鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 がん難民コーディネーター/翻訳家・藤野邦夫さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2009年12月
更新:2013年9月

前立腺がんを宣告されブラキセラピーを選択

写真:藤野さんと鎌田さん

「患者さんはせめて、自分の病状、治療法ぐらいは正確に知っておくべき」(藤野さん)

鎌田 正真正銘の前立腺がんになったのは、2003年ですから、6年前ですね。

藤野 そうです。泌尿器科で診てもらったら、前立腺がんと診断され、すぐに「癌研で手術しましょう」と言われました。私が「先生、私、ブラキセラピー(小線源療法)をやりたいんです」と言うと、医師は「何ですか、それ」と、目を丸くしていました(笑)。

鎌田 藤野さんはブラキセラピーを知っていたんですね。

藤野 はい。学会の資料などを読んでいましたから、20年ぐらい前から知っていました。

鎌田 じゃあ、前立腺がんと言われたとき、それをやろうと、ピンと来たわけだ。

藤野 そうです。PSA(前立腺特異抗原)が短期間のうちに、4.3→5.5→6.5と、急激に上がってきたので、生検を受けたところ、前立腺がんと診断されました。

鎌田 ブラキセラピーはすぐにできましたか。

藤野 当時、ブラキセラピーは認可されたばかりで、2カ所しかやっていなかったのですが、知り合いの医師から紹介してもらって、慈恵医大でやってもらいました。たしか慈恵医大で9番目の症例だったと思います。

鎌田 そうすると、今も体内で放射線を患部に照射する、微小なチタニウムのカプセルが入っているわけですね。

藤野 先日、CTを撮りましたら、いっぱい入っていました。80本入っているそうです。

鎌田 藤野さんはブラキセラピーをご存じだったから、その療法を頼むことができたわけですが、日本では泌尿器科医は基本的に外科医ですから、前立腺がんと診断した患者さんには手術を勧めることが多いですね。

藤野 そうです。日本では年間1万人が前立腺がんで亡くなっていますが、PSAが30~40ぐらいの人でも、手術されているんですよ。

鎌田 手術した後、ホルモン療法をやるんですね。なぜ放射線療法が検討されないのか、不思議ですね。

藤野 今や前立腺がんで死ぬのはばかばかしい時代ですよ。実際、欧米では前立腺がんで死ぬ人が減っています。しかし、日本は逆に増えているんです。

前立腺がんの治療は手術より小線源療法

鎌田 70歳以上の人が前立腺がんになった場合、手術よりは放射線治療のほうがいいですか。

藤野 ヨーロッパのデータを見ると、手術よりブラキセラピーのほうが優れていますね。厚労省の発表でも、早期で前立腺がんの手術をした人でも、2割は再発しています。最近は、神経温存手術が行われており、手術しても勃起機能を2~3割は残せ���ようになっていますが、その手術は概して再発率が高いようです。高い再発率を覚悟して、勃起機能の2~3割維持の可能性に賭けるかどうかですね。
また、手術ですと、尿失禁を覚悟しなければなりません。私は、前立腺がんの場合、よほど前立腺が大きくないかぎり、手術の選択はないとさえ思っており、近々そういう本も書くつもりです。いずれにしても、患者さんのQOL(生活の質)を考えないがん治療は、もはや成立しないということです。

鎌田 藤野さんがボランティアでがん難民コーディネーターができるのは、ジャーナリストとして医学・医療の知識・情報を蓄積された上に、3人の肉親をがんで亡くされ、ご自身も前立腺がんと闘ったということが大きいですね。だからこそ、がん患者さんを親身になって大きな声で励ますことができる。

藤野 がん細胞と闘うのは、最後は患者さんの免疫力です。免疫力を活性化することによって、10年以上生きたがん患者さんはいっぱいいますよ。だから私は、免疫力を活性化するために良いと思うことを、患者さんに大きな声で勧めるんです。1週間に3時間散歩しなさい。起きたら水を飲みなさい。粉末の玄米を溶いて食べなさい。風呂に20~30分入りなさい。野菜スープを飲み、温野菜を食べなさい。そうした誰でもできる、平凡なことの積み重ねが、免疫力を活性化させ、いのちを長らえることにつながるのです。家族も一緒にやりなさいと言っています。

開業医、クリニックががん患者を引き受けよ

写真:藤野さんと鎌田さん
「免疫力を活性化することが大切」と語る藤野さん

鎌田 『がん難民コーディネーター』を読んで感じたことは、日本の医師の多くが、がんが再発したらもうダメだ、と考えているという点です。患者さんは再発が気になって、検査してもらいたいのだけれども、病院側は再発したらもうダメだと考えているから、診てあげない。だから、再発した患者さんは余計にショックを受けるわけです。がんは再発してからが勝負で、そこからいろんな手が打てるんですよね()。

藤野 東京の大病院の話ですが、その病院で乳がんの手術をした女性が、再発して治療を受けにいったら、「うちは治る患者さんを治すところですから、他の病院へ行ってください」と言ったそうです。ひどい話です。しかし、私がこういう仕事を引き受けているのも、どんなに医師を批判しても、現状は変わらないと思うからです。というのは、医療現場は医師の正義感によって成り立っており、現実に多くの医師は職業的倫理観に基づいて、一生懸命仕事をしているのです。
私は、再発したがん患者さんは大病院信仰をやめるべきだと思います。場合によっては、休眠療法をしてもいい。苦痛を取りながら、穏やかに生きていられればいいのではないかと思うのです。これからは2人に1人ががんになる時代です。介護、ペインクリニックは、大病院に頼るのではなく、看護師さんに頼ればいいのです。看護師さんのナイチンゲール精神にすがるのです。それに地域の開業医、クリニックが参加し、進行がんの患者さんを引き受けるべきです。

鎌田 現在の医療行政は、拠点病院でがん患者さんの増加に対応しようとしています。しかし、拠点病院で対応するには限界があることが、早くも明らかになってきています。地域の中小病院や開業医がサポートしなければ、早晩、がん治療は行き詰まります。

藤野 最近は、最期は在宅医療を受け、自宅で亡くなる人が増えています。緩和医療はどこで受けても同じです。大病院をがん治療の拠点にするという頭を切り替える必要がありますね。

鎌田 おっしゃるとおりです。藤野さんのようなフリーな立場からの意見は重要です。がん難民コーディネーターとして、がん患者さんをサポートしながら、がん医療のあるべき姿について、どんどん意見を出していただきたいと思います。

(構成/江口敏)

編集部注 小誌編集部は『がん難民コーディネーター』が述べている考え、意見に同意しているわけではありません


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