鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 読売新聞医療情報部次長・田中秀一さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實
見直されていい放射線治療の有効性
鎌田 田中さんは本の中で、日本では放射線治療が過小評価されてきたが、もっと見直されていいと指摘しています。
田中 ヨーロッパでは、がん治療と言えば、昔から放射性治療がよく行われていたようです。ドイツの物理学者レントゲンがX線を発見した直後から、ヨーロッパでは子宮がんの治療などに放射線が使われていました。ヨーロッパでは伝統的に放射線治療が盛んで、子宮がんでは手術より放射線治療のほうが多いようです。日本では、子宮がんの治療は手術が当たり前と考えていました。しかし、1990年代に、子宮がんの手術と放射線治療の成績が同じであったという論文が出て、放射線治療に光が当たるようになったのです。
先日取材した30歳代の女性は、ある大学病院で子宮がんと言われ、手術日まで決められました。しかし、放射線でも治療できるという新聞記事を思い出し、東大病院の放射線科を訪ねたら、「放射線でも手術と同じ程度の成績です。後遺症はむしろ少ないですよ」と言われ、放射線治療を選択したと言っていました。あのまま手術をしていたら、おそらく子宮を取られていたでしょうね。
鎌田 本の中に、1期の食道がんの例が書いてあります。放射線科の医師は68パーセントが放射線治療を選択するのに対して、外科医は98パーセントが手術を勧めるということです。日本人は医師も患者さんも、がんを切除しないと不安なんでしょうね。
田中 そういう心理はありますね。しかし、もし私が食道がんになったら、手術はかんべんしてほしいですね。放射線のほうがマシだと思います。
鎌田 前立腺がんもそうですね。
田中 以前、映画監督の深作欣二さんが前立腺がんの手術を拒否して亡くなりましたが、私は放射線治療を受けられれば良かったと感じました。
「SMAP」が効くという裏付けはまだない
鎌田 私は免疫療法に興味がありますが、田中さんは否定的ですね。
田中 アメリカでは免疫療法が盛んに研究されてきました。ところが、免疫療法の総本家のような先生が、結局、いくら一生懸命やっても治らなかったという結果が出てしまったのです。アメリカでは免疫療法は認められないという現状です。
鎌田 日本にはいろんな免疫療法がありますが、効きませんか。
田中 効果が証明されたきちんとしたデータがないか、調べたら効果がなかったか、いずれかですね。
鎌田 国は丸山ワクチンを認めず、どうしても使いたい人は使ってもいい、というあいまいな態度をとり続けていますが、どん��データを見ても、丸山ワクチンががんに効くというデータはないんですね。
田中 丸山ワクチンを使っている医師は、こういうデータがあると言いますが、それを客観的に評価すると、決して効いたと言えるものではないのです。
鎌田 免疫療法も、リンパ球を増殖させて、自分の中に戻してあげれば効くのではないかと思われていたが、効かなかった。
鎌田 アメリカの国立がん研究所が免疫療法を調べたところ、効くのは2・6パーセントだった。それもメラノーマ(悪性黒色腫)など、いくつかの限られたがんに免疫力が働くに過ぎない。「SMAP」という言葉を田中さんの本で初めて知った(笑)。
田中 サメ軟骨、メシマコブ、アガリクス、プロポリス。がん患者に人気の4つの健康食品の頭文字を取って、「SMAP」と言うらしいですね(笑)。
鎌田 「SMAP」でも効きませんか(笑)。
田中 まったく効かないと断定はできませんが、少なくとも効くという裏付けはないと思います。
副作用に耐える治療は本来の治療ではない

「医療者側には耳の痛い話もありました」と語る鎌田さん
鎌田 最後に、最近は緩和ケアが注目を浴び、モルヒネにも光が当たっています。しかし、モルヒネはまだまだ「麻薬キャンペーン」と重なる部分があって、患者さんのなかには受け入れにくい部分もあるようですね。
田中 医師も患者も誤解していますね。モルヒネは、投与法さえ間違えなければ、依存症などの中毒症状を起こすことはありません。痛みを我慢しながら闘病生活を送るより、モルヒネで痛みを取ったほうがむしろ長生きできるのではないか、という見方も出てきています。
鎌田 田中さんが進行がんで痛みがあるとしたら、モルヒネを使ってもらいますか。
田中 そうします。
鎌田 田中さんは『がん治療の常識・非常識』の最後に、46歳でがんで亡くなった哲学ライター、池田晶子さんが、ソクラテスの言葉として語らせた、「治るものなら、闘うことに意味はないだろうし、治らないものなら、やっぱり闘うことに意味はないだろうね」という言葉を紹介しています。
本の最後にこの池田さんの言葉を持ってきた意味は、どういうことですか。
田中 「医療ルネサンス 」を連載しているとき、「抗がん剤は効果がない」と書いたら、「よく書いてくれた」という意見と、「抗がん剤の治療中なのに、そんなことを書かれたら希望がなくなる」という意見と、賛否両論の反応がありました。私は、治療はあくまでもいい状態で過ごすためのものであり、副作用に耐えるための治療であっては、本末転倒だと思うのです。池田さんの言葉も治療することだけが希望なのではなく、他に希望を持って生きることが大切だということだと、私は思います。
希望を持てることは、人生の中にいろいろあるはずです。治療をする中で、それを求めることも必要ではないかというメッセージを込めて、池田さんの言葉を紹介したつもりです。
鎌田 なるほど。医療者側には少し耳の痛い話もありましたが、大変勉強になりました。ありがとうございました。
(構成/江口敏)
同じカテゴリーの最新記事
- 遺伝子を検査することで白血病の治療成績は向上します 小島勢二 × リカ・アルカザイル × 鎌田 實 (前編)
- 「糖質」の摂取が、がんに一番悪いと思います 福田一典 × 鎌田 實 (後編)
- 「ケトン食」はがん患者への福音になるか? 福田一典 × 鎌田 實 (前編)
- こんなに望んでくれていたら、生きなきゃいけない 阿南里恵 × 鎌田 實
- 人間は死ぬ瞬間まで生きています 柳 美里 × 鎌田 實
- 「鎌田 實の諏訪中央病院へようこそ!」医療スタッフ編――患者さんが幸せに生きてもらうための「あたたかながん診療」を目指して
- 「鎌田 實の諏訪中央病院へようこそ!」患者・ボランティア編――植物の生きる力が患者さんに希望を与えている
- 抗がん薬の患者さんに対するメリットはデメリットを上回る 大場 大 × 鎌田 實 (後編)
- 間違った情報・考え方に対応できる批判的手法を持つことが大切 大場 大 × 鎌田 實 (前編)