鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 モデル・MAIKOさん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2011年7月
更新:2013年9月

抗がん剤・分子標的薬・放射線・ホルモン療法

鎌田  抗がん剤の治療中、仕事はどうしてたの?

MAIKO  抗がん剤治療に入る前に、ここからここまでは動けませんからと、抗がん剤を打ってから10日間ぐらいは、お休みをいただきました。その後、体調が良くなったときに仕事が入れば受けて、また治療に入ったら休むということのくり返しでした。

鎌田  そういえば、手術後、最初の仕事がセミヌードの仕事だったそうですね。そのとき、手術の傷跡は残っていたんでしょう?

MAIKO  あったと思いますが、わからなかったですね。

鎌田  プロのモデルとして、当たり前に仕事を受けて、当たり前に仕事をした。

MAIKO  そうですね(笑)。

鎌田  自信があったんだ。

MAIKO  自信というか、現場に戻ることができてうれしい、という感じでした。

鎌田  うかがっていると、仕事を続けられるかどうか、悩んだことはあまりなかったような感じがする。

MAIKO  いや、ありましたよ。入ってきた仕事を断ったこともありましたし、クライアントさんのほうで、「MAIKOさん、スケジュールが取りにくくなっているから、まあいいや」と思われるのではないかと考えたりしたことはあります。しかし、ここは仕事ではなく、自分の身体のことを第1に考えなくてはいけない、と自分に言い聞かせたんです。健康になったら、また復活できるかなと、楽観的に考えていたんです(笑)。

鎌田  少しは不安だったけれども、いつかはできると楽観的に考えていて、術後の最初の仕事だったセミヌードの仕事も、平然とやったということだね。抗がん剤治療のあと、分子標的薬の点滴を?

MAIKO  1年間やりました。

鎌田  それから放射線治療も?

MAIKO  19回やりました。

鎌田  さらにホルモン療法を?

MAIKO  今も飲んでいます。これは5年間続けます。

落ち武者風に脱毛し潔くスキンヘッドに

鎌田  手術をして、抗がん剤をやって、分子標的薬、放射線をやって、ホルモン療法。フルコースでやっているわけですが、何がいちばんつらかった?

MAIKO  抗がん剤がいちばんですが、放射線もつらかったです。私が放射線治療に通っていたのは、ちょうど真夏のいちばん暑い時期でした。そのときちょうど、坊主頭にしていたんです。通院するときは帽子かウィッグをかぶるのですが、頭が焼けるように熱いんです。風通しの良いメッシュの帽子でもダメ、冷たいスプレーをかけてもダメ。放射線科の部屋に入るとすぐ、帽子やウィッグを取りました。

鎌���  坊主頭は意識的にしたのか、抜けたからやむを得ずしたのか、どちらでしたか。

MAIKO  後者です(笑)。抗がん剤の副作用で抜けてきたとき、最初はかなりがんばっていたんです。襟足の部分は結構残っていましたから。でも、襟足部分も薄くなってきて、落ち武者みたいになってしまいました。ある日、その頭を息子に見られ、「こわい!」と(笑)。それですっきりしようかなと思って、潔く剃りました(笑)。

鎌田  刈りあげてもらったあと、自分で剃った。

MAIKO  カミソリは怖いので、電気シェーバーです。

鎌田  そのときのスキンヘッドの写真が、本の表紙に使われたんですね。「この頭でやりましょう」という仕事は来なかったんですか。

MAIKO  スタイリストさんやヘアメイクさんは、「やりましょう」と言ってくれたんですが、雑誌の編集者は「これじゃあ使えない」と、評価はいまいちでしたね(笑)。

鎌田  MAIKOさん自身は、スキンヘッドが嫌いじゃないと書いている(笑)。

MAIKO  40歳のスキンヘッド、意外といけると思いました(笑)。人生で初めて自分の頭をまじまじと見る、いい機会を与えてもらったと思っています。

鎌田  髪の毛は徐々に生えてきたんですか。

MAIKO  夏にスキンヘッドにして、12月ごろには頭に貼りつくような感じで生えてきました。それで外にも行けましたね。

鎌田  ショートカットみたいな感じですか。

MAIKO  そうです。仕事のときは、そこにまたウィッグするんです。

安いカツラ・帽子などで抗がん剤治療期間を楽しむ

鎌田  MAIKOさんは本の中で、10~20万円のカツラもあるけれども、2万円ぐらいのカツラでいいと書いていますよね。美しくがんと闘うということを考えるとき、つい10万円のカツラにしなければと思いがちですが、2万円でもいいんですね。

MAIKO  私は抗がん剤治療をやると言われたときに、最初、違いのあまりわからない人毛のウィッグがほしいと思いました。ところが値段を見たら、とんでもない金額が付いていました。安くても10万円、ツヤツヤの良いものだと50万円以上するんです。せいぜい半年しか使わないのに、それでは元が取れないと思い(笑)、若い子がおしゃれで使うような安いものをインターネットで注文しました。1万9000円でしたが、私にぴったり合いました。

鎌田  それでいいんですね。

MAIKO  最近、私の友人のヘアメイクさんのお友達が乳がんの手術を受け、抗がん剤をやることになったんですが、ヘアメイクさんはそのお友達を新宿のカツラ屋さんへ連れて行き、安いウィッグを選ばせたと言っていました。そこは5000円からあるそうです。普段はウィッグを楽しむ機会はなかなかありませんが、こういう機会に短期間にいろんなバリエーションのウィッグを楽しむのもいいんじゃないかと思います。

鎌田  いいですねぇ。安いカツラをいろいろ揃えて、抗がん剤治療の半年間を楽しむということですね。帽子は?

