鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 厚生労働省がん対策推進室長・武田康久 VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2007年9月
更新:2013年9月

拠点病院ばかり頼ってもがん医療の問題は解決しない

鎌田 ぼくは拠点病院に多くの役割を担わせれば問題が解決するという考えにも、懐疑的です。大学病院の先生や拠点病院の院長は上のほうさえしっかり作っておけば、ほかは何とかなると考えている節がありますが、それは絶対に間違っています。
がん医療というものはとても対象者が多いもので、拠点病院だけで問題が解決するようなものじゃない。やはり一般の病院の診療体制を拡充していかないと国民のがん医療の満足度は上がらないと思うんですね。
とくに地方においては拠点病院になれない2次医療圏の中小の病院の役割が重要になってくると思います。

武田 具体的にはどういったことでしょう。

鎌田 現状を見ると、全部拠点病院に集中させようとしたことで、そうした病院が弱体化しているんですね。せっかく特徴を持った形で生き延びてきた病院が、物体化していくことは地域社会にとって大きな損失です。
その一方で、拠点病院に働く人たちは患者さんが集中するため、燃え尽きてしまう。アンバランスな状況が生じています。
また、拠点病院になった施設のなかには、2次医療圏では生き残れないから無理をして拠点病院になったところが少なくないんですね。当然のことながら、マンパワーを拡充する余裕もありません。働く人たちはクタクタです。
一番困るのは、実際は拠点病院としての機能を備えていないのに、あるように見せかけているケースが多いことです。緩和チームがあると標榜していても実態は名ばかりの幽霊チームであったりするケースは1つや2つじゃないと思いますよ。ぼくはコムスンと同じようなことにならなければいいと心配しているんです(笑)。
国がしっかり見ないと大変なことになるんじゃないでしょうか。

有名無実化しがちな拠点病院の機能

武田 私どもは、「拠点病院というのは、がん診療の拠点でもありますが、あくまでがん診療に関わる様々なレベルの「連携」体制構築の拠点であり、地域全体のがん医療水準を向上させるため、地域における医療機関間の連携を進めるコーディネーターの機能が重要」と強調しておりますし、既存の拠点病院についても、昨年、各都道府県に示した新しい整備指針に基づいてレベルアップを図っているところです。
この新しい指針では、たとえば拠点病院における相談支援機能に関しても、具体的かつきめ細かい指定要件を設けています。以前の旧指針ではたった1行 「医療相談室が設置されていること」としか書いてありませんでしたが、きちんと相談支援業務が行われていない実態などを踏まえ、拠点病院に必須の「相談支援センター」には専任者を置いて、どのような相談支援活動を行うというところまで踏み込んで規定しています。
また、その一方で、院内・外での連携体制がしっかり取���ているところもあります。たとえば相談支援センターについても、院長や副院長直轄の組織として効果的な連携体制が作られていたり、院内の強力なチーム医療体制の構築や地域における在宅医療との連携などさまざまです。そういう連携体制の成功事例についても、他の拠点病院の参考として今後適宜紹介しながら制度全体のブラッシュアップ(洗練度を上げる)を図って行きたいと考えています。
それと、先生がおっしゃるように、拠点病院だけでがん医療を全て一手に担うのは、どだい無理な話です。地域における他の医療機関とも役割分担・機能分担していかないと、地域全体のがん医療のレベルは向上しません。 基本計画でも示されましたが、今後は、拠点病院そのものの機能強化とともに各都道府県で地域の状況に即した効果的な連携体制や役割分担が求められていくことになります。これら各種の連携を具現化するためには、他の医療機関の役割が重要になってくるのはいうまでもありません。

鎌田 役割を果たしたいと思っても、それを担う人材や必要な設備がなければ、役割分担をされたところで実行に移すことはできません。どこも経営が苦しいので、できないところが多いでしょうし、実体はなくてもあるように見せかけるケースも出てくるでしょう。そうならないためには、先程も申し上げましたが、総医療費の枠を増やすことが不可欠なんです。
ぼくは、その増えた2兆円分の医療費を国民的ニーズの高い3つの分野に集中的に使うべきだと思っています。 具体的にいうと、1つは、誰もが標準治療を受けられるようながん医療の体制作りをすること。2つ目に、少子化の危機を打開するため産婦人科と小児医療を拡充すること。そして、最後に、在宅医療、緩和ケアなど「支える医療」を拡充すること、以上の3つです。

武田 なるほど、3つとも重要な課題ですね。

三位一体で取り組むがん医療

武田康久さんと鎌田さん
患者さんの意見を反映したがん政策の課題と展望を熱く語り合った

鎌田 予算面でも、1ケタ違うスケールの予算増を実現する必要があります。
それには患者さんと医師と厚労省が1つになって財務省相手に予算獲得の戦いを起こすくらいの気構えが必要なんじゃないでしょうか。がん患者さんたちが行動を起こし、がん医療を大きく変えようという機運が高まっている今がチャンスだと思います。「がん対策基本法」の施行に至ったいい流れはまだ続いているんです。それを追い風にすれば、できないことではないでしょう。
新幹線を少し我慢してでも、その分のお金をがん医療改革に注ぎ込まなければ、日本はがん医療に関しては、永遠に先進国になりえないと思うんですよ。
厚労省の責任者という立場にある武田室長には、国のがん対策を推進する中心的存在として、今後とも頑張っていただきたいと思います。本日は、有難うございました。

武田 「がん対策推進基本推進計画」を進めていくにあたっては、計画の設定期間および目標達成の期間である、ここ5年、10年の持つ意味は大きいですね。患者さんと医療従事者、そして一般国民の方々などさまざまの視点が盛り込まれた計画が形となり、計画で謳う「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会」が実現できるよう、全力を尽くしていきたいと思います。

(構成/吉田健城)

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