「鎌田 實の諏訪中央病院へようこそ!」医療スタッフ編――患者さんが幸せに生きてもらうための「あたたかながん診療」を目指して
緩和病棟で看取りまで 患者さんとゆっくり関わる
▼緩和ケア科部長・片岡優子さん

鎌田 片岡さんはここへ来られて約1年になりますが、緩和ケア病棟をどういう形に創り上げようとされていますか。
片岡 この病院はもともと地域に根差していて、急性期の緩和医療を行うというより、看取りまで患者さんにゆっくり関わるというスタンスだと思いますので、それを継続する方向で考えています。
鎌田 緩和ケア病棟にはいろんな患者さんが入ってきますが、その患者さんの手術をした外科医の先生がそのままついてきて、最後まで担当するケースもありますね。
片岡 あります。この病院に来てすごく感じるんですが、医師側に担当した患者さんは最後まで自分が主治医でありたいという意識がとっても強くて、「病状が変わったから、引き継いでください」というケースは、まずありません。ですから、患者さんに最後まで良い時間を過ごしていただけるよう、お手伝いをするという気持ちですね。
鎌田 やりにくいということは?
片岡 そう思うこともあるんですけど、緩和ケア病棟は緩和ケアに関心がある若い先生たちが、学ぶ場所であり、自分のスキルを上げていくことができるところでもありますから、若い先生たちが緩和ケアに興味、やり甲斐を持ってもらえればいい、それを支えられれば、という気持ちです。もちろん患者さんが第一ですが。
鎌田 若い先生たちは緩和ケアに対する興味の持ち方も、専門とする分野も違いますよね。指導するのが難しくないですか。
片岡 先生たちそれぞれのスタイルを尊重するようにしていますが。緩和ケア病棟では医師や看護師だけでなく医療ソーシャルワーカーやリハビリのスタッフも含めて、みんなでカンファレンス(会議)をしており、必ずそれに参加してもらって、患者さんの病状など、情報を共有し、治療方針を検討するよう努めています。
緩和ケア担当医の立場から「あたたかいがん医療」を
▼緩和ケア科部長・片岡優子さん
鎌田 片岡さんは懐が深いよね。元気だし、何でもありみたいなところがある(笑)。
片岡 今、化学療法部の山下共行先生を中心にしたチームで、「あたたかながん診療を行おうじゃないか」と、検討しています。早い時期からの緩和ケアが必要だとか、在宅ケアも含めて、心の痛み・体の痛みの緩和とがん治療の両方やれてこそ、患者さんがいい時間を過ごせる医療だ、といった議論を行い、緩和ケアや精神腫瘍の分野についても、多くのスタッフに知ってもらい、スキルアップを図っていこうとしています。そのために勉強会をやっています。
鎌田 それ、スゴイねぇ。
片岡 勉強会には医師、看護師、薬剤師やリハビリのスタッフとか、いろんなスタッフが参加しています。そこで学んだことを持ち帰って、各職場で実践してもらえば、院内で緩和ケアや精神腫瘍に対する理解が深まり、「あたたかながん診療」が盛り上がっていくのではないかと思います。
鎌田 ボクたちの頃の緩和ケアは何でも受け入れる受容的な緩和ケアでしたが、これからの緩和ケアはもっとポジティブなものに変わっていきそうですね。がん治療では、最初の化学療法の時点から、緩和ケアの精神が少しずつ取り込まれてくる。
片岡 総合的ながん診療というシステムができればと思います。この山下先生を中心としたチームは「八ヶ岳ホットオンコロジー」、奥 知久先生のネーミングです。
鎌田 オシャレなネーミングですね。奥先生に訊いてみましょう。
診療科横断のがん治療を狙う「八ヶ岳ホットオンコロジー」
▼総合診療科(在宅診療部)医師・奥 知久さん

鎌田 まず最初に、「八ヶ岳ホットオンコロジー」構想があるそうですね。
奥 (驚いて)まずそこからですか(笑)。がん患者さんをはじめ、患者さんたちが持っている身体的な問題、心の問題は、病院のひとつの科の医師の対応で済む問題ではない。治療をする、予後を伸ばすだけじゃなく、本当にその患者さんが幸せに生きてもらうためには、みんなで取り組まないと。
だから、病院全体でひとつの哲学を共有して取り組もうということです。加えて、地域住民にも入ってもらって、人材育成活動も行っていく。「八ヶ岳ホットオンコロジー」はそんなイメージです。
鎌田 一方には緩和ケアや精神腫瘍科の医師がいて、また一方には外科手術や化学療法の先生がいて、さらにこちら側には在宅診療部があって、住民がいて、それがいずれはみんなつながるというイメージですか。
奥 そうですね。ひとつの委員会ができ、チームとして活動する。
鎌田 奥先生は熱心に在宅ケアに取り組んでいますが、もともと、在宅ケアのどこに関心を抱いたんですか。
奥 病院中心の考え方で奪われていたいのちを、もう1回、本人や家族、住民に返してあげる必要があるんじゃないかと。
鎌田 病院には人間のいのちに対してマイナスに働く部分があるというわけだね。
奥 誰のための健康、誰のための病気かと言えば、それは病院の持ち物ではないだろうと。それは本人のものであるはずなのに、いつしか、病気になったら、死にそうになったら、もう病院にお預けするしかない、という主体性のない形になってしまった。
いのちの主体性が失われていく過程が、高度経済成長期から今日までの数十年間だったような気がします。もっと昔は、それぞれの家の中に「生老病死」がありましたが、それがいつの間にか、病院の管轄下に入ってしまった。それをもう一度、個人、家族に戻してあげる。それが人々の幸せにつながると思っているわけです。
増える家庭医を目指す若者 在宅医療の裾野を広げたい
▼総合診療科(在宅診療部)医師・奥 知久さん
鎌田 奥先生が主治医のがん患者さんが、緩和ケア病棟に入ったときには、先生はどういう関わり方をされますか。
奥 本質的には、緩和ケア病棟だから、在宅だからという区別はしていません。もう一度家に戻れるような患者さんには、緩和ケア病棟を仮の場所として、心地よく、最大限リラックスして、次の在宅ケアの段階に備えましょうという形にします。緩和ケア病棟で最期を迎えようという人には、「ここがあなたのホームですから」と言って、終の棲家という形にします。
鎌田 間もなく最期を迎える患者さんには、緩和ケア病棟がいいか、在宅ケアがいいか、選択してもらうようになっているけど、奥先生の患者さんは家に帰る人が多い。
奥 私の専門は病院における家庭医療学ですから、その中で患者さんの身体的・心理的・社会的現状をきちんと評価して、適切なサポートを提案すれば、家に帰る決断をする人が増えてくると思います。
この病院には家庭医療学を学ぶ若い研修医が多く来ています。家庭医を目指している研修医の数は、全国でも3番目くらいに多いと聞いてますから、その人たちに在宅に少しでも関わってもらい、在宅医療の裾野を広げることに取り組んでいきたいと思います。
鎌田 私は「〝がんばらない〟の医師」と言われていますが、奥先生には「八ヶ岳ホットオンコロジー」の実現に向け、がんばってもらいたいね(笑)。
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