鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 聖マリアンナ医科大学外科学教授・福田護さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2009年4月
更新:2013年9月

がん患者さん全体を支援するキャンサーリボンズを運営

鎌田 ピンクリボンは乳がん患者さんを対象にした支援活動ですが、福田さんはがん患者さん全体を支援するキャンサーリボンズの運営もされていますね。

福田 はい。昨年6月にNPO法人を立ち上げ、私が理事長を務めています。実は聖マリアンナ医科大学はこの3月に、ブレスト&イメージングセンターをオープンします。ブレストは乳房、イメージングは放射線や超音波を使った診断法のことで、ここでは乳腺疾患に特化した診療を行います。このセンターは乳がん患者さん全体をサポートする施設として構想されたものですが、この考え方を進めていくと、がん患者さん全体をサポートするところに行き着くわけです。
いまや男性の2人に1人が、女性の3人に1人ががんになる時代です。がんはごく日常的な病気であり、支えられる側だけでなく、支える側もがんになるのです。そういう時代ですから、お互いに支え合わなければならないと思うのです。

鎌田 がん対策基本法ができたのも、基本的にはその時代認識が背景にあります。

福田 昔は「ドクター・センタード・キャンサー・ケア」(医師中心のがん治療)でしたが、いまは時代が変わって、「ペイシェント・センタード・キャンサー・ケア」(患者中心のがん治療)です。しかし、がん患者さんの入院期間はどんどん短くなっており、乳がん患者さんなどは3~5日間で退院させられる状況です。入院中は患者さん中心の医療が行われますが、退院してしまうとそうはいきません。ですから、いまの時代、がん患者さんは社会全体で支えるべきです。キャンサーリボンズの趣旨もそこにあります。

鎌田 すでにリボンズハウスという拠点作りも始まっているそうですね。

福田 がん患者さんが寄り合って情報を交換し合い、お互いに学び合う。そういうコミュニティが日本の都会にはなかったのですが、アメリカのギルダーズクラブを参考にして、各地にリボンズハウスを展開することになっています。

鎌田 リボンズハウスのイメージはどんなものですか。

福田 1つは各地の病院のなかにつくります。そのほかショッピングモールのような大型商業施設のなかにも展開できないかと考えています。

鎌田 リボンズハウスを管理運営するのは病院側ですか。

福田 病院側が患者さんやスタッフからボランティアを募ってやります。ですからそれぞれの病院によって異なる、多様な形になると思います。消化器系が中心の病院と、緩和ケアが中心の病院では、リボンズハウスのスタイルは違ってくるはずです。

鎌田 リボンズハウスという名前をつければ、同じ仲間ということになるわけですか。

福田 そうです。その上で、情報をシェアし、ノウハウを交換し合うことになります。たとえば聖路加病院の経験と聖マリアンナ病院の経験はそれぞれ違いますから、そこはお互いにノウハウを交換し合い学び合えば、トータルとしてリボンズハウスのネットワークは多様性が出てきて、効率的な運営もできるだろうと思います。

リボンズハウスの活動ががん患者さんに福音

写真:福田護さんと鎌田實さん
「リボンズハウスの成功を心より期待します」と鎌田さん

鎌田 がん患者さんをサポートするキャンサーリボンズという全国的な組織があり、その実働部隊ともいうべきリボンズハウスが、これから全国各地にできていくわけですね。

福田 リボンズハウスのネットワークを作り、それをうまく機能させ、充実させていくのが、キャンサーリボンズの役目です。このほど山田邦子さんが「あなたが大切だから」というキャンサーリボンズのイメージソングを作詞・作曲してくれました。キャンサーリボンズはアイリスという花をシンボルマークにしていますが、アイリスの花言葉は「あなたが大切」ですから、それを歌にしてくれたわけです。とてもいい歌ですよ。

鎌田 そうですか。リボンズハウスが軌道に乗れば、がん患者さんにとって大きな福音となるでしょうね。

福田 スタートしてまだ1年も経っていませんが、立ち上げてみて思ったのは、これは企業にしても、一般の人にしても、支援していただける基盤はピンクリボンよりはるかに大きいということです。がんが誰でもなりうる病気であるという認識が浸透し、現に多くの人の身の周りにがん患者さんがいるわけです。たとえば企業の管理職ががんになったとき、自分の人生はもちろん、家族のこと、会社のこと、部下のことなど、さまざまな難問に直面します。それをみんなで支え合うプログラムが必要であることを、多くの人が感じているのだと思います。

鎌田 いろんなプログラムをキャンサーリボンズが提案し、実践していくわけですね。やりがいがありますよね。

福田 今年6月21日の夏至の日に、「がんの支え合いの日」という日本を超えた催しを開きます。国の違い、宗教の違いを乗り越えて、季節の変わり目である夏至の日に、がんについて語り合い、考えようという趣旨です。東京のキャンサーリボンズ本部と、各地のリボンズハウスを結んでやります。

鎌田 厚生労働省は支援してくれますか。

福田 「おもしろい」と言ってくれました。

鎌田 厚労省がお墨付きを出して支援してくれると、マスコミも飛びつきますし、盛り上がりますよ。昨年、厚労省が11月11日を「介護の日」と決めたことによって、介護に対する意識が一段と高まり、報道も盛り上がりましたからね。他の組織との連携も進めるんですね。

福田 はい。リボンズハウス(RIBBONS-HOUSE)という名称は、「緩・美・向・食・癒・働・共・楽・知・動・性・域・魂・活」を意味する英語の頭文字を組み合わせたものです。それぞれの分野の専門家とネットワークを組みながら、がん患者さんのサポートを進めていくつもりです。

鎌田 すばらしいですね。がん対策基本法は、いわゆるがん難民と呼ばれる人たちを減らすことが1つの目的でしたが、依然としてがん難民は存在します。それどころか、がん拠点病院はいよいよ忙しくなり、医療者側が余裕を無くしているのが現実です。がん医療からこぼれているがん患者さんは多いですよ。リボンズハウスの成功を心より期待します。ありがとうございました。

(構成/江口敏)

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