鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 (社)福島原発行動隊理事長・山田恭暉さん/理事・平井吉夫さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2011年8月
更新:2013年9月

増え続ける隊員たちから「早く行かせろ」と催促

平井  ただ、私たちの活動に対する強烈な批判もあります。1つは、「そういう活動は政府の責任を曖昧にしてしまう。手助けする必要はない」という批判です。これは典型的な腐れ左翼の考え方です。それから、50歳ぐらいまで職業的革命家をやり、その後医師になって高齢者専門の在宅医療をしている人から、「老人は死んでもいいという考え方はとんでもない」と叱られましたよ(笑)。

山田  そのほかにも、事故の責任がある東電や、原発を支えてきた原子力村の人たちが行けばいいとか、こういう有事には自衛隊が出動すればいいといった批判がありました。しかし、私がこの活動を言い出したのは、原発反対のデモを100人や1000人、1万人でやっても、政治を動かし、事態を動かす力にはなり得ないと思ったからです。ここは「俺がやる!」と名乗り出て、いのちをかけるしかないと。

平井  私は、反原発デモも広がっていけば一定の力にはなると思います。しかし、自分自身は原発に行くよ、ということです。

鎌田  国内外を揺るがす深刻な原発事故が起きてしまった。その責任の落とし前はいずれつけてもらうとして、まずはみんなが全力で収束させる努力をしなければならない。そういうときに、福島原発行動隊が立ち上がったというのは、1つの救いだと思います。現在、隊員数はどのくらいになっていますか。

山田  行動隊員はまもなく400人、サポート隊員は1300人ぐらいになります。今どんどん増えている状況ですね。

平井  登録した隊員から、「早く行かせろ」「早く行かせろ」と矢のような催促がきています(笑)。

鎌田  トレーニングなども必要でしょう。

山田  そう思います。仕事の内容によっても違いますが、最初に動くのはブルドーザーやクレーン車の運転手だと思います。そういう人たちに対して、放射能にどう対応するかといった訓練をする必要がありますし、サポート隊もどういう準備をして現場に入るか、今その態勢づくりを行っています。リクルートから健康のフォローまで、一貫してしっかり管理できる態勢をつくります。

福島原発行動隊の仲間には女性も調理人もいます

鎌田  敷地内の瓦礫の撤去をするだけで、現場の正規の作業員にとっては大きなプラスになると思います。また、敷地内の土地に一時的にでも、放射能に汚染された瓦礫を集める手伝いができればいいですね。

山田  あの敷地内には結構広い空き地があるようです。将来的に7、8号機の建設が予定されていた空き地もあると聞いてい ます。重機は揃そろっているようですから、そこへ瓦礫を集める作業はできると思います。そうすれば、実際に収束に向けた設備をつくる人たちの作業もやりやすくなるでしょう。

鎌田  現地の作業員の労働環境もあまり良くないようです。いい仕事ができ、ミスを少なくするよう、食べ物などの後方支援を行って、労働環境を少しでも改善するのも、行動隊ができる仕事ですね。

山田  必要条件ですね。それを国が用意するのか、私たち自身が用意するのかは別にして、私たちが入ることによって、労働環境を少しでも良くすることは、最低限必要なことだと思います。私たちの仲間には、女性もいますし、調理人もいますよ。女性の中には、コンクリート工事を担当してきた人もいます。

鎌田  山田さんたちの今回のプロジェクトのキーポイントは、これまでは同じ空気の人たちだけで仕事をしていたところへ、異質な人たちが入っていく点だと思います。それによって、情報はよりオープンにされるだろうし、1つのプロジェクトを推進する場合の、新しい日本のスタイルができる可能性がある。

山田  そこまでは考えていません。怖いなぁ(笑)。

平井  最初の発想は、正直に言えば、「これはやばい。何とかしよう。年寄りなら多少放射能を浴びてもいいじゃないか」(笑)。隊員を60歳以上に限定したことが、それを象徴しています。

行動隊にかける思いを次世代に見せて伝える

空振りに終わらないことを祈ります

「原発事故の収束に多くの人が協力し、それが絶対に空振りに終わらないことを祈ります」と語る鎌田さん

鎌田  大震災以後の日本は、政治も経済も社会もどんよりとし、一種の閉塞状況に陥っています。皆さんが現地に入って、世のため人のために、イキイキと作業を始められれば、日本全体にいい影響を及ぼすと思います。

山田  私たちは、自分たちが動いたほうが合理的だよね、という単純なロジックで動いているのですが、1人ひとりはそれぞれの思いを持って集まってきています。「自己犠牲」という言葉を胸に秘めている方もいるし、「これぞ男の生きざまだ」と思っている方もいます。 また、「子どもや孫の顔を見て、何とかしなきゃ」と思い詰めて来られた方もいます。そのさまざまな思いをさまざまな形で見せて、次の世代に伝えるという意味もあるのかなと思っています。

平井  修身の教科書の題材などにはなりたくない(笑)。

鎌田  山田さんの読みとしては、いつ頃、現地に入れそうですか。

山田  すでに東電側とは話し合いを始めていますが、7月初めに、事前の視察・調査・打ち合わせのために、5名が現地入りします。それに基づいて、私たちの提言を作成しますが、政府側のプロジェクトとの突き合わせもあり、正式に現地入りするまでには、まだ時間がかかりそうです。

鎌田  行動隊はボランティアですよね。

山田  社団法人として、政府がつくった原発事故を収束させる主体と契約し、あくまでボランティアとして活動します。お金儲けではありません。ですから、私たちは収束に向けた仕事の手伝いはしますが、求められた作業に対する拒否権は保持します。

平井  下請けとして雇われればいいじゃないか、という声もありますが、本質的にそれとは違いますね。

鎌田  なるほど。福島原発行動隊の皆さんが現地で活躍される日が早く実現すればいいと思います。いずれにしても、原発事故の収束に多くの人が協力し、それが絶対に空振りに終わらないことを祈ります。

(構成/江口敏)

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