鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 四国がんセンター第1病棟部長・住吉義光 VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2007年8月
更新:2013年9月

1兆円を超える健康食品市場

鎌田さん

鎌田 1人の患者さんが使う費用はどの程度のものですか。

住吉 補完代替医療といってもさまざまですが、月に500円くらいから50万円以上の人もいます。平均すると月に5万7000円といったところでしょうか。

鎌田 その金額はすごいですね。薬代より高額かもしれない。そういえば1人の患者さんが月に20万、30万円も健康食品を使っていたという話もありました。
補完代替医療の市場規模はどんなものですか。

住吉 いわゆる健康食品に限ってみるとおおよそ1兆3000億円といわれています。ただこれも線引きが難しいのですね。たとえば野菜汁など一般的な健康食品も含めると2、3兆円にまで膨れ上がります。医薬品の市場規模が全体で6兆円、しかもそれが上限と定められていることを考えると、かなりの市場規模といえるでしょうね。

鎌田 なるほど。最近になって医薬品メーカーがいろんな健康食品を売り出していますが、それにも納得がいきますね。それほど市場規模が膨らんでいるのなら、効果についてもしっかりとした検証が必要ですね。

住吉 おっしゃるとおりですね。しかし、厚生労働省は安全面についての調査は実施していますが、効果についての検証は皆無というのが現状です。
ただ最近では状況が変わってきて、私たちのところ以外でも金沢大学では健康食品についての研究が手がけられています。大阪大学では、日本で初めての補完医療外来も誕生していますね。これは一般病院のセカンド・オピニオン外来のような形で、時間を区切って、患者さんからの相談に応じているようです。ちなみに、国立大学ではこの2校のみに補完代替医療講座が設置されています。

全否定され始めたアガリクスだが真相は

住吉義光さん

鎌田 ここでちょっと話を変えて、患者さんがもっとも強い関心を持っておられるであろう個々の健康食品、療法についてお伺いしたいと思います。先生はご著書の中で、とくにアガリクスに紙数を割いておられますが、これはそれだけ効果に期待が持てるということですか。

住吉 そういうわけではなく、健康食品のなかで最も多く利用されていたのがアガリクスであったからです。アガリクスを使ってがんがよくなる人はいると思います。
しかし何人に1人がよくなるのか、いってみれば分母の大きさが問題なのですね。何100人に1人か、あるいは何1000人に1人か。そうなると、とてもエビデンスベースで話すことはできません。これはほかの食品、治療法についてもいえることですが。
もっとも、健康食品のなかには抗がん作用以外で、たとえばセントジョーンズワートのうつ病に対する効果など、はっきりとした効果が認められている場合も少なくない。と、すれば、そちらに目的を絞って、健康食品を使ったほうがいいのではないかと私は思っているのです。
ご存知のようにアガリクスについては、いろんな問題が表面化したために、現在では、その効果についても全否定される傾向があり、薬局などでも店頭に置いてあった商品を倉庫にしまいこんでいるところが目立ちます。しかし、現実にはアガリクスを使うことで安心感を得て、健やかな気持ちになっている人もいるでしょう。そのことにも目を向けるべきではないかと思うのです。

鎌田 アガリクスの問題について、読者のなかにはご存知ない方もおられるかと思うので、簡単に整理してもらえますか。

住吉 ご存知のようにアガリクスというのは、南米産の特殊なキノコの1種で、最近ではいろんな企業でさまざまな形状の製品が発売されています。そのなかで比較的、大きなメーカーのアガリクスを使った患者さんに肝障害、肺炎などの副作用が生じたことが最初の問題でした。その後にいわゆるバイブル本を用いた商法が摘発され、さらに少し前には、ある大手メーカーのアガリクスに発がんを促進する作用があるという事件が起こっているのです。現実には、最後の問題のダメージがもっとも大きかったようですね。がんに効くはずのアガリクスから発がんを促進する作用が見つかったのだからそれも無理はないかもしれません。
もっとも、だからといってすべてのアガリクスに問題があるわけではないのです。アガリクスのなかには、安全性についてきちんとした評価を受けているものもあるのです。厚生労働省も、先ほどの発がんを促進する作用があったのは3種類のうち1種類だけで、ほかの2種類にはそのような作用がなかったと公表しています。そのことにはまったく目を向けず、全否定するのは行きすぎだと思いますね。

鎌田 なるほど。効果についての評価はどうなのですか。

住吉 アガリクスに関しては、婦人科がん患者さんで、抗がん剤と一緒に使い副作用を軽減できたことが韓国より報告されています。これはほかの食品にもあてはまりますが、健康食品の抗がん効果については、臨床試験がまったく行われていないのが実情です。だから効くともいえないし、効かないともいいきれない……。

鎌田 QОL(生活の質)という点での効果はどうなのでしょう。先生は使うことで安心感が得られるとおっしゃっていましたが……。

住吉 残念ながら、私が知る範囲では明らかに効果があったという報告はありません。不安感を軽減できるという話はよく聞きますが、科学的検証は十分ではないようです。

鎌田 最近ではプロポリスというのも人気になっているようですが、これはどうなのでしょう。

住吉 同じですね。抗がん効果があったとの報告はありません。ただプロポリスの場合は、特殊な樹木から抽出した樹脂で、ギリシア時代から使われていたということですが、抗炎症作用はあるかもしれません。

セントジョーンズワート=西洋オトギリ草

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