鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 銀座東京クリニック院長 福田一典 VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

発行:2006年1月
更新:2019年7月

原因志向の西洋医学、解決志向の漢方医学

鎌田 30年ぐらい前の話ですが、直腸がんの人にサルノコシカケを使ったことがあります。ぜひ飲みたいと患者さんから申し出があって、「それならどうぞ」となったのですが、直腸がんなので触診でがんの大きさの変化が見られます。飲みだしたら、がんが半分ぐらいに小さくなって、とにかく「効いたな」という感じになりました。しかし、結局はやはりまた元に戻っていきました。そのとき感じたのは、サルノコシカケで治ることはないにしても、少し効くのかな、ということですね。

福田 それはありうると思いますね。実際、漢方薬の中には免疫を高めるものにキノコ由来の生薬が数多くあります。免疫力が弱まっている人にキノコ由来の漢方薬を与えると、免疫力が回復したり、がんが縮小した例もあります。私のクリニックに来る患者さんは、西洋医学に失望して来る方が多いのですが、自分の体に奇跡が起きないか、みんな期待していて、実際、自然退縮した例もあります。ただしそれは、たまたま効いたのであって、再現性がないので西洋医学の医師からは相手にされないわけです。西洋医学は原因志向で、原因を見つけることから始めますが、漢方は解決志向で、いろんな方法を試して、それで治ればいいという考え方。そこで私は、漢方だけじゃなく、サプリメントも試す価値はあると思い、使っています。ちゃんと評価して、適切に用いるならば、十分に意味はあると思っています。

鎌田 たとえば肝臓がんは、手術しても3年後には3分の2が再発するとか、胃がんの5パーセント、肺がんの25パーセントは発見した段階ですでに転移があるといわれています。結局、がんというのは、発見されたときに、実は目に見えない形でがんの芽が散らばっている可能性がある。また、がんができるということは、がんができやすい素地があるからで、取り切ったはずなのに、その後、また新しい同じ種類のがんができてくる、というのもありうる。それから、がんになる人が増えて、同時に、長生きの人も増えてくれば、がんが1度できた人に多重がん、つまり違う種類のがんができてくる可能性だってある。だからこそ、第3次予防が必要であり、そのためのサプリメントなのだ――そういうとらえ方でいいんですね。

福田 そうですね。がんというのは氷山の一角の面があって、がんができたその水面下には、免疫力の低下とか、虚弱体質があるとか、あるいは慢性の炎症があるとか、いろんな原因があるものなのです。それを解決しないかぎりは、またがんになってしまうわけなんです。したがって、がんを治そうというとき、水面下にあるものを見つけて、改善する努力が大切であり、そこでたとえば、食生活を改善するとか、免疫力が低下しているなら高める必要がある。そして、そのように食生活を改善しようとするときに役立つのがサプリメントであり、漢方である、というのが私の考えです。
サプリメントや漢方だけでがんを治そうというのではありません。あくまで標準的治療の補助であり、第3次予防に用いる上でも、食生活を補助するものであるという認識です。ところが、食生活の改善はそっちのけで、サプリメントばかりに頼る人が多い。これでは本末転倒です。まずは食生活が大切であるという啓蒙が大事だと思っています。

抗がんサプリメント・ミシュラン

鎌田 そこで具体的に、読者に役立つようなことをおうかがいしていきたいと思います。先生が書かれた『決定版! 抗がんサプリメントの正しい選び方、使い方』(南々社刊)という本では、いくつかの抗がんサプリメントが取り上げられていて、フランスのレストランの評価のように、わかりやすく星の数で評価されています。この違いは何なんですか?

福田 3つ星は、がんの予防や治療に適切に使用すれば有用と考えられるだけの臨床試験のエビデンスがあるものです。

鎌田 しかし、この本には、3つ星に該当する抗がんサプリメントはありませんね。

福田 ええ。2つ星は、人間の臨床試験レベルの結果ではないが、信頼できる基礎研究とケースシリーズでの有効性の確認があり、試してみる価値はあるというレベルですね。この本では、大豆、ω3不飽和脂肪酸が2つ星です。1つ星は、基礎研究あるいは少数の臨床報告のレベルであり、人間での効果がはっきりしないため、積極的には推奨できないが、可能性は否定できないというものです。β-グルカン、イソフラボン、サメ軟骨エキス・サメ脂質、アポトーシス(細胞死)を誘導する抗がんサプリメント(フコイダン、プロポリス等)、ポリフェノール類(フラボノイド、茶カテキン、イチョウ葉エキス等)、ミネラル(セレン、亜鉛ほか)、食物繊維(水溶性食物繊維、キチン・キトサン、フコイダン等)、ニンニク、ショウガがこれに当たります。ただし、この評価は現時点でのものであり、今後の研究結果で評価が変わる可能性は十分にあります。
なお、中には1つ星より上の1つ半星というのもあります。抗酸化ビタミン(βカロテン、ビタミンC等)、高麗人参、漢方薬などですが、漢方薬などは私としては2つ星にしたいところですが、厳密な意味での二重盲検をやってない。それで、1つ半にしました。星ゼロのものは、有効性や安全性に関するデータが不十分で、現時点では推奨できないものです。

免疫を高めることが逆効果の場合も

鎌田 β-グルカンを含むサプリメントといえば、アガリクス、メシマコブ、ハナビラタケなどがありますが、1つ星にしている根拠は?

