鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 STAND UP!!代表/浜松医科大学医学部6年生・松井基浩さん STAND UP!!副代表/日本テレビ報道局社会部記者・鈴木美穂さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2010年9月
更新:2013年9月

がんになったことをプラスに転じて生きる

鎌田 治療が終わったとき、どんな不安が残っていましたか。

鈴木 不安は薄らいでいきますが、再発・転移したら、またカウントダウンの生活が始まってしまうのかとか、こんな状態の私は結婚できるのかとか、細かいことでは、温泉に入ったり、海で泳いだりはできないなとか、いろいろ考えましたね。全摘手術を受けましたが、根本的にはがんと一緒に生きていかなくてはなりません。今でも半年に1回ずつ、検査を受けています。検査で何も異常がないと、ああ半年のいのちをもらったと思うわけです。半年ごとにいのちを更新していく感じですね。ですから、検査を受けるときは、やはり不安はあります。

鎌田 でも、仕事はしゃかりきにやってるわけでしょ。

鈴木 しゃかりきにやり始めて1年半ですね。

鎌田 仕事をやっているときは、がんのことは忘れられるの?

鈴木 一時は忘れようとしたのですが、いまは逆に向き合おうと思っています。あえてがんに関係する取材をしたり、フリーペーパーを作ったりして、がんになったことをプラスに転じて生きていこうとしています。

鎌田 そういう生き方をしていこうと決めた!

鈴木 そのようにしか生きていけないと思っています(笑)。

鎌田 鈴木さんはテレビで記者の仕事をしているわけですが、がんになったことは決してマイナスではなく、プラスになった面もあるということですか。

鈴木 そう思います。まだ大きな成果を上げるまでには至っていませんが、これから絶対発信していこうと思っています。それが今、大きなモチベーションになっています。

がんになっても決して終わりではない

写真:『STAND UP!!』を立ち上げた動機を熱く語る鈴木さん

『STAND UP!!』を立ち上げた動機を熱く語る鈴木さん

鎌田 さて、なぜフリーペーパー『STAND UP!!』を作ろうと思ったんですか。

松井 僕は大学に入ってから、闘病中のがん患者さんとメールの交換をしたりしていました。いろんながん患者さんと対話をしていく中で、がんが治った多くの人たちが、がん闘病中の人たちのために何かやりたいと考えていることを知り、そういう人たちが集まったら、何か大きなことができるのではないかと思ったのです。そういう集まりを作ろうよと呼び掛けたところ、大きな反響があって、その中に鈴��美穂さんがいたのです(笑)。そして、美穂さんと語り合って、フリーペーパーを発行することを決めたわけです。

鎌田 その資本はどうなっているの?

松井 大原薬品工業という会社と、小児がんの子どもたちをサポートする、ゴールドリボン・ネットワークというNPO法人をやっていらっしゃる松井秀文さんに、協賛いただいてます。

鎌田 現在、フリーペーパーに関わっている仲間は何人ぐらいですか。

松井 会員は50名ほどです。35歳以下でがんになった人たちです。

鈴木 最初はmixi(ミクシィ)で、「がん患者には夢がある」というコミュニティをつくって何かやりませんか、という呼び掛けを見て、松井さんと会ったんです。その時点では、何も形になるものはありませんでした。それでフリーペーパーをやろうということになったのです。動けるのは素人ふたりだけで大変でしたが、たくさんの方にご協力いただき、無事、第1号を創刊することができました。

鎌田 今は産声が上がったところだ。若年性のがんと闘っている人たちに伝えたいことは?

松井 やはり、1人ではないということを感じてほしいですね。1人でがんと闘っていると思うと苦しいです。しかし、家族や友人が支えてくれますし、同じ苦しみを経験した人たちもわかってくれます。僕たちがフリーペーパーの活動を始めたのも、全国の若年性のがん患者さんに、1人ではないということを伝えるためです。

鈴木 私は、がんになっても決して終わりではない、ということを伝えたいと思います。がんになっても生き続けている人はいっぱいいます。先があることを信じて闘病する大切さを訴えたいです。

フリーペーパーでがん患者さんをつなぐ

写真:松井さん、鎌田さん、鈴木さん

「今日は若いふたりから新鮮なエネルギーをもらった気がします」と話す鎌田さん

鎌田 ふたりの話を聞いていると、がんがふたりを成長させたという感じがする。

鈴木 私は入りたい会社に入って、そのまま順風満帆の記者生活を送っていたら、弱者側を描くことはできない記者になっていたかもしれません。今は弱者側の視点でも、物事を見ることができるようになったと思います。また、マイナスをプラスに変えて、どん底から這い上がる力もつきました。もう何も怖いものはなくなりました。

松井 僕は勉強一直線の高校でしたから、普通に高校生活を過ごしていたら、周りの見えない人間になっていたかもしれません。医師になっても、患者さんの気持ちがどこまでわかったか。今は、周りの医学生より患者さんの気持ちがわかります。

鎌田 僕は今、イラクの白血病の子どもたちを支援する活動を行っています。かつて20年間チェルノブイリの支援を行ったとき、小児白血病棟の子どもたちのために、院内学級をつくったら、子どもたちや家族にものすごい希望が生まれたという経験をしていたから、今回、激しいテロが続いているバスラの小児白血病棟にも院内学級をつくりました。そして、白血病が完治した18歳の女性を絵の先生として雇ったところ、病棟が一気に明るくなりました。同じ白血病の仲間で助かったモデルを間近に見ることが、いかに希望につながるかを再確認しました。
ふたりはつらい思いを体験しているということが大事です。『STAND UP!!』の仲間が広がれば、つらく苦しい思いをしている人たちを救ってあげることができると思いますね。

松井 このフリーペーパーを全国に広げることによって、全国の病院でがんと闘っている人たちをサポートしたいと思います。いずれホームページを開設して、全国からの相談にも応じたいと思います。また、いずれは私たちのメンバーが患者さんのところに訪ねていくような組織にすることも考えています。とにかく、全国の若年性がん患者さんをつなげ、1人でがんと闘う人をなくしたいと思います。

鈴木 がんは、「みんなで闘えば怖くない」です。『STAND UP!!』は、全国の若年性がん患者さんを支える土台になりたいと考えています。

鎌田 きょうは若いふたりから新鮮なエネルギーをもらった気がします。『STAND UP!!』の輪が拡がっていくことを、大いに期待しています。

(構成/江口敏)

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