鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 東大病院放射線科助教授・中川恵一 VS 「がんばらない」の医師 鎌田實
治療法を選ぶとき、医師に誘導されていないか

鎌田 ほかのがんはどうですか。
中川 前立腺がんはアメリカ男性の5人に2人がかかるがんですが、95年時点では95パーセントが手術でした。けれども、これがどんどん減り、今では体外からの放射線照射(外照射)と小線源療法と手術で、1対1対1になっています(図6参照)。
鎌田 3つの治療法を、アメリカではどうやって区分けしているんですか。
中川 患者さんが選びます。MDアンダーソンがんセンターでは、外科、放射線科、内科の順に、1時間ずつ診察をするそうです。患者さんは全科の医師の話を聴き、医師側は3人で相談をすると。
鎌田 すごいなあ。ぼくたちは自己決定とかインフォームド・コンセントというが、外科医がインフォームド・コンセントをしたり、外科医が説明をして患者さんが自己決定をするから、基本的に外科医に誘導された自己決定なんですね。
中川 間違いなくそうだと思います。
鎌田 前立腺がんも早期なら、放射線だけで行けるんですか。
中川 アメリカではステージB1までの早期では、小線源療法がいちばん多いです。しかも、日帰りです。日本は放射線に関する法律が厳格なため、2~3泊になりますが、それでも、2~3泊ですむ。しかも、手術をすると男性機能はなくなるし、尿漏れは起こるし、やっぱり小線源療法がいちばんいいと思います。
鎌田 先生自身がもし前立腺がんになったら?
中川 確実に小線源ですね。仕事もできますし。
鎌田 喉頭がんはどうですか。ぼくたち内科医は今まで第1選択は手術と思って外科医に紹介してきましたが、先生のご本を読んだら、放射線治療と治療成績はほとんど変わりませんね。
中川 T1期の喉頭がんは、昔からほとんど放射線でやっています。治療成績が変わらず、しかも、声を失うのは大きな打撃ですから。先生が外科医の先生にご紹介されても、おそらくそういう判断だと思いますよ。
鎌田 ああ、それなら安心だ。
放射線は免疫ががんを識別できるようにするだけ
中川 ちょうど画像をもってきたので、見てください(図7参照)。喉頭がんの治り方です。1カ��くらい毎日外来で行いますが、最後はここまでになります。いかにもマクロファージががん細胞を食べているふうでしょう? 事実、この状態で切片をとって調べると、マクロファージばかりなんです。



鎌田 ほう。
中川 実際に食べていますよ。それじゃ、なぜ最初の段階で食べないかというと、異物に見えないからです。放射線を当てると、異物に見えるようになる。つまり、放射線は、ステルス(隠れ蓑)を消しているだけ。免疫からがん細胞が見えるようにしているだけなんです。
鎌田 え、そうなんですか!?
中川 つまり、がんが小さくなるのは免疫力です。
鎌田 ええーっ。そういう考え方なの?
中川 いえ、考え方じゃなくて、実際にそうなんです。もちろん、悪性リンパ腫のように、(放射線が)がん細胞にアポトーシス(細胞の自死)を起こさせるものもあります。この場合も、がん細胞が時間単位で消えていくのがわかりますよ。一方、正常細胞のかたまりを培養して放射線をかけても、びくともしません。正常細胞には、攻撃するマクロファージがいないからです。
鎌田 はーっ、そうなんですか。放射線ががん細胞を殺しているのかと思ったら、マクロファージを働きやすいようにしているだけとはね。
中川 がん細胞はもともと自分の細胞だから、免疫から見えない。それを、異物に見えるようにする。生物学的にいうと、がんに「抗原性が出てくる」わけです。
鎌田 おもしろいなあ。免疫なんだ。
中川 そうです。広義の免疫力。まあ、免疫力というのもファジーな話ですが、リンパ球の数、白血球の数は多いほうがやっぱり治るんです。ですから、体調がいいほうが、笑って放射線をかけたほうが効くのかな、と思いますね。
放射線治療の意味を理解することが大切

鎌田 放射線治療は、暗いイメージがあるでしょう。「身内が苦しんだだけだった」とかね。内科であるぼくたちもずいぶん放射線科に紹介したけど、ひどい目にあったといわれることが多い。ただ、紹介したのは早期がんの人ではなく、やっぱり末期の患者さんなんですよね。
中川 そこは微妙でね、放射線をかける意味を理解していただいていないからだと思います。たとえば、ぼくが医者になった20数年前は、がんの方には告知をせず、肺がんなら肺真菌症などといって、「胸にカビが生えたから、光を当てます」と言って放射線をかけたんですよ。
鎌田 本当にそう言ったの?
中川 言いました。末期がんの方に放射線をかけるときも、「治すため」と説明するわけです。しかし、実際には、緩和ケア的な放射線治療が少なくないんですね。
鎌田 そのとおりですね。
中川 どんなに悪くなっても、「治療」の部分は必要であり、ホスピスで手を握っているだけじゃいけないと思います。たとえば、全身に転移があって、転移病巣をひとつ消しても、治癒という点では意味がない場合でも、その転移病巣が小さくなることで、また歩けるということもある。ただ、その場合は結局亡くなるわけです。ですから、この段階での放射線治療の意味を理解していただければうまく行くのに、「完治させる」と説明するから、イメージが悪くなる。治療したけど、死んだじゃないかと。
鎌田 うーん。ここは大事だね。だって、ぼく自身、末期でも放射線治療を受けたいもの。
中川 緩和ケアは残り時間が少なくなった人に、非常に大事です。そして、何がこの部分を担当できるかというと、圧倒的に放射線です。逆に言うと、放射線は体調が悪い末期の患者さんが受けられるほど、負担が少ないんです。
鎌田 ああ、なるほどねえ。
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