福田 アガリクスは、文献を調べると二重盲検で調べているのもいくつかありますが、どれも縮小効果は得られていません。QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)が高まったとか、多少免疫力を上げたという程度です。ある製品で肝臓がんの再発を予防したというデータもありますが、厳密な二重盲検試験ではないため、なんとも言えません。

鎌田 先生は、β-グルカンに免疫力システムを活性化する働きがあるのなら、リンパ性白血病や悪性リンパ腫などリンパ球の悪性腫瘍にはかえってよくないかもしれない、と述べていますね。

福田 それは素朴な疑問だと思います。もちろん、がんのメカニズムも免疫のメカニズムも複雑なので、リンパ球の悪性腫瘍にアガリクスやメシマコブが効く可能性は否定しませんが、欧米の論文では、免疫細胞の悪性腫瘍に免疫力を高める健康食品(サプリメント)は使用すべきでないとちゃんと書いています。ほかに治療法がないからとアガリクスをたくさん飲んでいるとき、免疫力を高めることが逆効果となって、免疫細胞由来のがん細胞を活性化させる可能性は否定できません。いずれにしろ、免疫を高めることを謳っているのであれば、免疫系の腫瘍にはとくに神経を使うべきです。
漢方でも、がんが進行しているとき、免疫だけを高めるやり方は普通しません。ほかの病気でも、たとえば炎症があるときは高麗人参を使うなということは昔から知られています。免疫力を賦活すると炎症がさらに悪化してしまうからで、やりすぎはよくないんです。ほかの成分もそうですが、普通の食事で摂るなら別に問題はなくても、サプリメントで大量に摂るときは注意が必要です。体というのは複雑で、あまりに賦活するようなことはかえって悪化する場合もあるんです。それなのに、悪化したら飲むのをやめるのが基本なのに、「悪化するのは足りないから、もっと飲め」といわれることが多い。健康食品だから副作用がないというのは誤りです。

鎌田 患者さんの中には何でもいいから免疫力を高めればいいと、免疫力神話みたいなものもありますね。β-グルカンは1つ星でしかないんだから、これにしがみついていれば必ず治るという保障はないんだということを、承知しておくことが大事ですね。

福田 値段も問題です。1カ月分が10万円以上もするものもありますが、それだけの価値はないですね。

抗酸化ビタミンが酸化剤になる危険性

鎌田 次に、βカロテンなどの抗酸化ビタミンはいかがですか?

福田 抗酸化ビタミンのがん予防効果の研究は、臨床試験のレベルで多くの検討がなされています。しかし、有効性を証明したものは少なく、「有効性が証明できなかった」あるいは「有害性が認められた」という結果に注意が必要です。とくに、アメリカが中心になって行った大規模な臨床試験の結果では「喫煙者に対しては1日20ミリグラム以上のβカロテンの投与は肺がんの罹患率を上昇させ、有害」というものでした。喫煙者の肺がんをなぜβカロテンが促進するかのメカニズムはまだ十分解明されていませんが、ひとつには抗酸化剤の2面性が関連している可能性が指摘されています。つまり、抗酸化剤は状況によっては酸化剤にもなりうるという点です。抗酸化剤はビタミンCなどの水溶性と、βカロテンなど脂溶性とがあり、水溶性のものは抗酸化剤として働いたあとは尿中に排泄されますが、脂溶性のものは排泄されずに体内にとどまり、酸化剤として働く可能性があるのです。また、飲酒もβカロテンの害を増強することが報告されています。このため、βカロテンのサプリメントの単独での摂取は勧められません。サプリメントとして摂取したいのなら、βカロテンだけでなく、リコピンやαカロテンなどいろんなカロテンを含んだ混合タイプを選んだほうがいいでしょう。

鎌田 サメ軟骨も1つ星の評価ですが、どのような効果が認められるんですか?

福田 基本的には血管新生阻害作用があるということですね。サメには軟骨が多く、軟骨には血管が乏しいので、軟骨の何らかの成分が血管新生を阻害する作用があるのではないかと研究がはじまったのです。実際にサメ軟骨の成分中に血管新生阻害物質が見つかり、抗がんサプリメントが開発され、人による実験でも臨床効果が示唆されるところまでいっています。ただし、普通のサメ軟骨の粉末の場合、体重1キロ当たり1~2グラム、つまり人間だと1日に50~100グラムぐらい摂らないと効果が出てこないという問題があります。それだけの量を飲もうとすると胃腸障害を起こすなどの副作用が強いので、とても飲めません。そこで、有効成分を数ccの液体エキスに濃縮した製品が作られ、販売されています。

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