいるとよかったりするんです。
▼ボランティア 松崎弘子さん

鎌田 松崎さんはここでボランティアを始めて、もう何年になりますか。
松崎 私、東京から参りまして、もう13年です。
鎌田 緩和ケアボランティアをしようと思ったきっかけは?
松崎 私、学生時代、ミッションスクールでした���で、ボランティア活動は授業の中にありましたし、興味を持ってそれなりに勉強もしました。緩和ケア病棟のボランティアというと、ハードルが高い面がありますが、ここではやさしく受け入れていただきました。感謝しています。
鎌田 ボランティアを続けてきて、いかがですか。
松崎 ここで学んだことは、やはり、私たちは自然の中で生かされているということの気づきです。そのことを学べたことは素晴らしかったと思います。
鎌田 印象に残った患者さんはいます?
松崎 病院でフランス料理をつくって亡くなられた女性……。
鎌田 ボクも憶えてる!
松崎 三井の森でフランス料理のレストランをやっていらしたから、存じ上げていたんです。あの方の最期が、本当に印象的でした。
鎌田 お店、知ってたの?
松崎 知ってました。守秘義務もありましたから、こちらではボランティアの範囲を超えることはしませんでしたが、彼女は本当に満足して……。
鎌田 彼女に「死ぬ間際にしたいことは?」と訊いたら、「もう1回、フランス料理をつくりたい」って。それで、病院でフランス料理をつくってもらった。あのとき、食材を揃えたり、準備のお手伝いをしたの?
松崎 いえ、ご主人がほとんどなさったんです。こだわりの食材を使われていましたから。
鎌田 奥さんの最後のフランス料理を支えたことで、ご主人も救われたんですよ。ご主人がボクに、「妻が病院で嬉しそうに最後のフランス料理をつくらせてもらったことで、私も妻が死ぬことに絶望的にならないで済みました」とお礼を言われたからね。
松崎 やり切ったという奥さまの思いは、ご主人の心の中に残ったと思います。私、やはり同じ三井の森の人間ですから、最後の頃に、奥さまの病室にうかがったんです。そのとき、「松崎さん、きょうはベッドから身体起こすことができないのよ」って。「無理をなさらないで」って言って病室を出ましたが、それが最後でした。最後の大事なときに立ち合わせていただいて、とても感謝しています。
鎌田 もう7~8年になるね。
松崎 最近、時代もあるのでしょうが、ホスピスの患者さんたちに、もう少し長く病院でいい時間を過ごしていただきたいと思います。
鎌田 ボクも回診して気がつくんだけど、亡くなるまでもう少しここにいてくれたら、いろんなドラマや物語を作ってもらえたのにと。
松崎 以前、「濁りのワインを飲みたい」とおっしゃる患者さんがいらっしゃいました。私もいろいろ手を尽くして探し、やっと白樺湖のお酒屋さんから入手したんですが、とても喜んでくださいました。 緩和ケア病棟の患者さんとボランティアは、一期一会の関係ですけれど、そういう濃密な出会いが少なくなってきたのは、ちょっと寂しいかなと。最近は、一瞬一瞬が勝負だなと思って、ボランティアの仕事をしています。
がんの状態を教えてもらえば どれほど気持ちが楽になることか
●患者の上田さんが鎌田さんに語ったこと

上田――私は自分の葬儀のことはちゃんと考えているよ。スゴイでしょ(笑)。私は岐阜県の出身だけど、親戚はみんな年寄りだし遠いから、「葬式には来なくていいよ」って言ってる。葬儀に来てもらって具合が悪くなったんじゃ申し訳ないし、甥っ子や姪っ子に迷惑かけるのも申し訳ないからね。
最近は、熱が出ると、今までとちょっと違うんやわ。腰のあたり(S状結腸あたりを指差す)が少し痛いとか、気持ち悪い。これから、徐々に徐々に、変わったことが起こってくるんだろうと思ってる。あまり無理なことはしてほしくない。もう手術のことは考えたことない。もう十分だから。
人生は楽しかったぁ。これもお父さん(夫)のおかげだね。いい人生を過ごしてこれた。これは事実。旅行もお買い物も、人の何倍も連れて行ってもらった。
この病院に来たとき、最初はイヤだったの(笑)。それまでは病院と家の行き来だった。何の楽しみもないけど、家に帰れたから。でも、今は山下先生(腫瘍内科医)、大好き。お父さんの次やね(笑)。最期のときは、山下先生に手を握ってもらわならん(笑)。この病院へ来て、抗がん薬やって、どれだけ苦しい思いをしたか、わからんよ。けれど、山下先生が手を握って、「大丈夫!心配することないよ!」と言っていただいたから、ここまで来れたと思う。
今、がんがどういう状態になってるのか、自分ではわかっているようで、わかっていないのよ。だから、これからどういうことが起きるのか、知りたいの。教えてもらえば、よっぽどいろんなこと考えなくていいじゃないの。(鎌田さんから「それ、山下先生に伝えるよ」)
私、お上手も言えない人間だけど、まあ、よろしくお願いします(笑)。
デザイナー体験を活かした お年寄りを写した写真展!
●患者の吉田さんが鎌田さんに語ったこと

吉田――今、カレーライスいただいてきました。もうほとんど何も食べられないような状態ですが、カレーなら舐めるようにして少しは食べられます。手づくりのカレーは嬉しいです。カレーライスの盛られた形を見ながら、舐めるようにして味わって、美味しいなぁと想像しつついただいてます。
人生は面白かったですねぇ。とくに、仕事が一番面白かった。デザインの仕事でしたが、独立してから、自由に仕事ができたのが何よりでした。ひとつ仕事をもらってきて、一生懸命デザインをし、締め切りまでに納めるんです。そのときは、「やったー」という達成感がありますが、次の仕事が来ないと不安になるんです。でも、仕事が来ると、また気持ちが湧き上がってくる。その大変さを含めて、楽しかったですよ。
東京から茅野に引っ越してきて、デザイナーの経験を活かしながらボランティア活動をしてきましたが、80歳以上のお年寄りを被写体にした写真を公募して、『寿齢讃歌』という写真展を開催する仕事、あれは最高でした。今までの恩返しという気持ちで一生懸命取り組みました。写真を撮った人も、撮られた人も、真面目に必死でやってきた、それぞれの人生が活きいきと浮き彫りにされていて、感動しました。
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