MAIKO  いろいろ買いました。本のグラビア部分でかぶっている帽子は、900円、2000円、3000円ぐらいの値段です。

鎌田  そのくらいの帽子でいい。

MAIKO  自分に合う帽子であればいいと思います。スカーフも同じです。私は古着屋で見つけた1000円ぐらいのスカーフをしていました。

鎌田  そうか。もともとそういう工夫をする人なんだ。あまり高価なものではなく、安くて自分の感覚に合うものを見つけることがコツですね。何か気分転換はしてますか。

MAIKO  たまに舞台を観たり、寄席に行ったり……。

鎌田  贔屓の落語家は?

MAIKO  立川談春さんのファンです。最近、なかなかチケットが取れなくて……。

福島は心の故郷原発事故は悔しい

鎌田  病気と闘うには、笑いも大切ですからね。ところで、MAIKOさんは福島にご縁があるとか。

MAIKO  母がいま福島にいます。私も原発に近い場所で暮らしたことがあり、福島は心の故郷です。避難している友だちもたくさんいます。彼女たちが言うのは、「地震だけなら復興に向けてがんばれるが、原発災害はどうしようもなく、悔しい」ということです。生まれ育った場所から引き離され、いつ家に帰れるというあてもないわけですから……。私も夏には、毎年のように福島の海に行っていました。あの周辺は本当にきれいな海岸です。原発事故に関しては、私も本当に悔しいです。

鎌田  私も昨日まで石巻にいました。私が主宰しているNPO法人・JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)が、石巻のお寺で「千人風呂プロジェクト」といって、避難民の方々にお風呂を提供する活動をしているのです。また、私の諏訪中央病院は、南相馬市で医師団が行っているボランティア活動にも参加しています。ですから、私も被災地支援に何回も足を運んでいるわけです。地震と津波だけだったら、奇跡の復興はできます。しかし、そこに原発事故が絡んでいるから難しい。私は長年、チェルノブイリ事故で被曝した子どもたちの支援活動をやってきて、原発事故は2度と起こしてはならないと肝に銘じてきましたから、福島の人たちの「悔しい」という思いが、よくわかります。こうなってしまったからには、原発は減らしてほしいと願いますね。

MAIKO  クリーンエネルギーを増やすことに、知恵を結集してほしいと思います。

鎌田  私は、福島第一原発の20キロ圏内に太陽光パネルを敷き詰めて、大々的な太陽光発電施設をつくると同時に、海側には大規模な海上風力発電施設をつくって、そこで福島の人たちを雇用し、新しいエネルギー技術の先頭を走る福島を構築して、世界に新しい技術立国・日本をアピールしたらいいと思います。

MAIKO  私は毎週、被災地支援の寄付をしているのですが、被災者に義援金がなかなか届かないというニュースを見て、どこに寄付すれば届くのかと思っています。

鎌田  日本赤十字の募金が多いのですが、被災地への分配をもっとスピーディにやるべきですね。組織が巨大で募金が集まりすぎて、分配に慎重を期しているんだろうけど、なかなか被災地の人々まで届かない感じです。JIM-NETでも募金活動を行っていますが、集まったお金はゲリラ的にどんどん被災地支援に充てていますよ。昨日も、石巻の訪問看護ステーションに中古車を寄贈してきました。

MAIKO  私は、治療中のがん患者さんなどが被災されて、どうされているんだろうかと、とても心配なんです。

鎌田  大変ですよ。末期のがん患者さんが、痛み止めのクスリもなく、在宅で震えていらっしゃるとか、病院がいくつも流されてしまったので、抗がん剤治療中の患者さんが行き場をなくして困っていらっしゃるとか、がんと診断され治療を受ける予定だった人も、治療を受けられなくて途方に暮れていらっしゃる。大変ですよ。

乳がんを経験したことで何か突き抜けた気がします

細胞が生まれ変わったのでしょうか。肌も以前よりきれいになった気がします

「細胞が生まれ変わったのでしょうか。肌も以前よりきれいになった気がします」と話すMAIKOさん

鎌田  最後に、今はもう、がんのことは頭からだいぶ離れましたか。

MAIKO  そうですね。もう半分以上、離れていますね(笑)。ただ、この4月から「乳がん夜間学校」という番組を始めました。動画共有サービスのユーストリーム(Ustream)で、第3水曜日の夜9時からやっていますが、私は日直の役です。

鎌田  日直って?

MAIKO  MC(司会進行役)みたいなものです。毎回ゲストに医師の先生をお招きして、乳がんにまつわるいろんなお話をうかがっています。

鎌田  視聴者は何人ぐらい。

MAIKO  第1回が500人ぐらいで、手応えを感じました。同世代の乳がんの患者さんから、たくさん反響がありました。

鎌田  本を書き、そういう番組のMC役をやることによって、MAIKOさんは乳がんの患者さんとして、ひとつずつハードルを乗り越えているような気がします。

MAIKO  私、病気になってから、何かひとつ突き抜けたような気がします。腹黒さが抜けたんでしょうか(笑)。病気になって良かったような気がするんです。

鎌田  重い病気を乗り越えると、絶対、そこに何かあるんですよね。

MAIKO  細胞が生まれ変わったというんでしょうか、肌も以前よりきれいになったような気がします。

鎌田  抗がん剤をやったのが良かったのかも(笑)。

MAIKO  それは言えます。何かが抜ける(笑)。つらいけど、何か得るものがありますね。

鎌田  いい話をうかがいました。この雑誌の読者も「美しくがんと闘う」ためのヒントを与えられたと思います。ありがとうございました。

(構成/江口敏)

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