新春特別対談 「がんばらない」の医師 鎌田實 meets 群馬大学教授・食の専門家 高橋久仁子

撮影:塚原明生
発行:2005年1月
更新:2019年7月

お刺身三切れに納豆。そして野菜をたっぷりと

鎌田 僕も今の健康ブームで危険だなと思うのは、健康そのものが目的になっていること。健康なら死んでもいい(爆笑)。

高橋 (笑)本当、健康なら死んでもいい。

鎌田 先生のご著書の中で、1日に必要な魚、肉類が少なくてびっくりしました。

高橋 皆さん唖然とするんですが、たんぱく質は55~65グラムくらいでいいんです。お刺身一切れが20グラムくらいですから、三切れ食べれば十分です。

鎌田 じゃ、刺身が出て肉が出たら?

高橋 もう食べすぎです。

鎌田 僕たちは知らない間に食べすぎている。

高橋 とくに病気のない方は、1回の食事にお魚一切れ、お肉一切れで、実は足りている。あとは野菜をたっぷり食べればいい。そのことは知っておいたほうがいいと思います。
ただ、お年寄りで肉も魚もきらい、卵も牛乳も食べないというような方は、低たんぱくになることもあります。あくまで相手がどういう方で、どんな食生活しているか見極めたうえでないと、食べすぎとはいえません。その点、今は世の中の情報が全部肥満防止に向かっているのも、困ったことだと思っています。

鎌田 牛乳を200cc以上とっていると大腸がんになる確率が15パーセント下がるとか、カルシウムを1日700ミリグラム以上とると大腸がんになる確率が下がるといったデータを見たのですが、どう思います?

高橋 牛乳を奨めるのは大腸がん予防だけでなく、トータルに体にいいと思います。牛乳1本(200cc)飲むと1日��カルシウム所要量の3分の1がとれますから。牛乳はできるだけとりたい食品ですから、異を唱えるつもりはありません。

鎌田 それじゃ、がんの患者さんによく利用されているサメの軟骨は? 最近、アメリカの臨床試験では、否定的な結果が出たみたいですが。

高橋 サメの軟骨の場合、カルシウムが多すぎるので、注意が必要だといわれます。

鎌田 高いお金で買って飲む必要はないということですね、ブルーベリーなどのベリー類は? がんにいいという話を読みましたが。

高橋 アントシアニン系の色素で、結局ポリフェノールですよね。

鎌田 要するに、赤ワインに近いものですか。

高橋 売りはそこです。ブルーベリー・エキスなどデータらしいデータもないのに、いつのまにか目にいいことになっている。コラーゲンを飲むと肌にいいというのも、データはありません。私は「ウソも百回言えば」と言っています。

鎌田 大豆のゴイトロゲンには血管新生物質ができるのを阻害する作用があって、がんの転移の予防にいいというのは?

高橋 ゴイトロゲンは甲状腺肥大物質です。もともと有毒成分として研究が始まったんですね。なのに近頃はがんの予防。何なのかと思います。
 ただ、大豆は否定しません。とくに納豆はいいですね。安くて消化がよくて、栄養的価値も高い。しかも、豆腐みたいにおからを除きませんし、発酵食品ですし。

鎌田 豆腐も同じようなものなのに、大事なものを除いているわけですね。僕たち、そういうことがわかってないんだな。豆腐も納豆も同じ仲間と思っていました。

高橋 ただ、「納豆はいい」と単純に言ってもいけないんです。大豆プロテインや大豆イソフラボンは乳がんの手術を受けた方はやめたほうがいいと、米国ではアドバイスされています。

鎌田 イソフラボンがいけない? 逆かと思っていました。

高橋 乳がんや前立腺がんの予防になるという話はあります。弱いエストロゲン作用でエストロゲンセプターにくっついてしまうので、強力なエトスロゲンと結びつかないとされているためです。でも、すでにがんになってしまった方については使用をやめておこうと、アメリカの文献ではなっています。
そもそも、大豆のイソフラボンは内分泌かく乱物質です。日本人は大豆を食べつけていて、イソフラボンに寛容なので抵抗がありませんが、欧米の研究者の中には目の敵にしている人もいます。日本人の食生活で「納豆食べるな、豆腐食べるな」とまで言う必要はないと思いますが、好んで食べるのはやめたほうがいいようです。

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