鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 あだち健康行動学研究所所長・足達淑子さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實
うつうつとしている人はがんになりやすいタイプ
鎌田 ところで、足達さんのテキストにタイプAとか、タイプCといった性格の分類が出ていますね。
足達 タイプAは交感神経優位のアグレッシブな攻撃型の人です。仕事中毒になりやすく、働き蜂のように仕事にのめり込むタイプです。こういう人は高血圧、心筋梗塞や脳卒中など循環器系の病気になりやすいですよね。
鎌田 タイプCは?
足達 自分はダメだと思い、言いたいことも言えず、常にうつうつとしているタイプの人です。
鎌田 内に閉じこもるタイプですね。
足達 このタイプはがんになりやすいと言われますね。
鎌田 AタイプとCタイプの中間がBタイプですね。Aタイプの人は少しBのほうに寄った生活を考えればいいですね。
足達 『行動医学の臨床』という本の心臓リハビリでは、「もう少しゆっくり話しましょう」とか「もう少しゆっくり歩きましょう」と指導するとありました。
鎌田 私は何タイプだろう?
足達 こうしてお話している感じはゆったりしていらっしゃいますが、お仕事の量などを考えますと、お仕事中毒かもしれませんね(笑)。
鎌田 A寄りのBタイプかな(笑)。がんになりやすいタイプではなさそう。
足達 ただ1人の中にいろんな要素がありますから、あまり類型化して考えるのはどうかという気がしますね。
役割を担って働いたほうががん患者さんには良い
鎌田 答えは自分で見つけさせるということですね。タイプCでも、タイプBに近づけばいい。言いたいことがある時は上手に表現したほうが体にいいんだ。
足達 そうですね。ただ放っておいても答えは出ませんので、私たちがいろんなことを聞き出しながら、答えを探すお手伝いをするわけです。患者さんというのは、何故自分がうつうつとしているのか、よくわからない場合があります。それがいろいろ話すなかで見えてきて、「ああ、そういうことなのね」とわかることもあります。子どもと一緒の時間を増やし、子育てに自信を持ったら、気持ちがコロッと変わって良くなった若いお母さんもいました。
鎌田 自分が存在する意味を自覚し、その役割を果たすということは、健康と深い関係があると思う。手術をしたがん患者さんを見ていると、大事にされて静養している人より、普通の生活をし、何らかの役割を担って働いている人のほうが、治る確率が高いような気がしますね。
足達 逆に言えば、病気に埋没し、病気を集中して考える時間が少ないほうがいい。これは反応妨害といいまして、気持ちを滅入らせる原因からできるだけ離れ、できる範囲で別のこと��したほうが気分はすっきりします。
鎌田 がんの人は、できれば仕事をしたり、家庭で役割を担ったり、旅行をしたりして、がんを考えないほうがいい?
足達 精神的には、絶対にそのほうがいいと思います。ご自身が快適になれることをするのが1番ではないでしょうか。
鎌田 がんになって落ち込み、うつうつとした悪いサイクルに入ったらダメですね。どうすれば悪いサイクルに入らないですみますか。
足達 同じがん患者さんでも、長くうつうつとした状態でいらっしゃる方と、早く立ち直る方がいらっしゃいますよね。最近、精神科のほうで言えば、早めの対処が大事ではないかと言われています。
がんとの闘病を経て成長する人は多い

鎌田 足達さんのお話をうかがってきて、血圧を下げよう、体重を落とそうといって、行動変容を体験しておけば、いざがんになったときの行動変容に応用が利くのではないかと思いますが、どうですか。
足達 おっしゃるとおりですね。中高年女性が育児で強くなるのと同じようなことが言えると思います。
鎌田 なるほど。出産・育児の際、前向きに乗り越えた生き方の行動変容の経験が中高年を生きるときに生かされる。
足達 鬱の患者さんをみていても、病気を体験されたことで人間的に強くなる人がいらっしゃいますね。私は、病気になるというのは、生き方を少し変えなさいという神さまからの啓示ではないかと思います。病気は生き方のスキルアップをするチャンスだと考えたらどうでしょうか。
鎌田 どんな病気になっても、その次の病気のときに役に立つ。
足達 そうでしょうね。そして、病気になると、自分のことをよく見つめますから、自分の身体や心のことがよくわかるようになりますし、自分の考え方をしっかり身につけていく方が多いような気がします。
鎌田 そういう意味では、がん患者さんはがんとの闘病を経て、人間的に成長する人が多いですね。
足達 やはり自分自身のことだからではないでしょうか。自分自身の内面と真剣に向き合い、その苦しさを克服していくことが人間を強くするのだと思います。病気は大きな試練ですが、ストレス対処のトレーニングになり、それは人生にも活かせると思いますね。
鎌田 足達さんのお話には、がん患者さんも勇気づけられると思います。生き方のヒントをいっぱい貰いました。有意義なお話をありがとうございました。
(構成/江口敏)
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