鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 「イデアフォー」世話人 中澤幾子 / 「とまり木」代表 北澤幸雄 VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

発行:2006年3月
更新:2013年9月

患者が勉強しなければならない医療現場は本当はおかしい

鎌田 それにしても、北澤さんの最初の病院はたいへんな病院だったようですね。患者会の役割に、患者さんが適切な治療を受けられるよう、情報を集めて提供することがあると思いますが、そのへんはいかがですか。

中澤 乳がんは本もたくさん出ていますし、患者が望めば、今どんな治療が標準治療かという情報は必ず入ってきます。けれども、乳腺外科が乳がん患者を担当する病院はまだ多くはなくて、外科医が術後の抗がん剤やホルモン療法も担当することが多い。やはり、自分の主治医がどれだけの知識をもっているか、見極めることは大切だと思います。
また、患者からの働きかけで医師が勉強をして、治療が変わってきた部分は間違いなくあると思います。事実、温存療法も、イデアフォーが設立された89年当時は5パーセントぐらいでしたが、去年のアンケートでは50パーセントを超えていました。センチネルリンパ節生検が考え出されたのも、背景には「リンパ節郭清をしないでほしい」という、世界中の乳がん患者の願いがあったと思います。

鎌田 中澤さんのように自分で勉強できない人でも、患者会から必要な情報をもらって、主治医に相談することはできそうですね。

中澤 自分で勉強しなきゃならないなんて、理想ではありません。理想はどんなにぼんやりした人でも、きちんと理解できるまで医師から説明が聞けること。だけど、今の段階ではむずかしいから、自分が何を望んでいるか、患者は言わなければならない。でも、最初から知識はいりません。たとえば乳がんなら、おっぱい残したい、リンパ節切りたくない、その方法を考えてください、というところから始めればいいと思っているんです。

北澤 でも、私みたいに何も勉強しないで治療にかかってしまうと、後悔ばかりですよ。

鎌田 北澤さんご自身は今ステージ4だから、厳しい条件にはあるわけですね。

北澤 ステージ4と言われましたが、今は消えています。あ���こちに影があるので、実際はわかりません。でも、この間も「組織を取りたい」と言われましたが、いっぱいある中のひとつを取って、それが白と出ても黒と出ても心が休まらないから、取るつもりはありません。

中澤 今は何の治療もしていないんですか。

北澤 ええ、していません。

鎌田 体調は悪くない?

北澤 いい方向に向かっています。どのくらいまで回復したかわかりませんが、体力は確実に戻ってきました。ここまで戻れるとは、夢にも思いませんでした。生きててよかった。再発治療もやってよかったと思います。

鎌田 ほう。はじめからきちっとした診断と治療をしていたら、もっと早く今の状態にもちこめた可能性がある。そこは少し残念ですね。

北澤 ですから、勉強不足も嘆いていますし、抗がん剤の36回14カ月については、時間もお金も体力も取り返しのつかないほどの無駄遣いをしたと思っています。

中澤 勉強不足だなんて、思う必要ないと思いますよ。それは完全に医師の説明不足です。勉強不足なのは、その医師のほうです。

家族と協力してがんと闘う。そのとき必要なのは真実。

鎌田 病気が進んでいく中、家族もつらい状況に追い込まれていくと思います。そんなとき、たとえばイデアフォーなら、どんなサポートがお願いできますか。

中澤 乳がんの場合、家族がつらくなるのは、患者が再発したときですね。イデアフォーでは再発のおしゃべりサロンを2カ月に1回開催していますが、本人が来なくて家族だけが来るケースはけっこうあります。ご主人だけがずっと参加しているご夫婦もあります。
患者が家族に再発を言えないケース、家族が本人に言えないケースの両方ありますが、そういう方たちに参加者の皆さんがおっしゃるのは、「信頼関係を確立するためには、正直に言わなければだめ」ということです。でないと、今後についても話し合えないし、患者は疑心暗鬼になって、家族は目を合わせて話ができなくなると。そういうことを家族同士、患者同士が話せる場を提供するのが、私たちにできることだと思います。

鎌田 おしゃべりサロンには、どのくらいの人数が集まるんですか。

中澤 通常10人前後ですね。フリートーキングですから、かなりアットホームですよ。そのほか、勉強会やセミナーもやります。そうした集まりを通じて、逆に情報を集めるのも患者会の役割だと思います。病院情報や患者の生活に関する情報などが集まるので、それを集約して発信していくということです。

鎌田 とまり木では、いろいろな相談ごとに対して、どう対応されていますか。

北澤 先月やっと法登記をすませたばかりで、実態はほとんど私がひとりでやっています。

鎌田 でも、電話をすれば話し相手にはなってくれるんでしょう。

北澤 もちろんです。心理療法家の方もメンバーにいて、無料電話相談も受けられます。

鎌田 相談に対しては、どこまでサポートしたらいいかという問題があると思いますが。

中澤 私たちは電話相談から始めます。患者が得た情報の「交通整理」をして、私たちが公平と考える情報を提供します。自分で電話をかけてくるケースでは、わりと考え方が決まっているのに踏み切れないことが多い。そういうときに背中を押すわけです。医者に言われたことがよく理解できていない場合には、一緒に「ほどいて」いき、今度行ったら聞きたいことなどを整理するようアドバイスします。

患者会にも来られない人を探してサポートしたい

中澤幾子・鎌田實・北澤幸雄
精神的自立、肉体的自立、社会的自立、経済的自立と、
自立には4つあると思いますが、私にとって第1は経済的自立。
あとの3つはそれについてくるものです(北澤)

北澤 私はあくまで、未認定障害者の発掘を第1の目的にしています。患者の中にはぼくのようにうつ状態になって、NHKの特番も見ず、テレビも電気も消してしまうような人がいる。そういう人に発信するには、まず本人を探さなければなりません。制度から洩れているのですから、市役所で障害者の名簿を見ても載っていません。ですから、発掘のために講演会や実習を開催しているんです。
それから、運転ボランティアも必要です。イベントがあったとき、未認定障害者の人たちが来られるようにするためです。お金の問題もあるでしょう。足腰立たないという人もいる。送迎する必要があるんです。講演会などに来てくれた人の背後には、来たくても来られない人がいるという思いを、常にもっている必要があると思います。
あと、体調が悪かったとき、自分が20分しか続けて仕事ができなかったことを思いました。現在のシステムでは、20分仕事をしても一銭にもならない。それなら、20分しか働けなくてもお金になるようなシステムを作らなければなりません。これを時間給ではなく、「1分給」と呼んでいます。非常に草の根で地味な活動ですが。

鎌田 地味だよね。大きくならないよね。でも、必要で大切なことで、すごくいいなあと思います。お2人とも今日はありがとうございました。

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