鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 オードリーの会(おおいた乳がん患者の会)元代表・山田泉さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:谷本潤一
発行:2008年12月
更新:2013年9月

「なげださない」精神で抗がん剤治療を続ける

写真:山田さんと鎌田さん
「山ちゃんから大きなパワーをもらった気がします」と鎌田さん

鎌田 さて、2005年に再発したとき、どう思いました?

山田 死ぬなぁ、と思いました。私は乳がんの患者会で、再発・転移した人たちの世話をしていましたが、大体、みんな3年経つと亡くなっていくんです。
ですから、再発と聞いて、自分の番が来たと思いました。最初の乳がん宣告のときよりショックでした。ただ、局所再発でしたから、何とかなるかもという希望は持っていました。

鎌田 その後、2007年3月に退職されますが、その直後に転移が見つかった。

山田 はい。5月に胸壁リンパ節転移を告知されました。そして、今年3月に肺・肝臓への転移が見つかりました。痛みが強く、ホスピスにも2回、お世話になりました。
今は、モルヒネを飲みながらやっとのことで日常生活を保っている状態です。
でも、こうやって鎌田先生とお話しをさせていただいて元気が出てきました。

鎌田 エリックマリアが年末にまた来日するわけですから、元気な姿を見せないと。

山田 決して「なげださない」(笑)。

山ちゃんは、今やかけがえのない存在だ

多くの人々の感動を呼んだ山田さんの2冊の著書
多くの人々の感動を呼んだ山田さんの2冊の著書

鎌田 山田さんが生きて、元気に人と人をつなげていることが大事です。大分県の教育界にとっても、山田さんは今やかけがえのない存在だと思いますよ。

山田 先日、大分県教職員組合の青年部の集会に呼ばれて、講演してきました。すごく喜ばれました。「事件で嫌気がさし、周囲からもいろいろ言われるので、もう先生を辞めようと思っていました。しかし、山田さんの話を聴いて、また授業がしたくなりました。辞めるのをやめました」という内容の感想文が、結構ありましたよ。

鎌田 病院の先生も疲れているけれども、学校の先生たちも疲れていると思います。しかし、ここは子どもたちのためにと思って誠心誠意努めれば、私たちが患者さんから力をいただくように、子どもたちからエネルギーをもらえるんじゃないかと思います。

山田 先生たちに「いのちの授業」のビデオを観てもらいますと、そこに映る子どもたちの真剣な表情を観て、先生たちの表情に喜びが表れてくるんです。先生たちは基本的に子どもたちが好きですからね。

鎌田 山田さんの「いのちの授業」では、子どもたちがよくしゃべりますよね。

山田 子どもたちがなぜだろうと思うことに、こちらも真剣に付き合えば、大人と子どもの間にも、そこに人と人のつながりが生まれます。私は教育の原点はそこにあると感じています。

鎌田 いやぁ、きょうは「山ちゃん」から大きなパワーをもらった気がします。

山田 人間、死ぬと思えば底力が出てくるものですよね(笑)。

鎌田 おっしゃるとおり(笑)。ありがとうございました。

(構成/江口敏)

「ご縁玉」―1枚の「5円玉」がパリと大分を結びつけた―
いのちと音と。ほっこりあたたかい感動ドキュメンタリー

写真:大分の地で再会した山ちゃんとエリック-マリア
大分の地で再会した山ちゃんとエリック-マリア
写真:エリック-マリアのチェロセラピー
山ちゃんのお腹にチェロを置いて、
エリック-マリアのチェロセラピーは毎日続いた

「自分の残された時間の使い方がやっとわかった」

エリック-マリアのチェロの音を聴いて、山ちゃんは目からポロポロ涙をこぼしながらこうつぶやいた――。

映画「ご縁玉」は、大分で「いのちの授業」を続けてきた山ちゃんこと山田泉さんと、国際的チェリスト、エリック-マリア・クテュリエさんとの交流を描いた長編ドキュメンタリーだ。

乳がんを患っている山ちゃんに対して、エリック-マリアは毎日チェロセラピーを行う。山ちゃんのお腹にそっとチェロを置いて、「ボローン、ボローン」と。耳で聴くというよりも、体の芯に響いてくる音色。

「死んだらそういうところに行けたらいいな、という気持ち」

エリック-マリアのチェロセラピーを終えて、山ちゃんはにっこりとこう答える。

パリで初めて出会った、エリック-マリアと山ちゃん。2人はその後、大分の地で再開。エリック-マリアは、山ちゃんと一緒に、児童養護施設やホスピスを訪れ、チェロの演奏を行っていく。

言葉は通じない。でも、エリック-マリアのチェロの音が、子どもたちや患者さんたちの心を溶かしていく。笑ったり、涙したり……。何かが確実に伝わっている。

「ご縁玉」パリから大分へポスター
「ご縁玉」パリから大分へ 監督:江口方康
キャスト:山田泉/エリック-マリア・クテュリエ

たった1度のパリでの出会いが、1枚の「5円玉」を通じて、山ちゃんとエリック-マリア、そしてエリック-マリアと山ちゃんの地元、大分の豊後高田の人たちへとつながっていく「ご縁」。

「会いたい人には、会っておこう。行きたいところには行っておこう。明日死んでもいいように、今日を生きよう」

山ちゃんが書いた本に、こういう詩がある。

「あなたが今、1番したいことは何ですか? 後悔しないように『今』を丁寧に生きていますか?」

山ちゃんは、映画を通して見ている側にこう投げかけているようだ。

チェロを片手に世界中を飛び回っているエリック-マリア。その彼が12月には日本に来て、クリスマス・コンサートを開いてくれると、山ちゃんは嬉しそうに話す。

1つの「5円玉」から始まった不思議な物語。

写真提供:パンドラ

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