鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 四国がんセンター第1病棟部長・住吉義光 VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2007年8月
更新:2013年9月

アメリカで爆発的人気の「サメ軟骨」

鎌田 もうひとつ「サメの軟骨」というのも、よく宣伝されていますね。だいたいどうして「サメ」なんですか。

住吉 嘘のような話ですが、サメにはがんが発生しないというのが理由です(笑)。サメには、血管新生を阻害する働きがあって、それががんの増殖を妨げるとされています。
それはともかく、この商品はアメリカで爆発的な人気を呼び、それがきっかけとなりアメリカで健康食品を莫大な国家予算を使い検証しようという動きが起こり始めました。1、2年以内には、その結果が報告されることになるでしょうね。健康食品に関しては、それ以外にもウコン、フコイダン、メシマコブなどがありますが、いずれも抗がん効果についてはあまり期待は持てないでしょう。
ただあるメーカーが開発したAHCCという食品は、関西医科大学で10年に及ぶ研究が行われており、肝臓がんに効果があったと報告されています。すなわち、手術した後にAHCCを食べた人が食べなかった人に比べてがんの再発が少なく、長生きできたというものです。この研究については『ジャーナル・オブ・ヘパオロジー』という著名な専門誌でも紹介されています。

鎌田 AHCCとはどんなものなのですか。

住吉 ひとことでいうとシイタケの一種です。このなかの有効と思われる成分を抽出したエキスのようなものと考えればいいでしょう。

鎌田 シイタケといえば、レンチナンという薬剤も開発されていますね。同じようなものなのでしょうか。

住吉 主成分が違うようです。また、レンチナンは注射ですが、AHCCは食品という点で異なります。

免疫細胞療法をどう捉えるか

鎌田 健康食品以外では、先生は免疫細胞療法にも言及しておられますね。これは一見すると科学的な根拠にのっとった治療のように思えるせいか、治療の術がなくなった患者さんの駆け込み寺になっているような印象もあります。
最近では砲丸投げでオリンピック選手にもなった女性が虫垂がんで亡くなっていますが、その人が最後にたどり着いた治療としても話題になっている。非常に高額な費用が必要な治療ですが、先生の目から見て効果のほどはどんなものでしょう。

住吉 この治療は、大学病院では先進医療として行われていますし、民間のクリニックなどでも自由診療として行われています。
治療効果があったとかQOLに有効であったという報告はありますが、一般的ながん治療となるにはまだまだ大きな問題を抱えていますね。効果を客観的に評価するには、臨床試験による前向きに研究したデータが必要でしょうね。

鎌田 高額な治療とは聞いていますが、じっさい費用はどの程度のものですか。

住吉 免疫細胞療法は自由診療で病院やクリニックで行われていますが、1コース150万円前後といったところ。ほとんどの患者さんは2コース以上の治療を受けています。費用対効果という面でいうと、とてもお勧めはできません。ま、免疫という言葉の響きで効果があるような印象をうけるのでしょうが。

鎌田 免疫細胞療法で全身の免疫が強化されるとしても、それが抗がん作用につながるという保証はありませんからね。ただ最近ではがんを特異的に叩く手法も研究されているとも聞いています。そうした手法が実現すれば、ある程度は効果にも期待できるのかもしれません。

住吉 そうですね。ただ私としては、免疫細胞療法は固まりとしてあるがんに対してよりも、術後などの再発予防などに活用したほうが、より大きな効果が得られるように思います。

勘違いをしている鍼灸師たち

鎌田 民間療法の鍼灸治療はどうでしょう。

住吉 これも補完代替医療としては、QОLの向上などの効果があると思うのです。ただ問題は鍼灸師のなかに、がん治療にこの手法を用いている人がいることですね。私の患者さんにも前立腺がんで、放射線治療が必要なのに、鍼灸師から止められて治療を受けなかった人がいました。後で検査すると案の定、症状は悪化していましたね。鍼灸師に限らず、手術・放射線治療などの治療を中止させ、代替医療のみにしなさいというようなセラピストには注意したほうがいいですね。

医師と患者に求められるコミュニケーション

住吉義光さんと鎌田さん

住吉 これまで見てきた健康食品や免疫細胞療法は、いずれも大きな費用負担が必要ですね。しかしがん治療を補う補完療法のなかには、まったく何の費用も必要ないものもあるのです。

鎌田 何ですか、それは。

住吉 運動、エクササイズです。ウォーキングに換算すると1日1時間、その程度の運動で大腸がんや乳がんの患者さんで長生きができたと報告されています。何年か前から話題になっている「笑い」の効用に通じるものがあるのかもしれません。それに最近では、肥満が発がんの危険因子であることが明らかになっていますからね。発がん、再発予防にも適度な運動は効果的です。

鎌田 それはいいですね。手間もかからず、お金もまったく必要ない。最後になりましたが、補完代替医療のこれからのあり方について、先生のご意見を聞かせてください。

住吉 健康食品にせよ、免疫細胞療法にせよ、既存の治療を代替するにはやはり無理があります。手術や化学療法、それに放射線治療など、本来の治療をカバーする補完療法としてのあり方を考えていくべきではないでしょうか。

鎌田 私個人の意見をいうと、補完療法について患者さんと医師の間で、ほとんど話し合いがもたれていない。そのことも問題だと思いますが。

住吉 おっしゃるとおりですね。私たちと患者さんの信頼関係は十分なコミュニケーションによって生まれます。そういう意味でも補完代替医療について患者さんが、医師に堂々と相談できる状況が必要でしょうね。私の本がそうした状況が醸成されるきっかけになればと願っています。

(構成/常蔭純一)

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